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遺跡の捜索

「えー、では、これから調査を始めたいと思います」


 翌朝、朝食を片付けた後、ヒースの指示で、ヒース、モニカ、レオポルド、バルトの四人と、クロキ、ディック、オウギュスト、ウランの四人の二組に分かれ、アトランティスの歴史や伝説に関する遺物、この世界で一般的に禁忌と呼ばれる超古代文明の魔法に関する物などを捜索することとなった。


 アトランティスの首都は広大な都市である。建物跡を一つ一つつぶさに調べていっては、時間がいくらあっても足りるものではない。

 ヒースは、バルトから聞いた首都の概観を基に、おおよその調査エリアを区切り、エリアごとに二組で分かれて調査を開始した。


 途中で昼食休憩を挟み、夕方まで捜索したが、アトランティス帝国の生活が分かるような日用品の遺物にヒースが興奮したのみで、初日は特に、カミムラの目的を知る手掛かりとなりそうなものは見つからなかった。


 そして、2日目。

 2日目は、街の奥を中心に一行は調査を再開した。


 ヒース組は、昼まではひと際大きな4階建ての建物の中を上から下まで調べていたが、やはりヒースのお目当ての物は見当たらない。


「ヒースさん、本当にあるの? 古代文明の超技術なんて」


 レオポルドが疲れたという風に地面にしゃがみ込んで言った。

 ヒースは額の汗を拭いながらレオポルドを振り向いた。


「すいません……正直なところ分かりません。ですが、カミムラ氏の計画には古代文明の技術が関係していることは間違いないんです」


 ヒースがアトランティス大陸に来たかった理由は、古代文明の、この世界の歴史を解き明かすことであったが、それはカミムラの計画を解明することにつながるとヒースは考えていた。

 レオポルドが「疲れたぁ」と一歩も動かない様子であったため、ヒースたちは少し休憩を取ることとした。


 モニカが水筒からカップに水を入れて全員に配ると、レオポルドが脚をブラブラさせながら聞いた。


「ねえねえ、アトランティス帝国の超スゴイ技術ってさ、何なんだろうね」

「レオは何だと思う?」


 モニカが聞くと、レオポルドは少し考えて、


「アトランティスはすごい発展した都市で、人の数も多かったんでしょ? 僕はね、いくらでも食べ物が出てくる魔法だと思うな」


 ヒースとモニカは思わず笑った。


「もしそうだったら誰も飢えることがなくなるわね。素晴らしいわ」


 レオポルドが笑われたことにムスッとする。


「何だよ、笑うなよぉ、そういうモニカ姐さんは何だと思うの?」

「そうねえ……」

「お料理、洗濯、掃除……何でもやってくれる魔法人形とか?」

「アハハ……姐さんも僕と変わんないじゃないか」


 レオポルドがそう言って笑っていると、バルトが立ち上がった。


「ここからは、もう少し奥に行ってみましょうか」


 そう言ってバルトが指を差す方向には世界樹が見える。ヒースも立ち上がって聞いた。


「そっちには何があるんですか?」

「ここから世界樹の方角には、祭祀場の跡と言われている場所があります。いわゆる『禁断の地』ですね」


 禁断の地――バルトの姉ウランが言っていた、脚を踏み入れてはいけない地。「禁断の地」と呼ばれるからには相応の理由があるとヒースは考えていたが、バルトは、


「何か財宝でも埋まっているんですかねえ」


 と、特に何も考えていないようであった。




 一方、クロキ組もカミムラの計画の鍵となりそうなものを発見できずに遺跡の中を歩き回っていた。


「おーい、一旦休憩しねえか?」


 オウギュストが槍を肩に担ぎながら前を歩くクロキとディックに向かって言った。

 ディックが振り向く。


「ふっ……どうした、疲れたのか?」

「いや、俺は大丈夫だけどよ……」


 とオウギュストがさらに後ろを振り向くと、息を切らしながら少し離れた距離をついて来るウランの姿があった。

 クロキもウランの様子に気付き、脚を止めた。


「そうだな……少し、休むか」


 体力のあるクロキらのペースに、むしろよくついて来たというべきか。クロキらは少し開けた所で各々石に腰を掛け、しばし休憩することとした。


「そう言えば、ウランさんは自分のことを『守護』って言っていましたが、具体的に何をしているんですか?」


 クロキがウランに聞いた。


「そうですね……私の一族は先祖代々、守護としての役割を担っていますが、遡れば4,000年以上前、この地でまだ人々が豊かな暮らしをしていた頃に、祭礼をつかさどる神官の役職にあった一族であったと祖母からは聞いています。そのためか、私たちの住む町とその周辺のいくつかの集落を取りまとめる領主のような役割を担っており、世界樹様への祈祷のほか、『禁断の地』を含むこの遺跡の管理をしています」


 ウランはピクリとも表情を変えずにゆっくりと語った。

 今のウランの話で、ウランがこの遺跡を管理していること、つまりこの遺跡に詳しいことに違いないことが判った。それ故に1つの疑問が浮かぶ。


「ウランさんは、アトランティス帝国の、その……超技術について何か知らないのですか?」


 クロキが質問すると、ディックがクロキを見てうなずいた。どうやらディックも同じことを考えていたらしい。

 遺跡に詳しいのであればヒースとクロキが探しているものがどこにあるか見当がつくはず。にもかかわらず、ウランは何も言わずクロキの後ろをついてきて、クロキが聞いたときにだけ、今いる建物跡の説明をしてくれるだけ。何か、別の目的があるような気がしてならなかった。


「……さあ、祖母からもそんな話を聞いたことはないわ。私は案内ではなく、監視役。あなた方が『禁断の地』に入らないように監視するために来たのよ」

「全く……やっぱり固いな、もっと気楽に行こうぜ」


 ウランの隣に座っていたオウギュストが笑いながらウランの背中を叩いた。ウランはムッとしてオウギュストを睨んだ。


 クロキもディックも「禁断の地」が気になっていた。何人も脚を踏み入れてはならない地。そこにクロキらが追い求める「何か」があるのではないかと考え始めていた。

 ディックはウランをチラリと見たが、ウランは、大きな声で笑うオウギュストを邪魔くさそうにあしらっているだけで、特に不審な点はない。


 ふと、急にクロキが鋭い目つきで近くの茂みを見た。


「どうした?」


 不思議そうに聞くディックをよそに、クロキは立ち上がり、茂みに向かって言った。


「おい、出て来い、今朝から後を付けやがって、気付いていないとでも思ったか? 一昨日、俺たちを捕まえに来た奴だろう」


 ディックも剣の柄に手を掛けて茂みを睨んだ。オウギュストはウランを庇うようにウランの前に立つ。

 しばらくの静寂の後、クロキは痺れを切らして足元の石を茂みに向かって投げると、「痛っ……」という声とともに碧い上着を着た男が茂みから出て来た。

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