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クロキVSオリバー

「お前は下がってろ、ここは危ねえ」


 オウギュストはウランを物陰にやろうとしたが、ウランはオウギュストの手を握って放そうとしない。


「ダメです。ダメなのです、ここで争いをしては……!」

「ああ……? どういうことだ」

「ここは『禁断の地』、ここで争うことは禁忌とされています。戦いを止めて、お願い!」


 ウランが言い終わるや、レオポルドが放ったファイアー・ボールの1つがコントロールを失い、ウランとオウギュスト目掛けて飛んで来る。

 オウギュストが咄嗟に槍で火球を切り払うと、火球の陰からエリアスがオウギュスト目掛けて突進してきて、槍を突く。

 オウギュストはウランを庇いながらエリアスの槍を凌いだが、かわし切れず腕に掠り、血が飛び散った。


「オウギュスト!」


 ウランが思わず叫ぶ。

 オウギュストはエリアスの懐に飛び込むと、槍を握るエリアスの両手をかち上げつつ体当たりをしてエリアスの体勢を崩し、エリアスの心臓目掛けて槍を突いた。

 が、エリアスはオウギュストの槍を払い、再びトルネードを唱え、わざと暴発させて突風を巻き起こしつつ距離を取った。


「ウラン! いいから下がっていろ、いくら俺らが戦いを止めたくっても、奴らがそれを許しちゃくれねえ!」

「で、でも……!」

「何が起きようと、俺が……俺らがお前を、この地を守ってやる、だから、下がっていろ。いいな! 隠れてるおっさん、任せたぞ!」


 オウギュストの言葉にウランが後ろを振り向くと、いつの間にかにそこにはウランの叔父ニケルがおり、ウランの腕を掴んで無理やり物陰へと引きずり込んだ。


「ニケル叔父さん……」


 ウランを自分の後ろにやりながら、ニケルは物陰から「禁断の地」で起きている戦闘に目を凝らす。


「ウラン、あの男の言うとおりだ。もう言葉で止められる状況じゃあない。成り行きを見守る以外にないんだ」


 ニケルの説得にウランは唇を噛んだ。


「それに、この状況……」

「おじさん?」

「い、いや……何でもない」


 ニケルは言葉を止めた。

 この状況はニケルが心の片隅で望んでいた展開。


 そして、一昨日の晩に届いた手紙の送り主は、なんと、オリバー。そのオリバーがここにいるなど、もはやニケルには運命としか思えなかった。

 後は、守護の一族の、それも正当な後継しか知らない口伝の伝説どおりであれば――ニケルはウランの母が存命の時代に、たまたまウランの母から聞いたことのある、あの伝説が本当であることを祈っていた。




「さて、ここは彼らに任せて私は次の目的に向かいます。あなたと、ええと、あなた、ついてきなさい。他の者は彼らの援護を」


 そう言うと、オリバーは二人の兵士を引き連れて、世界樹の方向へと歩き出した。

 だが、10メートル程行った所で、後ろを歩く二人の兵士が倒れる音が聞こえ、オリバーは振り向いた。


 そこにいたのは低く屈んだ体制のクロキ。


「逃がさねえよ。お前とカミムラの関係、聞かせてもらうぜ」


 いつの間に接近されていたのか。オリバーは予想外のクロキの出現に驚くと同時に、なぜか思わず笑みが零れた。


「キミに、できますか?」


 瞬間、クロキの刀がオリバーを襲う。オリバーはステッキで刀を受け、数歩下がって距離を取ると、クロキ目掛けてステッキを振った。

 空を斬ったステッキの先は銀色に輝いている。


 仕込み杖。

 オリバーのステッキはその内部に刃を仕込んだ暗器となっており、ただのステッキと思い生身で受ける敵に致命傷を与えるのが定石であった。


 が、クロキは受けずにかわした。

 クロキはオリバーのステッキを動かす仕草、地面に突いたときの音、そして、刀を受けたときの感触で、仕込み杖であることを見抜き、オリバーがステッキを振る動作を見て、刃を抜くことに勘付いたのだ。


