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続・秘剣スワロウ・スラッシュ

 ディックとエンジの斬り合いは既に5分以上続いている。


 エンジの秘剣スワロウ・スラッシュはディックに見切られ当たらなくなっていた。一方でディックの剣はエンジの身体を掠め、エンジはその身に傷を増やしていく。

 エンジの攻撃はスワロウ・スラッシュに偏り過ぎている。しかし、それもエンジの作戦のうち。スワロウ・スラッシュにディックが慣れたと見るや大きく刀を振った。


「スワロウ・スラッシュ・セカンド・フォーム!」


 スワロウ・スラッシュ・セカンド・フォームは岩をも砕く鋭鋒の刃。

 エンジの刀が石の柱とともに天井を切断し、ディックの真上に天井が落下してくる。

 ディックはエンジと距離を取り、落ちてくる天井をかわし、左手の指から火系魔法ウィルオ・ウィスプを放とうとしたが、その前にエンジは間合いの外から刀を振るう。


「スワロウ・スラッシュ・サード・フォーム!」


 スワロウ・スラッシュ・サード・フォームは天をも斬り裂く伸暢(しんちょう)の刃。

 元々長い刀身を風の刃が包んでさらに間合いを伸ばし、ディックを襲う。

 ディックはスワロウ・スラッシュを回避しつつ、フレイム・ソード・バイパー・チェーンで迎撃しようとしたが、廊下の狭さに断念し、フィジカル・ゾーンによって強化した脚力でエンジとの距離を詰め、数度斬りかかった後、振り被った。


「フレイム・ソード・スラッシュ!」


 ディックもまた、岩をも斬り裂く必殺の剣を放った。

 それに対し、エンジは刀を盾のように回転させる。


「スワロウ・スラッシュ・フィフス・フォーム!」


 スワロウ・スラッシュ・フィフス・フォームは全てを弾く堅甲の刃。

 ディックの炎の剣が弾かれ、ディックはバランスを崩す。


「もらった、スワロウ・スラッシュ!」


 スワロウ・スラッシュ・ファースト・フォームは、鳥をも落とす神速の刃。

 エンジが振り下ろした刀がディックの鎧を直撃し、その衝撃でディックが体勢を崩して数歩後ろに下がったコンマ数秒後、ディックの頭部を見えない斬撃が襲う。

 ディックは間一髪頭を下げて斬撃を回避し、その後に続くエンジの連撃もギリギリで回避し続けた。


 再びディックの意識がスワロウ・スラッシュの見えない斬撃に傾き始めたのを見逃さず、エンジは切っ先をディックに向け、突きの構えを取った。


「スワロウ・スラッシュ・シックス・フォーム!」


 スワロウ・スラッシュ・シックス・フォームは鉄をも穿つ無形の刃。

 ディックは突きを剣で弾こうとしたが、エンジの剣筋が蛇のように曲がりくねってディックの剣をかわし、鎧を貫通してディックの左肩に突き刺さった。


「なん、と……!」


 痛みに顔を歪めるディック。エンジは刀を両手で握り力を込める。


「スワロウ・スラッシュ・フォース・フォーム!」


 スワロウ・スラッシュ・フォース・フォームは竜をも散らす烈波の刃。

 刀の切っ先から風の刃が吹き荒れ、ディックの鎧を粉々に砕く。


 寸前でディックは右肩から刀を抜き、直撃は免れていた。

 だが、直撃はせず、フィジカル・ゾーンで耐久力を向上させていたにもかかわらず、左肩に深い抉り傷が創られた。


 ディックは左腕を動かし、肩の状態を確認する。

 流血多し左肩は動かないが腕は動く。いや、動かそうと思えば動かせるが激しい痛みが走る。


「さて……」


 モニカとの戦闘では発揮できていなかったようだが、エンジの本領は接近戦。ディックがこれまで出会った剣士の中でも剣の腕は、1、2を争うと言っていい。

 だが、それよりも重要なのは――


「固有魔法を複数……貴様、いくつ持っている」


 エンジは口に咥えたクローバーを上下に動かしながら、自慢気な顔でディックを見た。


「スワロウ・スラッシュの型は6。これまで見せたので全てだ」

「……手の内を明かす奴がいるか」

「フ……我が曽祖父より受け継いだ秘剣を偽ることの方が罪というもの」


 秘剣スワロウ・それぞれの(フォーム)は、これまでの使い手――エンジの曽祖父、祖父、父が編み出したものである。

 曽祖父がファースト・フォームからサード・フォームまでを編み出し、祖父がフォース・フォームを、父がフィフス・フォームを、そして、エンジ自身がシックス・フォームを編み出した。

 本来、固有魔法は、生み出した本人以外が使うことは困難である。だが、スワロウ・スラッシュの各フォームは、一つの固有魔法からの派生であり、そして、スワロウ・スラッシュを生み出したのが血縁者であったことにより承継が可能であったのだ。


「では、続きと行こうか」


 エンジがディックに接近し、刀を振るう。振るった刀と、スワロウ・スラッシュによる追撃する斬撃が、連続でディックを襲う。

 ディックは右手で握った剣でエンジの攻撃を受け、かわし、そして、距離を取る。それに対してエンジは間髪入れずサード・フォームで遠距離からディックを狙う。ディックは横に避けてかわすと、接近してきたエンジが突き――フォース・フォームでディックの喉元を狙ったが、ディックは後ろに向かって飛び跳ねて距離を取ってかわした。


「どうやら、拙者の剣の方が上のようだな」


 エンジが刀を握り直しながら、息を整えた。微かに浮かぶ笑みに、勝利への確信が含まれている。


「油断するなよ」


 ディックの呟きに、エンジの顔から笑みが消える。


「油断……だと?」


 エンジは自分を戒めた。確かに今、油断していたかも知れない。だが、戒めと同時に、見透かされたことを恥じ、そしてそれは、苛立ちへと変わる。


「忠告、痛み入る! なればこのまま、お主を斬る!」


 エンジはサード・フォームで遠距離から刀を連続で振るった。ディックは左右にかわしつつ、エンジに接近する。

 先程までと同じ流れ。エンジはディックが接近してきたところで、強力な攻撃を仕掛けてくればフィフス・フォームで攻撃を弾き、そうでなければシックス・フォームで突き刺そうと考えていた。

 そして、エンジの作戦通り、ディックが通常の剣の振りを見せたため、刀の切っ先をディックに定め、シックス・フォームを放った。

 剣も盾も避けて相手の身体に突き刺さるガード不可のシックス・フォーム。エンジが狙い定めたとおりに、刀はディックの鎧の心臓の位置を突き刺した。


 だが、エンジの刀が突き刺したのはがらんどうとなった鎧。

 中身――ディックが消えた。ディックは寸前で、魔法によって鎧をパージしていたのだ。


 エンジの眼の前にディックが脱ぎ捨てた鎧が音を立てて地面に落下する。その落下音を合図にしたかのように、鎧を脱ぎ捨て軽装となったディックがエンジの背後から、


「スラッシュ!」


 と一層大きく炎を燃え上がらせた剣――フレイム・ソード・スラッシュを放った。

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