奥の手の代償
「チィッ」
イルマが舌打ちをしつつ距離を取って刀をかわすと、イルマに代わって部下の3体がリュウイチロウとクロキに迫り、猛攻を仕掛ける。
クロキもリュウイチロウも3体の攻撃をギリギリでかわし、リュウイチロウは1体の胴体を切断するも、その魔人が下半身を両手で持って切断面をくっつけると傷は直ぐに塞がり元通りとなった。
その一方でクロキは2体の部下の攻撃を受けていた。
クロキは攻撃を回避しながら身体に魔素を溜めると、一瞬動きを止めた。そして、2体が同時にクロキを襲う間際――
「スキル発動、浮葉」
2体の攻撃を回避し、それぞれに刀でカウンターを与えた。
しかし、2体にはかすり傷を負わせることしかできない。
「くそっ、これじゃダメか……」
クロキがイルマの部下から距離を取る。
その様子を上空から見ていたイルマが部下3体に大声で指示をした。
「クロキハ放ッテオケ! ソイツノ攻撃は俺タチニハ効カン。リュウイチロウダ、リュウイチロウヲ全員デ仕留メロ!」
イルマも合わせて4体が同時にリュウイチロウに向かっていく。
「クロキ、伏せろ! 忠勇義烈!」
とリュウイチロウは言って、身体を回転させながら刀を振った。
斬撃が長く伸び、イルマの部下たち3体に傷を負わせたが、部下たちの動きは止まらない。
「ならば、魔力装纏、忠魂義胆!」
リュウイチロウが地面に刀を突き刺すと、周囲に光の剣が降り注ぎ、イルマらにいくつも突き刺さる。
しかし、イルマらは頭部への命中を上手く避けたため、またも致命傷を与えるには至らなかった。
だが、隙は作った。リュウイチロウは強化した脚力で高く跳び上がると、1体の頭部目掛けて刀を突こうと構えた。と、そのとき、巨大化したイルマの部下が、リュウイチロウが狙った部下もろともリュウイチロウを叩き落した。
「ぐうっ……」
「リュウイチロウさんっ」
地面にめり込んだリュウイチロウを追撃しようとする魔人たちの前にクロキは立ち塞がった。
「リュウイチロウさん、俺が抑えます、先にデカブツを!」
「う……む、了解した」
リュウイチロウは、頭から血を流しながら身体を起こした。
その間に魔人たちがクロキに迫る。
クロキは魔人たちの攻撃をかわしながら空中に黒い粉をまき散らし、一体を真正面に捉えると、片手を筒状に握って口元に当て、手から火を噴き出した。火は黒い粉――火薬に引火し、周囲を明るく染める。
クロキが時間稼ぎをする隙に、リュウイチロウは刀を上段に構え、魔力で覆った。
「魔力装纏、忠勇義烈!」
そして、巨大化したイルマの部下に向かって振り下ろすと、斬撃が伸び、イルマの部下を縦に真っ二つに切断した。さらに、俊足でもう1体の巨大化した部下に接近し射程内に納めると、今度は横に薙ぎ、そのイルマの部下を胴体から真横に真っ二つにし、瞬く間に2体を葬り去った。
「ぐあっ!」
リュウイチロウの元までクロキが吹っ飛ばされて来た。
リュウイチロウは咄嗟にクロキを受け止めると、すかさずライフルを構え、魔弾を撃ち、魔人をけん制する。
「す、すいません……」
クロキは口元の血を拭いながら立ち上がった。
「次こそは仕留めるぞ」
そう言って魔人を見るリュウイチロウは肩で息をしていた。
そんなリュウイチロウを見て、イルマはほくそ笑んだ。
「ソノ姿……イツマデモ保テルワケデハナイヨウダナ」
イルマの言うとおりであった。リュウイチロウの奥の手、諸行無常は一定程度魔力を消費すれば効果が切れてしまう。効果が切れる魔力の消費まで後半分といったところ。そして、諸行無常の強力な効果には代償がある。
それは、効果が切れた後、保有する魔力量が半分以下になってしまうということ。一時的にではない、永遠にである。リュウイチロウは諸行無常を使うのは今回が初めてであった。その代償のために今まで使わなかったのだ。だが今、イルマを含む4体の魔人を倒すにはその代償を払わなければならないと判断したのだ。
だが、諸行無常を使用してもなお、4体の魔人相手を倒し切れない。
「コノママ攻撃ヲ続ケロ、イズレ魔力ガ尽キタ後、嬲リ殺シニシテヤロウ」
「ふん……いつまでも維持していられないのは貴様もだろう」
リュウイチロウがイルマに向かって言った。
イルマの目尻がピクリと動く。
「大層な再生能力だが、再生をする度に魔力が減っているぞ」
イルマは言い返さない。
それは本当であった。
「そうか、それで……」
クロキは魔力を感知できないため、魔力量が減っていることには気付きようはなかったが、大きな傷を再生した後、魔人たちの動きが僅かに鈍ることに気付いていた。
リュウイチロウが続ける。
「そして、おそらく時を迎えると、貴様らは死ぬ」
「……ナニヲバカナッ!」
イルマは否定した。イルマはそんな話は聞いていない。リュウイチロウがブラフで揺らしに掛かっていると思った。いや、思いたかった。
だが、自分の身体のこと。感覚が研ぎ澄まされたために、身体が変化していくのが分かっていた。
魔人化はおそらく丸一日が限度だ。一日が経過すると、強い力に身体が耐えられず崩壊する。そして、再生したとしても大きなダメージを受ければ崩壊までの時間はその分短くなる。
イルマもリュウイチロウも、後に引けない状態。
イルマは腹を括った。死が決定されているのであれば、もう迷う必要はない。
死を賭して、リュウイチロウを殺す。
「殺ス殺ス殺ス殺ス!」
4体の魔人がリュウイチロウに向かっていく。
「もう一度いく、いいな、クロキ!」
リュウイチロウは叫ぶや、地面に刀を突き立てた。
「正義の心にて、忠を尽くす。尽光の刃、忠魂義胆!」
空から光の剣が降り注ぎ、魔人たちに突き刺さる。
そして怯む魔人に一刀を与えようと、リュウイチロウは跳び上がった。
「バカメ、同ジ手ガ通用スルカ!」
イルマがリュウイチロウの動きを読み、リュウイチロウの背後に回って手刀を振り下した。
「当然だ、貴様ならそう来ると思った」
リュウイチロウは空中で身体を捻り、イルマを向いて刀を振り下した。
「ソレモ予想通リダ!」
イルマが回避し、リュウイチロウの刀は空を切った。
イルマは背後に移動した。目にも止まらぬスピードだが、リュウイチロウはしかと背中に気配を感じ、直ぐ様背後を振り返って刀を突いた。
「ギヤアアァァ!」
断末魔を上げたのはイルマ、の部下。
イルマが盾にした部下の頭部にリュウイチロウの刀が深く突き刺さっている。
「貰ッタアァァァ!」
イルマの手刀がリュウイチロウ目掛けて振り下ろされた。
リュウイチロウは刀で防ごうと刀を動かしたが、イルマの部下の頭部に深く突き刺さった刀は直ぐに抜けず、イルマの手刀はリュウイチロウの左肘から下を切断した。




