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シンジ暴走

 ファットランドの西南部に設置された監視塔の屋上では、ファットランドに近づく4人の人物に対し、警告を繰り返していた。


 その4人とはシンジとその仲間。


 シンジを先頭に監視の兵士に臆することなく、平然と壁に向かって歩いてきていた。


 そこに、監視塔を登ってオーウェンが屋上に到着する。


「あいつは、モンテの異邦人か。何の用だ」


 オーウェンは、汗を冷ますように指で詰襟と首の間に隙間を作りながら監視の兵士に威嚇射撃を指示する。


 シンジたちの足元に数本の矢が刺さり、シンジ以外は一瞬脚を止めるが、シンジは何事もないように壁に近づいてくる。


「ここはガーマン共和国の領地だ! これ以上近づくな、近づけば威嚇じゃなくなるぞっ!」


 オーウェンはそう叫び、眉間にしわを寄せながら指で眼鏡を上げた。


「全員に召集を掛けろ」


 オーウェンが指示をすると、1人の兵士が魔法石「リアル・エコー」をはめ込んだ装置を使用し、ファットランド全体にオーウェンの指示を伝える。


 ほかの監視塔にも同様の装置が置いてあり、その装置からオーウェンの指示を伝える声が聞こえ、兵士たちが戦闘の準備を始めた。


「ど、どうしますか、オーウェン隊長。撃ちますか?」

「ちょっと待て」


 オーウェンは指で眼鏡を上げながらシンジの歩みをじっと見つめ、シンジが壁まで5メートルほどのところまで来たとき、


「よし、撃てっ」


 と合図をした。


 合図とともに兵士五人が次々とシンジに向かって矢を放つが、シンジは虫を払うかの如く全ての矢を軽く手で払う。


「ど、どういうことでしょう、全く傷ついていません」

「いいから続けろ」


 驚きを隠せないでいる兵士たちに向かって、オーウェンは指示したが、激しい爆音が鳴り響いたかと思うとシンジはあっという間に壁を破壊してしまった。


 オーウェンは直ぐに監視塔から飛び降りて、土煙の舞うシンジの方向を見る。


「ここはガーマンの領地であるぞ。今すぐここから立ち去れっ!」


 しかし、オーウェンの言葉とは裏腹に、土煙の中から大きな火球が放たれ、監視塔の一つが木っ端みじんに破壊された。


「これは俺からの忠告だ、今すぐこの土地から出ていけ」


 殺気めいた表情で、シンジはオーウェンらファットランドの者たちに向かって言った。


「くそ、あいつは一体何を考えている。おい、直ぐにモンテ皇国に抗議を入れろ」


 そう言いながら、オーウェンとしては迎撃することを決めていた。


 オーウェンは徒手のまま構える。


 シンジもまた赤い龍を身体に巻き付けながら剣を構える。


 一触即発かと思われたそのとき、上空から風が吹きおろし、2人の間に飛空艇が着地した。


「お前ら……」


 シンジの見る先に、クロキが立っている。


 続いてカルロス、ヒース、イゴールが飛空艇を降りてくる。


「これ以上は駄目だ、城に帰るぞ」


 クロキがそう言うと、シンジは怒りを露にした。


「侵略を見過ごすっていうんですか。村の人たちが困っているのに無視しろって言うんですか」

「ここは、正式な手続きを踏んでガーマンの所有となった地だ。オルシェの村人も納得した話だ」

「村の人から話を聞くと納得しているとは思えない。それに、見ろ、この監視塔と、あの中央の建物を。ファットランドの外に武装した者がうろうろしている情報も鑑みると、彼らはここを拠点としてモンテに攻め込む気です。俺は歴史好きで日本史上の合戦は全部頭に入っている。だから分かるんだよ」