「はは……やりますね」


 オリバーはそのままステッキを振ってクロキをけん制しようとしたが、クロキはあっさりと刀でステッキを切り払うと、オリバーの懐に入り、首を狙った。

 そのままオリバーの首が斬られるかと思いきや、オリバーが指を鳴らすと、周囲に突風が巻き起こり、突然の突風にクロキはバランスを崩し、刀が空振りする。

 オリバーは突風によって吹き飛ばされる格好となったが、付近の低木が伸びてきてクッションのようにオリバーを包み、オリバーは怪我1つなく着地した。


「お前……」


 クロキが目を細めてオリバーを見る。


「どうかしましたか?」


 オリバーが飄々とした表情でステッキを手元でクルリと回して地面に突いた。


 おかしい。

 オリバーの魔法がきちんと発動している。魔素(マナ)が高濃度であるにもかかわらずだ。


 皆、思うように魔法を使うことができず四苦八苦しているというのにオリバーはここまで一度も暴発せずに、しかも高精度で魔法を発動している。

 ふと、クロキは思い出した。オリバーと初めて出会ったダニ・マウンテンでの戦いの折、火と風の複合魔法である火を纏った高威力のトルネードに対し、オリバーはエア・イクスパンション一つでそのトルネードを消し去ってしまった。


「魔力のコントロールが、尋常じゃない……」


 クロキの呟きに、オリバーはピクリと反応し、微かに笑った。


「ふっ……」


 オリバーはスティックを指揮棒(タクト)のように振るうと周囲の樹の枝が伸び、クロキに絡みつこうとする。

 クロキは刀で切り払いつつ、動きを止めずに跳び回って逃げ、隙を見てオリバーに跳びかかった。


「吹き出せ、マギア・ゲイザー」


 スティックの動きに合わせて、クロキの行く手を阻むように地面から高音の蒸気――間欠泉が発生し、クロキが立ち止まるとクロキの足元でさらに間欠泉が発生した。

 水蒸気が止み、クロキの視界が開けると、オリバーはスティックの先をクロキに向けて魔力を込めていた。スティックの先に炎が集中し、


「さあ、噛み殺しなさい、フエゴ・ティグレ」


 と唱えると、虎の形の炎がクロキに襲い掛かり、クロキとともにその周囲を激しく燃やした。

 クロキは間一髪、虎の形の炎をかわしていたが――


「甘いですよ、メネオ・ラマ」

「ちっ……」


 周囲の樹々から伸びた無数の枝が、クロキの身体を拘束した。


「さあ、これで――」


 オリバーがクロキに向かってさらに魔法を放とうとしたとき、クロキの右腕のガントレットに仕込んだ魔法石エクスプロージャンが爆発し、右腕を絡めとっていた枝を引き千切った。そして、右腕に握った刀で身体を絡めとる枝を切断して自由になると、再びオリバーに向かって行った。


「やりますね、ですが……ん?」


 オリバーがステッキを振ろうとした瞬間、いつの間にか放たれていたナイフに気付き、ステッキで防いだ。


 その間に接近したクロキの刀がオリバーの額を掠め、次いで二太刀目、と思ったが、


 ガンッ


 という音とともに、オリバーの腕を覆う岩石に刀が阻まれた。

 土系魔法アームド・ロック。


 一瞬動きが止まったクロキを見逃さず、オリバーはステッキに仕込んだ刃を抜いてクロキに向かって斬りかかる。

 クロキは咄嗟に身体を動かして避けたが、ステッキの刃から放たれた風の刃がクロキの背後の枝を切断した。

 しかし、クロキは動じず、右手の刀を逆手に握り直し、オリバーの胴目掛けて刀を振った。が、オリバーが岩石で身体を覆ってカ防御すると見るや、刀をフェイントにして左手でオリバーの左わき腹に拳をめり込ませた。


「うぐ……」


 オリバーはステッキでクロキの腕を払いのける。

 クロキは追撃しようとしたが、いつの間にか足元が凍りついており、脚が前に出なかった。


 その間にオリバーは距離を取った。先ほどクロキの刀がかすった額から血が滲み、垂れる。オリバーは懐から出したハンカチで血を拭うと、綺麗に折りたたんで再び懐にしまった。

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