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色を決める者

 オウギュストは咄嗟に振り向き、背後の少女のナイフを槍の柄で受け止めた。

 そのナイフには蝶の意匠。


「キャハハ、私の相手、してくれるんでしょ!」


 背後の少女――始めからいた少女がオウギュストの背中をナイフで斬りつけた。


「うっぜえ!」


 オウギュストは槍を大きく振り回し、前後の少女を振り払った。

「キャハハ」

「どうやって殺そうか」

「ね、どうやって殺そうか」


 少女二人が並ぶ。

 見れば見るほど瓜二つ。どう見ても双子。


「なんだい、あんたら双子かい?」


 マーゴットが少し驚いたように声を出した。


「私はタイム」

「私はエルム」

「「私たちの攻撃に耐えられるかしら」」


 エルムとタイムが一糸乱れぬ動きで同時にオウギュストに向かって行く。


 一方で、クロキによって組み伏せられているイザークは意識が薄れ掛かっていた。敗北を拒む強い意志によって足掻いてはいるが、もう間もなくイザークの意志とは関係なく落ちるだろう。


「ぐぅ……こ、このまま、終わると思うなよ、お、俺の魔法シェイムⅡで……」


 イザークが自身の固有魔法を発動しようとしたとき、マーゴットの脚がイザークの頭を上から踏み付けにし、イザークの頭が強く床に叩きつけられた。


「そろそろ良いだろ。あんたの顔はもう見飽きた」


 マーゴットは、そのまま数度イザークの頭を踏み付ける。

 ゴッ、ゴッ、という嫌な音が鳴り響き、ついにイザークは頭から血を流しながら意識を失った。


「……よし、これで良いだろ、行っておいで」


 マーゴットが手の平をパタパタと動かし、クロキを追いやる仕草をした。


「ああ、後は頼むぞオウギュスト」


 クロキがそう言って走り出すと、オウギュストはエルムとタイムに槍を向けながら、


「ああ、行ってこい!」


 とクロキの背中に向かって叫んだ。




 マーゴット側の控室では、戦闘に参加できないヒースと魔力を大きく消費したレオポルドとモニカが残って闘技場の様子を見守っていた。


 ヒースとレオポルドはただ不安そうに闘技場を眺めるばかりだが、モニカは、マーゴットを探しに行ったオウギュストも、いつの間にかにいなくなっていたディックとイザークも、なかなか戻って来ないことに不穏な空気を感じ、オウギュストと別れて行動せずに、自分たち三人もマーゴット探しに行った方が良かったのではないかと思い始めていた。


「あ、見てください、クロキさんです」


 ヒースが指を差す方向を見ると、ゆっくりと開いた闘技場の入り口から黒い装束のクロキが入って来るのが見えた。

 クロキは一人。オウギュストもマーゴットも一緒ではない。

 モニカの不安は募るばかり。ただクロキの勝利を願うしかなかった。




「クロキ……」


 名を呼ぶハワードに向かってクロキは手を上げ、アッシュとカーディナルの元まで歩いて行く。


 アッシュは片手で鍔広帽を押さえながらクロキに向かって礼をするように会釈をした。


「出て来てくれて良かった。もしも出て来てくれかったら、とんだ道化になるところでした」


 その横で、カーディナルが腕を組みながらクロキを見て笑った。


「こいつがあんたの言っていた男か? 意外と小っちぇな、クハハ」


 二人の言動にいくつか疑問はあるが――


「まるで、俺を引き摺り出すのが目的だったみたいだな」

「ええ……」


 アッシュはステッキをクロキに向けた。


「数日前、私の部下が三名、モンテ皇国の首都ネロスに入りました。そして、任務に失敗し、三人とも死亡したのですが、そのうちの一人の遺体が問題でしてね、河原に身体の一部だけを見つけたのです」


 そこで、アッシュは一呼吸置いた。


「私のモットーは死者への敬意です。どんな方法で殺そうが構わない。だが……死んだ者に対する辱めは何があろうと許さない」


 アッシュが氷のような眼差しでクロキを射した。

 凍てつくような寒気がクロキの背筋に走る。この世界に来て初めて、殺気に当てられて身震いした。


「それじゃあ……あんたは」

「私はアッシュ。『色付き(コロラト)』の色を決める者(リーダー)です」


 やはり、暗殺者集団「色付き(コロラト)」の関係者か。

 アッシュの言う三人とは、スマルト、マルーン、タンジェリンの三人のこと。身体の一部しか見つからなかったのは、おそらくマルーンのことであろう。


「マルーンとあなたが戦ったことは把握しています」

「つまり、俺に報復したいと……」

「その通り!」

「フ……」


 クロキが鼻で笑った。アッシュは怪訝な顔をする。


「何か?」

「いや、『色付き(コロラト)』っつっても大したことねえな、って」

「どういう意味でしょうか」

「誰が茶髪の野郎を殺したか、分かんないんだもんな」

「ほう、では、あなたはご存じであると……?」

「いや、残念ながら俺も知らん」


 そうは言いながら、何となくの見当はついていた。マルーンを殺ったのは、少なくともモンテ皇国の騎士ではない。「色付き(コロラト)」同士で仲間割れをするとも思えない。ならば消去法で「爪」ということになる。そして、「爪」のリーダー、バリーと対峙したとき、バリーの装束は湿っていた。


「フフ……」


 今度はアッシュが笑った。


「そうですか、ならばとりあえずあなたを殺して、本当に真犯人がいるのなら、それから真犯人を探して殺すまでです」

「なあ、おい、もう良いか?」


 クロキとアッシュのやり取りを聞いていたカーディナルが詰まらなそうに口を開いた。


「正直よ、俺は別にマルーンのことなんざどうでも良いんだがな……クハハ、俺はただ強え奴をぶちのめせればそれで良い」

「フ……話が長過ぎましたね。良いでしょう、そろそろ始めましょうか」


 そう言うと、アッシュは踵を返して第4回戦で破壊された闘技場の壁から観客席へと上り、一番前の席に腰を掛けた。


「じゃあ、始めようぜ!」


 カーディナルがクロキに向かって掌底を放った。


「奴の衝撃は、鎧を貫通するぞ!」


 咄嗟にハワードがクロキに向かって叫ぶ。

 クロキは掌底をガードせずに回避したが、カーディナルの掌底の小指が右肩を掠めた。しかし、掠めただけにもかかわらず、クロキに強い衝撃が加わり、クロキはその衝撃によって一回転してしまった。

 体勢を立て直し、カーディナルを見る。


「……っ!」


 掠っただけの右肩が熱を帯び、ダルい。

 おそらく奴の魔法なのだろうが、中国拳法の内功のような効果であるようだ。


「はっ、休んでる暇はねえぞ」


 カーディナルがクロキを攻める。両手で放たれる掌底をクロキは掠らせもせずに回避していたが、不意に放たれた蹴りを腕で受け、動きが止まったところに鳩尾目掛けて掌底が放たれた。

 しかし、カーディナルの掌底が止まる。クロキの指にナイフが握られ、カーディナルの掌底を狙っていた。


 カーディナルの動きが止まったところを、クロキは回し蹴りで吹っ飛ばしつつ、手に握ったナイフを投げつけた。


「ちっ、ストーム!」


 カーディナルが前方に向かって手を振ると 突風が巻き起こり、ナイフを弾いた。

 その間にクロキはカーディナルの死角に移動し、カーディナルの斜め後ろから左拳で殴りかかった。


「クク……」


 しかし、カーディナルは死角からのクロキの攻撃に気付きつつも、なぜか受けるそぶりを見せない。

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