「私には、貴様が何を言っているか分からん」


 オーウェンが眼鏡を上げながら頭を振った。


 シンジはクロキ達を睨みつける。


「邪魔をするなら、あなた方も一緒に消し飛ばします」


 シンジはクロキ達に向かって手を向けると、龍の首もまた腕を伝ってクロキ達に向いた。


「火龍咆撃!」


 龍の口から、クロキ達に向かって業火が吐き出される。


「ウインド・バースト!」


 イゴールが魔法を唱え、強風で炎を押し返す。

 しかし、炎の勢いは強く、完全に押し返すことはできず、両者の中間でせめぎ合う。


「なんつう威力だよ。この野郎っ」


 イゴールが叫びながらシンジの魔法を防いでいる間に、クロキとカルロスが左右からシンジに向かっていく。

 カルロスは、赤い龍によってロープが焼かれると見るや、槍に持ち替え、全力でシンジを突く。


 クロキもまた刀を構え、シンジの鎧によって守られていない部分を狙って切りつけた。


 しかし、2人ともその手に肉を切る感覚がない。


 クロキとカルロスの2つの刃はシンジに触れはしたが、傷つけることはできなかった。


「残念だったな、俺のアビリティ、物理攻撃無効と状態異常無効の効果であなたたちの攻撃は俺には効かない」


 シンジの身体に巻き付く赤い龍の口から炎が噴き出し、クロキとカルロスを襲う。


 2人はすかさず距離を取った。


「おい、アビリティってなんだ、そんなものもあるのか」


 クロキがヒースに聞くと、


「いいえ、そんなものはないです。あれは、おそらく召喚時の副作用みたいなもので、突然変異的に体質が変わったのを、ゲームになぞらえてシンジさんがそう呼んでいるだけです」


 と、ヒースは答えた。


「それならば、土龍招来」


 今度はシンジの左腕から琥珀色の龍が現れる。


「土龍分身」


 龍の形をした岩が地面から無数に出現し、クロキ達に向かって来る。


 カルロスは岩の龍を槍で突くが、かたい岩石の身体に槍は折れてしまった。


「イゴールさん、援護を!」


 カルロスがイゴールに向かって叫ぶが、


「いやあ、そうは言ってもねえ……」


 とイゴールは困った顔をする。


 シンジの強大な魔力によって生み出された龍に対抗するには、イゴールも十分に魔力を費やした上級魔法を放つ必要があったが、イゴールはついさっきまで飛空艇を操縦し、その上ウインド・バーストを唱えたため、大幅に魔力を消費している状態であった。


「ここは、俺に任せろ」


 クロキはブーツのつま先で2度ほど地面を叩くと、助走を取って走り出し、その勢いで岩の龍につま先を突き刺すように廻し蹴りをする。


 クロキのブーツには鉄板が仕込んであり、岩の龍の頭部は砕け散った。


 クロキはその要領で次々と岩の龍を蹴り砕いていく。


「やりますね。まあ、ただの人形に手こずってもいられまい。ウォーター・スライサー」


 オーウェンの指先に水が渦を巻く。


 オーウェンが腕を振るうと、水が刃となって飛び、岩の龍を真っ二つにした。


 シンジは岩の龍たちが思ったよりも効果がなかったため、再び左腕を構え、


「土龍顕現」


 と、唱えた。


 シンジの身体に巻き付く琥珀色の龍が身体を離れ巨大化し、宙を浮きながら、そのまま単独でクロキ達を襲った。


 オーウェンは水の刃を飛ばすが、土龍の鱗を傷つけるばかりで、土龍の動きを止めることはできない。


 土龍は作物が実る畑へと激突すると、土龍が衝突した周囲から広範囲にわたって鋭角な岩石が隆起する。


「くそっ。せっかくの実りが。この分は、きっちりモンテに請求させていただきます」


 怒りながら隆起する岩石を回避するオーウェン。


 クロキはヒースを抱えて岩石をかわし、ヒースを離れた所に退避させると、ガントレットの具合を確かめる。


「そうか、いくら防御力が高くても」


 ヒースはクロキの一手に気付くと、クロキはうなずき、カルロスに合図をした。


「なんだ、何をするんだ」

「何をするかは知らないが、俺に何をしてほしいかは分かった」


 イゴールの疑問をよそに、カルロスはシンジに巻き付いた火龍から放たれる火球をかわしながら土龍の攻撃の死角へと回り込む。


 そして、腰のロープをほどき、シンジへとロープを放りながら、


「スネイキー・ロープ!」


 と、スキルを発動させた。


 カルロスの手を離れたロープはまるで生き物のように、飛び散る石や火球を避け、何重にもシンジに巻き付き、シンジは身動きが取れなくなる。


 シンジは、自身を拘束するものがロープであることに気付くと、火竜の身体から炎を発しロープを焼き切ろうとしたが、ロープには炎に耐性のある水属性の魔鋼によって作られた鉄線が編み込まれており、思っていたよりも燃えにくい。


 そうであっても、シンジの炎に触れ続ければ、いずれ、そう時間もかからず燃えてしまうだろう。


 拘束できるのは短時間。だが、それで十分だった。


 シンジはロープを燃やすことに気を取られ、気付いていなかった。


 クロキは、シンジの背後に回り込みながら、シンジの首にワイヤーを掛けていた。


 いかに防御力が高かろうが、脳に送られる血液が遮断されれば、気を失うのは生物として当然こと。


 クロキがシンジを無力化するため、シンジの首に巻いたワイヤーを締めようとした、そのとき、シンジの仲間たちが焦った様子で駆け寄って来た。


「オルシェの村が、襲われていますっ!」

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