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魔力操作の天才

「やはり、君と私の相性は最悪のようだ」


 オリバーはいつもの笑みを浮かべず、真顔でクロキに言った。


「相性……ね、そうか……そのようだな」


 クロキは一度深呼吸をして呼吸を整えた。


「見てのとおり、私は身体を動かすのが苦手だ、剣術はせいぜい並程度と言っていい。君には全く通用しないのが良い証拠だ」

「だが、あんたの魔法は、いや、魔力の扱い方は異常なレベルだ。俺が出会った奴の中で間違いなく一番上手い」


 オリバーはニヤリと笑った。それに気づくとはさすが、という意味も、その笑みには含まれていた。


 オリバーは、魔力の操作に置いて天才である。現代、この世界において魔力の使い方で右に出る者はいない。

 オリバーの魔力操作の緻密さは、通常の術者が数段階で威力を調整する魔法を無段階で調整し、魔法のコントロールにおいても、針の穴に魔法を発動させることも可能であった。

 それ故、普通の術者であればそう簡単に魔法をコントロールできない世界樹の近くという高濃度の魔素(マナ)の中にあって、問題なく狙いどおりに魔法を発動させることができるのであった。


 だが、オリバーの魔術師の至高たり得る要因はもう1つあった。


「ここまで4属性……か」


 クロキは確認するように呟いた。


 土、水、火、空気。オリバーはこれまで4つの属性を操っていた。異邦人を除き、4つの属性を得手不得手なく操ることができる者は当代において随一である。


「まさか後2つ、使えるなんてことはないよな」


 オリバーは何も答えない。クロキも返答を期待してはいなかった。そんな手の内をさらすような真似をこの男がするわけがない。

 しかし一方で、オリバー自身も言っていたように、剣術など身体を動かすことについては、並。ひいき目に見ても中の上といったところ。


 オリバーの知る中で、クロキの体術は突出している。魔法もスキルも無しで戦った場合、クロキに勝てる者をオリバーは思いつかなかった。

 接近戦となればオリバーに勝ち目はない。だが、オリバーが絶え間なく魔法で攻撃をし続ければ、魔法を使えないクロキはかわす以外になく、オリバーが有利となる。


 魔法に突出した者と、体術に突出した者。


 オリバーが、相性が悪いと言った所以である。


 クロキもオリバーとの相性を認識していた。だがクロキの感想はオリバーとは異なる。

 お互いに相性が悪いということは、お互いに相性が良いとも言える。

 オリバーが使う魔法は全て魔術書に記載されている魔法。それらは全てクロキの頭の中に入っていた。オリバーの手の内を知っていると言っても過言ではない。


 頭をフル回転させろ。

 数百種類の魔法をオリバーは全て使えるものと思って次の手を予測し続けろ。

 およそ人の為せる業とは言えないが、それができれば、クロキは100パーセント、オリバーに勝てる。


 クロキはもう一度深呼吸をした。脳に酸素を回し、思考を開始する。


 が、ふと、違和感が身体を襲う。


 視界が歪む。


 めまいに続き、吐き気がクロキを襲う。

 まさか――


「ドミネイト・エア……」


 空気を支配する魔法ドミネイト・エア。

 下級の空気系魔法であり、その効果は空気を操作すること。

 通常は僅かな空気の流れを作って、日常生活で使う焚火の勢いを操作したり、淀んだ空気を浄化したりするという使い方で、戦闘には適さない、言うなれば「使えない魔法」とされている魔法であった。

 だが、オリバーが使えばドミネイト・エアは恐ろしい魔法となる。


 空気を操作するということは、空気を組成する気体の割合を操作することも含まれる。しかし、そのためには尋常でないレベルの緻密な魔力コントロールと並外れた集中力が必要であり、それはオリバーだからこそ可能な芸当であった。

 オリバーは、自分の体の表面から20センチメートルの範囲を除き、周囲の空気に含まれる酸素の割合を徐々に減少させていた。

 クロキの周囲の空気中の酸素の割合は現在約17パーセント。これが16パーセント切れば、いよいよ戦闘の継続は不可能となるであろう。


「ハッハハ……さて、この危機(ピンチ)をどう切り抜けますか? まさか、これで終わりではないでしょう」




「禁断の地」では、レオポルドとモニカに向かって、シャールークが投げた剣が襲い掛かっていた。

「姐さんは下がって!」


 レオポルドがモニカの前に出て、ハンマーで剣を弾いた。

 が、弾かれた剣はシャールークの腕の動きに合わせて空中で回転すると、再びレオポルドに向かって行く。


「いつもよりぃ、細かい動きはさせにくいけどよぅ、問題ねぇなぁ」


 シャールークの固有魔法ザ・チェイスはもともと操作する武器1本当たりに消費する魔力量が少ない。そのため、魔素(マナ)が高濃度であっても武器の操作への影響はほとんどなかった。


「行っくぜぇっ!」


 シャールークはもう1本剣を投げ、空中を舞う2本の剣を操りながら、片手に剣を握ってレオポルドとモニカに向かって走り出した。

 襲い来る2本の剣をハンマーで弾き、レオポルドはシャールークを迎え撃つ構えを見せた。


 と、バルトとともに背後の藪に隠れていたヒースが思わず身を乗り出す。


「ダメです、ここで――」


 ヒースもまた、ウランと同じようにこの場所での戦闘を止めようとした。


 バルトの家に泊まった夜。ヒースはバルトの家が所有する様々な石碑や古文書を読んだ。その中で、「禁断の地」では特に魔法を使うことが忌避されていることをヒースは知った。

 それは逆に、伝説によって畏怖される「禁断の地」といえど、そこで魔法を使用しなければ何らかのトラブルに巻き込まれるリスクが低いとも言えた。

 それ故に臆病なヒースも、バルトの案内に従って「禁断の地」へと脚を踏み入れたのだ。


 だが、今、目の前で正に戦闘が繰り広げられている。

 止めなければならない。


 ヒースはそう思って戦闘を止めようとしたが、躊躇った。

 レオポルドとモニカは、ヒースを敵の攻撃から守って戦っているのだ。そんな二人に戦うな、などと言えるものか。


「いえ……レオポルドくん、彼の手にハンマーを触れさせてはダメです。彼に操られます!」


 ヒースはレオポルドにシャールークの魔法についてアドバイスをした。

 このまま「禁断の地」で戦闘を続ければどうなるか分からない。だが、今は、襲い来る敵から身を守ることだけを考える。


 ヒースの声に、レオポルドとモニカは身構えた。


「レオ、接近させない方がいいわ」


 モニカのアドバイスにレオポルドは頷くと、シャールークに向かってファイアー・ボールを唱えた。

 数個の火球がレオポルドの手から放たれたが、やはり火球はコントロールできずに予期せぬ方向へと飛んで行く。だが、下手な鉄砲も数を打てば当たるという言葉通り、五つに一つはシャールークに向かって飛んで行き、シャールークの動きを阻害することができた。


「レオ、その調子よ」


 モニカの言葉通りにレオポルドは火球を飛ばし続ける。


 ヒースの言うとおりなら、接近戦に持ち込まれれば、レオポルドとモニカは圧倒的に不利となる。飛んで来る剣をハンマーで捌きながら、遠くから魔法で攻撃するのが最善手。


「とにかく魔法を撃ち続けなさい。撃ち続けながら魔力の調整をしていくの。いいわね」


 モニカがそう言うやいなや、シャールークの背後にいたプリヤンカが杖を掲げ、


「ファイアー・ボルテックス!」


 と唱えると、渦を巻いた炎が一直線にモニカに向けて放たれた。

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