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エキシビジョンマッチ

 闘技場の雰囲気とは反対に歓喜に湧き立つマーゴットらのもとに、アーロンの手下が訪れた。身なり良く、丁寧な雰囲気の男は笑顔でマーゴットに頭を下げる。


「マーゴット様、おめでとうございます。つきましては、我が主より引継ぎをさせていただきますので、ご同行願いますでしょうか」

「そうかい、分かりましたよ、っと」


 マーゴットは、吸っていたタバコを椅子のひじ掛けに押し付けて消すと、


「ああ、ちょっと、クロキ一緒に来ておくれよ」


 と声を掛けた。


 クロキは返事をせずに、アーロンの手下を一瞥してからマーゴットの後について控室を出て行った。

 控室に残された者の中で、気付いたのはディックだけであった。


 マーゴットが控室を出た後、ひっそりとイザークも控室を出て行ったことに。

 その行動を不審に思い、ディックもまたひっそりと控室を出て行った。


 廊下を歩きながら、クロキはアーロンの手下に聞こえないようにマーゴットに耳打ちした。マーゴットはヒールを履いているため、マーゴットは少し頭を倒してクロキの話を聞く。


「おい、迂闊じゃないか。このまま奴らが黙っているとは思えんぞ」


 しかし、マーゴットは涼し気に笑みを浮かべる。


「虎穴に入らずんば、ってさ、言うだろ?」


 ふと、闘技場のざわめきが大きくなり、廊下にいるクロキにも聞こえて来た。

 マーゴットは、遠く見るような視線で、


「それに、あそこにいたって、危ないのは同じこと」


 と言った。




 控室でも闘技場の異変に気付いていた。


「どうしたんだ、あれ」


 レオポルドが指を差す先では、帰ろうとした観客が観客席の出入り口で渋滞している。どうやら出入り口のドアが封鎖され、押しても引いてもビクともしないようだ。

 数人の観客が、観客席から闘技場に降りて闘技場の出入り口から出ようと試みるが、やはり扉は開かない。

 ハワードは係の者の肩を借りて闘技場から出ようとしていたが、やはり扉が開かずに闘技場に残されたままとなっている。


 すると、突然アーロン側の闘技場の扉が開き、中折れ帽を被った男――アッシュがステッキを片手に闘技場に入って来た。

 闘技場に降りていた観客が走ってアッシュの出て来た扉から出ようとしたが、直ぐに扉が閉まり、またビクともしなくなる。


 アッシュは、楽しそうに混乱する観客たちを眺めた後、両手を開いた。


「皆さま、本日はご来場いただき誠に感謝いたします。さて、先の試合でこのたびの勝敗は決しましたが、まだまだ皆さま物足りないことと存じます。そこで、この後、特別にエキシビジョンマッチを行いたいと思います」


 観客たちにとっては謎の男であるアッシュの突然の宣言に、観客たちは一層ざわめく。

 観客の思いを代弁するかのようにハワードがアッシュに食って掛かった。


「おい、貴様、どういうつもりだ。エキシビジョンマッチなど聞いておらんぞ」


 アッシュは笑みを浮かべたまま答える。


「ええ、つい先ほど決まったことですので」

「マーゴットの意見を聞くまでもない。悪いがそっちで勝手にやってくれ。今すぐ出口を開放しろ」

「いえ、申し訳ありませんが、お付き合い願います。エキシビジョンマッチのルールを説明します――」

「おい、待て!」


 ハワードの制止も聞かず、アッシュは淡々と進める。


「勝敗はどちらかが死ぬか、戦闘不能となるか。そして、マーゴット・ファミリーの闘技者が勝利した場合は、外に通じる出入り口を全て開放します」


 ハワードの額を汗が伝った。

 勝利をした場合は、解放される。では――


「敗けた場合は?」

「全員死んでもらいます」




「奴は一体何を言っている!」


 控室でアーロンが椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、ガラスに手を当てて闘技場のアーロンを睨みつける。

 もちろんアーロンもエキシビジョンマッチなど聞いていない。ましてや観客を含め皆殺しなどとは寝耳に水。まさか、アッシュの言う「全員」には、自分も入っているのか。

 アッシュがアーロンを殺す理由などないのだが、アーロンはアッシュの考えが分からず疑心暗鬼に陥り、逃げようと控室の入り口に向かったが、扉はビクともしない。


「アッシュ……アッシュ、アッシュ、アーッシュ!」


 アーロンはアッシュの名前を叫びながらひたすらドアノブを上下に動かした。




 闘技場に続く廊下から脇に入ると、闘技者も観客も利用できるサロンスペースがある。いくつか並べられた円形のテーブル。その一つだけが埋まっていた。


「ほっほっほ……アッシュの奴、何か始めおったな」


 第2回戦に登場した、「元」鉄血将軍ヘルムートが楽しそうに笑う。

 その横にはドリスが座り、そのまた横では第1回戦に登場した挽裂嬢アリサがドリスの作ったクッキーを貪っていた。


「これ、美味いな。あたい、この赤いヤツが一番好きだ」


 ドリスのクッキーはプレーンな黄色のものの他に、赤と緑のものがあった。アリサは赤色のクッキーがお気に入りらしい。

 ドリスが嬉しそうにほほ笑む。


「あら、良かったわぁ、それはねキャラットペーストを練り込んでいるの。ほら、まだあるから、もっと食べなさい」


 キャラット――クロキの世界で言うところのニンジンである。


「キャラット……? ウソ、あたい、キャラット嫌いなのに……」


 アリサはそう言いながら、ドリスがバッグから出した追加のクッキーを両手に持って食べ始めた。


「それにしても、エンジちゃんはどこに行ったのかしら」


 ドリスは、第3回戦に登場した剣士エンジが少し前から姿が見えないことを気にしていたが、アリサが口いっぱいのクッキーを飲み込み、


「エンジなら、やることがあるって、どっか行った」


 と言うと、ヘルムートが笑った。


「ほっほっほ……そうかい、儂も祭りに参加したいのう……」

「まあまあ、ヘルムートさんはもうお年なんですから、無理しちゃダメですよ」


 ドリスがヘルムートを嗜めると、ヘルムートは残念そうにティーカップに口をつけた。




 闘技場では、アッシュのエキシビジョンマッチのルール説明を受けて観客が騒然となっていた。

 ハワードが緊張の面持ちでアッシュに聞いた。


「闘技者は? 戦うのは誰だ?」

「お互い試合をしていない者。こちらは、そうですね……」


 アッシュが闘技者を指名しようとしたところで、闘技場の入り口の扉が勢いよく開いた。

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