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剣を使う技術

 エンジは咄嗟に振り返りつつ刀でディックの剣を受けようとしたが、フレイム・ソード・スラッシュの威力に刀は弾かれ、左腕を肩から肘に掛けて深く斬られた。


「片手では、威力が出んな……」


 ディックは右手で剣を下段に構えながら、真っ直ぐにエンジを見ながら間合いを図る。


 エンジは、左腕を血に染めながら、両手で刀を握り、ディックと同じように下段に構えて、ディックの動きに集中する。

 左腕の傷は深いが、動かせないことはない。出血量はディックの左肩の傷より酷いが、動かすことができる分だけアドバンテージはまだ自分にある、とエンジは考えていた。

 それよりも、鎧を脱ぎ捨てたことによるディックのスピードアップが脅威であった。


 一瞬でディックが距離を詰め、エンジを攻め立てる。瞬発力だけでなく剣を振るう速度も上がっている。エンジは何とかディックの攻撃を耐えつつ、一瞬の隙を突いてスワロウ・スラッシュを放ったが、刀を振り下ろす前にディックはエンジの側面に移動しつつ、エンジの太ももを斬り、その後のエンジのスワロウ・スラッシュのラッシュをことごとく回避し、エンジに傷を刻んでいった。


 エンジの得物は身の丈ほどの長い刀。剣速ではディックのトップスピードには到底かなわない。

 だが、エンジもまだあきらめたわけではない。


「フレイム・ソード・デストロイ・スラッシュ!」


 ディックが必殺のデストロイ・スラッシュを放とうとしたところを狙って、


「全てを弾け、フィフス・フォーム!」


 エンジが身体の前で壁を作るように刀を回転させる。

 ディックの攻撃が強ければ強いほど、フィフス・フォームで弾いたときにディックの態勢を大きく崩すことができる。その瞬間がチャンスだ。

 が、ディックのデストロイ・スラッシュはフェイントであった。


 ディックはエンジがフィフス・フォームを発動させた直後、デストロイ・スラッシュの構えを解いて一度バックステップでエンジから離れると、肩の動かない左腕の肘から下だけを上げ、左手の5本の指からそれぞれ小さな火球を放った。


「ウィルオ・ウィスプ!」


 5つの火球は指から離れると、一旦大きく散り、エンジのフィフス・フォームの盾の外側からエンジを襲った。

 エンジは咄嗟に刀を動かして2つの火球をフィフス・フォームで弾き、2つをかわしたが、残る1つが背中に直撃し、爆発した。


 だが、エンジも大したもの。フィフス・フォームで防いだ2つの火球はきっちりディックの方向へと弾き返し、ディックの追撃を阻止した。


 エンジは焼け焦げた上着を引きちぎって脱ぎ捨てると、肩で息をしながら、再び下段に構えた。左腕は動くといっても、傷は深く、上げると強い痛みが走る。


「強いな……」


 思わずエンジの口をついて出た。

 ディックは右手に握った剣をだらんと下げ、構えずに間合いを確かめるようにゆっくりと歩く。


「貴様の秘剣、見事」


 ディックの賛辞にエンジの口元が上がる。


「だが――」


 ディックの続く言葉に、エンジの笑みは消えた。


「俺の剣の方が上だ」

「拙者の剣はお主の剣に劣ると?」

「いや、貴様の秘剣……剣の技は、俺の技よりも優れている。それは認めよう。だが、剣を以て戦う術は俺には及ばん」

「使う技がいかに優れていようと、使い方が未熟ならば……ということか」

「未熟とは言わんがな」

「お主と比べれば未熟ということであろう」


 ディックは何も答えなかった。

 エンジは微かに笑った。認めたくはないが、認めざるを得なかった。この状況が紛れもない証であった。


「良い……どちらが上かは、決着を以て知るべし」


 二人が纏う空気が変わる。一瞬で深く、最深まで集中する。


「いざ!」

「おう!」


 最期は一瞬であった。

 二人がすれ違い、互いの剣が一閃した。


 物心がついたときから、朝も昼も夜も、うだるような酷暑の日も、耳が千切れんばかりに凍てつく日も、父が死んだ日も、母が死んだ日も、勝負に勝った日も、敗けた日も、ただ一心不乱に秘剣スワロウ・スラッシュを鍛錬してきた。だが――


