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場外乱闘

「増援か……」


 クロキはそう呟きながら、後ずさりでマーゴットに近付いて行く。

 先にアーロンの手下を倒し、イザークを一人にしてから相手にするというクロキの作戦であったが、見直さなければならなくなった。


「へへ……まだまだこっちが有利なようっスね」


 イザークは鼻血を拭いて、空中に向かって剣を数度振るい、張り巡らされたワイヤーを切断した。

 クロキはナイフを投げてイザークをけん制したが、イザークはナイフを剣で打ち払い、マーゴットに向かって行こうとする。クロキは再度ナイフを投げ、イザークの脚を止めようとしたが、つい意識がイザークに向いてしまった。


 少女は、自分から意識が離れたと気付き、イザークとは反対方向からマーゴットに飛び掛かった。

 その瞬間、少女の背後から火球が襲う。


「危ないっ、エンチャント・ウォーター!」


 少女は空中で振り向きつつナイフを水で覆い、火球に向かってナイフを振るうと、火球は十字に切り払われた。


「なーんか、トラブってるみたいだな」


 着地する少女の見る先に立っていたのは、上着の前をだらしなく開け、槍を肩に担いだ男――オウギュストであった。




 イザークを追いかけて控室を出たディックは、イザークを見失い、廊下を歩き回っていた。


 控室を出るときのイザークの様子にただならぬものを感じた。そして、ディックの勘は的中し、イザークは既にアーロンに寝返っていたが、ディックはそれを知る前に、一人の男と遭遇する。

 前髪を垂らし、一ッ葉のクローバーをキザっぽく咥え、コートを肩に掛け、長い刀を携えた男――エンジが、ディックの進む廊下の先に背中を向けて立っていた。


 なぜ、こんな所にいるのか。ただならぬ雰囲気にディックは無意識のうちに警戒した。

 その警戒は、微かな殺気を含んでいたのだろう。エンジはディックに気が付き振り向いた。


「お主、マーゴット殿の……」

「貴様は、エンジであったか。悪いが先を急ぐのでな、通してもらおう」


 そう言ってディックは警戒しながらエンジに近付いて行くと、エンジはその場から動こうとはせず、刀の鞘でディックの行く手を阻んだ。


「何のつもりだ」


 ディックが横目でエンジを睨む。


「どの道お主は斬らねばならん。予定とは異なるが、ここで手合わせ願おう」

「何……?」


 エンジが神速の居合抜きでディックを斬りつけた。ディックは一太刀目を回避し、二太刀目は剣を抜いて受け、距離を取った。


「言っている意味が分からんぞ」

「そうは言いながら、お主口元が笑っておるぞ」


 確かにディックの口元が微かに笑っていた。


「拙者と剣を交えたかったのであろう」


 エンジの言うとおりであった。

 第3回戦でモニカと戦ったエンジを見て、剣士として手合わせしたいと思っていた。まさか実現するとは、僥倖。


「ああ……そうだ」


 ディックが剣を構えた。


「フフ……そうか……拙者もだッ!」


 エンジがディックに斬りかかる。


「秘剣スワロウ・スラッシュ!」

「フィジカル・ゾーン!」


 エンジが刀を振ると、時間差でディックを斬撃が襲う。ディックはフィジカル・ゾーンで強化した身体能力で、エンジの攻撃をかわしていく。


「フハハ……お主、やるな。これは、道に迷った甲斐もあったというのもの!」

「道に迷った?」


 エンジはハッとして、一旦距離を取った。


「う、うむ……今のは聞かなかったことにしてくれ」


 エンジはアッシュからの依頼によりマーゴットの暗殺に向かいながら、生来の方向音痴がたたって道に迷っていたところをディックと遭遇したのだ。


「貴様がここにいた理由など、最早どうでも良い。貴様の剣技、堪能させてもらうぞ」


 ディックがエンチャント・ファイアを唱えて剣をその場で数度振るうと、剣が炎に包まれた。

 第3回線では見せなかった、ディックの真の攻撃スタイル。

 それを見てエンジは嬉しそうに笑った。




「あなた、ドリスおば様に負けた人ね」

「ああ……?」


 オウギュストが片眉を上げて、少女を威嚇する。

 敗けたことは事実だが、改めてそのことを指摘されると、腹が立つ。


「なんだクソガキ、大人を舐めんじゃねえぞ」


 少女に対していきり立つオウギュスト。堪えかねて思わずマーゴットが声を出した。


「あんたは、一体なんでこんな所にいるんだい」

「お、おお……そうだ」


 オウギュストが我に帰って、クロキを指差した。


「闘技場で大変なことが起きてんだ」


 オウギュストは、闘技場でアッシュがカーディナル対クロキのエキシビジョンマッチを宣言したのを受けて、マーゴットとクロキを探しに来たことを説明した。


「それで来てみれば……なるほど、あの帽子野郎の言っていたことが合点いった」


 イザークがクロキに剣を向けているのを見て、アッシュが試合をしていない者がエキシビジョンマッチの闘技者であると言いながら、イザークに触れなかった理由を理解した。


「なるほどね……それは、アッシュって野郎の一存だろうが、行動の目的が分からないねえ」


 そう言いながらマーゴットはクロキを見た。アッシュの企みにみすみす乗るのは気に食わないが、この状況で全員を闘技場に向かわせることもできない。


「仕方ないね、クロキは闘技場に向かいな」


 マーゴットがクロキに指示をした。


「良いのか?」


 クロキが確認すると、


「こっちはオウギュストがいるから大丈夫さ、ねえ」


 とマーゴットはオウギュストを見た。


「お、おう、俺に任せておけ、おばさ――」


 マーゴットがオウギュストをギロリと睨む。


「マ、マーゴットさんは俺がきっちり守ってやるぜ」


 オウギュストが槍を構えた。


「ならば、せめて……」


 クロキはそう言って、低い体勢でイザークに向かって行く。


「こいつぐらいは、片付けて行こう」


 イザークがクロキを迎え撃つため剣を横に振るうと、クロキはさらに低い体勢で剣をかわしてイザークの両足にタックルし、その勢いのままイザークを持ち上げて、捻りながら頭から地面に叩きつけた。

 うつ伏せに倒れるイザークの上にクロキは覆いかぶさり、イザークの剣を持つ手を固定しつつ、背後からイザークの首に腕を回し、頸動脈を圧迫した。


「あの人やられそう……仕方ないから助けようか」


 少女がイザークを助けようとしたが、


「おっとぉ、お前の相手は俺だっての」


 とオウギュストが少女に向かって槍を横に薙いだ。

 少女はナイフで槍を受け止めたが、オウギュストのパワーに吹っ飛ばされる。


「あらら、思ったより強いわね」


 そう言いながら、少女は焦る様子もなく、空中を舞うように回転し、難なく着地した。


 オウギュストは唇を舌で一舐めしながら身体の周りで槍を回転させると、槍を短く持って構えた。

 近い部分を持ったのは少女の速い動きに対応するため。少女の動きの速さには、大振りの攻撃はまず当たらないと見た。


「遅いわよ、エルム」

「ごめんね、服にお茶を零しちゃって」


 いつの間にかオウギュストの背後に少女がもう一人。目の前の少女と同じ顔、同じ髪型、同じ体格、同じ服装の少女。ただ一つ違うのは、背後の少女の胸元に紅茶を零した染みがあること。

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