衝撃のカーディナル
「来ないなら、こっちから行くぜ」
カーディナルが再び拳に衝撃を乗せ、地面を抉った。再び地面を走る衝撃がクロキを襲い、先ほどと同じようにクロキは跳んで回避し、カーディナルはクロキに接近する、と思いきや、カーディナルはクロキの真上に跳んだ。
「ウインド・カッター！」
カーディナルは落下しつつ風の刃を連続で放つ。クロキは魔法石エア・ライドを使用して、空気で創った足場を蹴って風の刃をかわしたが、クロキが着地した真正面に、空気系魔法スウィフトで加速したカーディナルが着地した。
体勢が整わないクロキの顔の前にカーディナルの悪魔のような笑みが広がる。
クロキは直ぐにカーディナルと距離を取ろうとしたが、カーディナルはまたもや魔法で加速し、今度はクロキの側面を取り、掌底を放った。
しかし、移動速度は加速しているが、攻撃速度は変わらないため、クロキは、身体を反らして掌底を回避すると、そのまま右足を振り上げて、カーディナルの頭部に蹴りを放った。
カーディナルは先ほどと同様に、カーディナルがネイセイヤーを発動するタイミングを外すために、クロキが蹴りを寸止めすると思い身構えたが、今度は逆にブーツの踵に仕込まれた魔法石エクスプロージョンの爆発により即加速。
またもやタイミングを外され、カーディナルは衝撃を放つ間もなく固いブーツの直撃を受けた。
それまで静かにクロキとカーディナルの戦闘を見ていたアッシュも思わず身を乗り出す。
あの速度で頭部に蹴りを受けて無事で済むものか。
だが、カーディナルは身体を大きく傾けながらも倒れない。カーディナルはクロキの蹴りが命中する寸前で、左肩で受けていた。
「クハッ……楽しませてくれるぜ！」
カーディナルはそう言いながら右腕を大きく振るい、掌底を放ったが、クロキは後方に向かって宙返りをしながらかわしつつ、ナイフを数本投げた。
カーディナルは左腕でストームを放とうとしたが、クロキの蹴りを受けた左肩に激痛が走り左腕が動かせない。その代わり右腕で首元をガードし、ナイフが急所に命中することを防いだ。
その間に、クロキはナイフを一本、自分の目の前に放り投げると、ガントレットからワイヤーを伸ばし、ナイフの柄の端に開いた穴にワイヤーの先の留め具をはめ、ワイヤーをナイフとつないだ。
「今度はこっちから行くぜ」
クロキはナイフをつないだワイヤーを右腕で振り回し、カーディナルに向けて投げ飛ばした。
「俺には効かねえって！」
カーディナルは右腕を振ってストームを放ち、ナイフを弾いた。だが、クロキはワイヤーを巧みに操って再びナイフを振り回し、カーディナルに向かって投げ、カーディナルはまたもや右腕を振ってストームを発動させる。
その繰り返しが少し続いていたが、徐々にカーディナルのストームの発動がナイフの動きに追いつかなくなってきた。
カーディナルの疲労もあるだろうが、クロキが少しずつワイヤーの長さを短くしながら距離を詰めていた。
操るワイヤーの長さが短くなれば、当然速度も上がる。
しかし、クロキとの距離が縮まっていることに気付いたカーディナルは、逆にチャンスと直感した。この距離ならば、ひと呼吸で、ワイヤー付きナイフの攻撃の隙をついて接近することができる。
「もらった！」
カーディナルが脚を踏み切り、瞬く間にクロキの眼前に迫る。完全にワイヤー付きナイフの間合いの内側、のはずであった。
カーディナルの目の前でナイフが舞い、顔面に傷をつける。
「甘いな！」
クロキは瞬時にワイヤーを巻き取り、ワイヤーを短くして対応していた。そして、再びワイヤーを伸ばしつつ、カーディナルと距離を取る。
何の武具も持たないカーディナルに刃物を防ぐ手段はない。それがカーディナルの弱点であり、今まさにその弱点をつかれ窮地に陥っていた。
この状況を脱する最も有効な方法は、空気系魔法トルネードやエア・カーテンで空中を舞うナイフの動きを阻害すること。だが、カーディナルは、魔法を長時間維持することが圧倒的に不得手であった。
そして、その分瞬間的な魔力の放出に長けていた。
「ク、ハハ……やっぱり、お前、面白いぜ……」
全身に傷を負いながら、カッと目を見開くと、
「スウィフト！」
と、クロキとの距離を詰める。
「おらぁっ！」
ナイフに滅多打ちにされながら、カーディナルは拳を握り、衝撃を込めてクロキに向かって放った。
「くそが……！」
クロキは呟きながらバックステップでかわす。カーディナルの拳は空振りしたが、何度もクロキを追い掛けては拳を振るった。クロキはかわしながらもナイフを振り回し続け、カーディナルはナイフで傷を受けながら、それをものともせずに悪魔の様な笑みで突進を続ける。
「ちぃっ……イカレ野郎！」
「クハハッ！ 俺はなぁ、今、楽しくってたまんねえんだ。止められねえんだよ！」
カーディナルはそう言うとこれまで以上に大きく振り被った。
ここに来て大きな隙。
クロキはカーディナルの眼を狙うためワイヤーを操作しようとしたが、ワイヤーの動きに違和感。背後を見ると、壁が近くに迫っていた。
気付かぬ間に壁際まで追い詰められていたのだ。
「ちぃっ……」
「クハハハッ！ ぶっっっっっっっっっっっっっっっ壊れろぉぉぉ！」
クロキが間一髪かわすと、カーディナルの拳が闘技場と観客席の間の壁に突き刺さり、一瞬の間を置いて、壁に衝撃が走る。衝撃は瞬く間に壁を走り、闘技場を囲む壁全体が崩壊した。
「ふぅ……」
飛び散る壁の瓦礫の中、クロキは一つ息を吸って、再びワイヤーを振り回そうとしたが、ワイヤーが動かない。
「っ……！」
「つっかまえた」
カーディナルの腕にワイヤーが巻き付いている。クロキがワイヤーを引くと、カーディナルの腕に血が滲むが、それよりも――
「喰らえっ、ネイセイヤッ！」
「ちっ……」
クロキが咄嗟にガントレットを外すと、カーディナルの手からワイヤーを衝撃が伝ってガントレットが粉々に破壊された。
そしてカーディナルが空気系魔法スウィフトで即座にクロキとの距離を詰める。このチャンス、逃さない。まずは確実に一撃を与える。