「剣を使う術は、まだ未熟であったか……感謝するぞ、焔の剣士」


 エンジは口から血を流し、前のめりに倒れ伏した。


 ディックは剣についた血を脇に挟んで拭い、鞘に納めると、振り返りエンジを見た。


「見事であった。これで、俺の剣はまた高みへと上る」


 ディックは脱ぎ捨てた鎧の元に歩いて行こうとしたが、不意によろつき、壁に寄り掛かる。

 左肩の傷が痛むのはもちろん、最後のエンジの一閃は、ディックのわき腹を掠めていた。内臓までは達していないが血が流れている。


「くそっ……受け過ぎたか」


 ディックはわき腹の傷を押さえながら、ゆっくりと歩き始めた。




 カーディナルの拳が地面を抉ると、固有魔法ネイセイヤーのよる衝撃が地面を走りクロキを襲う。

 ネイセイヤーによる衝撃は空気を伝導しない。空中であれば衝撃波の影響を受けないと、クロキはジャンプをして衝撃をかわしたが、カーディナルはそれを待っていたかのようにクロキとの距離を詰め、空中で回避することのできないクロキに向かって掌底を当てようと右手を引いた。


「クハハハ……死ねや!」


 耳まで裂けるかと思うくらいに口角を上げ、カーディナルが笑う。

 だが、クロキは空中姿勢で思い切り息を吸いこみながら右手を筒の形にして口に当てると、思い切り息を吐いて右手から火炎を噴き出した。

 思わぬ攻撃にカーディナルは怯む。その間にクロキは着地すると、左手で逆手に握った刀でカーディナルを斬りつけた。だが――


「……っざけんなぁっ!」


 とカーディナルが咆哮。身体から衝撃を放とうと構える。刀がカーディナルに触れれば、放たれた衝撃が刀を伝ってクロキにはダメージを受ける。

 クロキは寸前で刀の軌道を変えようと考えたが、どうやってもカーディナルを掠ってしまうと察し、そのまま刀を振り抜き、カーディナルの胸元を斬った。


「クハハハ!」

「ちぃっ……」


 左腕にもろに衝撃を受けて刀を落としたクロキを見て、カーディナルが高らかに笑う。


 カーディナルが受けた刀傷も浅いものではないが、ようやくまともにクロキにダメージを与えられたことの喜びが勝っている。

 衝撃を受けたクロキの左腕は熱を帯び、ひどくダルい。力が全く入らず、手を握ることも、腕を上げることもままならない。


 カーディナルは胸元の刀傷から溢れ出る血を手で拭うと、拭った血をクロキの顔目掛けて飛ばした。

 当然クロキは血をかわそうと身体を倒したが、カーディナルはその瞬間を狙って掌底を放った。クロキは動かせない左腕を盾にするように身をよじって掌底をかわし、転がるように距離を取った。


「お前、凄いな、何つう判断だよ、もう左腕を庇う意味はないってか?」


 クロキの判断にカーディナルが感嘆する。


 カーディナルの掌底は左腕をわずかに掠っていたが、もともとダメージのある左腕。さらに衝撃でダメージを受けてもさほど変わらない。だが、左腕が胴体に触れていたせいか、左腕を伝って衝撃が身体まで及び、腹部がわずかに熱を帯びている。


 少しでも触れればダメージを負うカーディナルの固有魔法ネイセイヤー。


「さて……どう攻めるか」


 しかし、クロキはいたって冷静。口と右手を使って力の入らない左手に黒い包帯を巻き、無理やり拳を作りながら、攻め手を考える。

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