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鞭使い

 ルールを聞いたマーゴットは口を半開きにしたまま固まり、タバコの灰が床に落ちた。


「ヘヘ……これは、辛いッスね」


 イザークがそう言うと、マーゴットは我に帰り、イザークを見た。


 イザークの言うとおりだった。

 スキルを禁止されると、土系魔法アームド・ロックからのスキル・リジェクトにつなげるハワードの必勝のコンボが使えない。


「ちくしょう……こんなルール……」


 明らかにハワードの戦力を削ぐためのルールであった。




「いやーん、スキルが使えないと大変だわぁ」


 白々しく困った仕草をするオーキッドに対し、


「俺は、構わん」


 とハワードは落ち着いていた。


「ふーん……」


 オーキッドは、マジマジとハワードを眺めた。

 不利なルールに多少は動揺しそうなものであるが、この落ち着きよう。腹を括っただけか、それともスキル無しでも戦える自信があるのか。


「それじゃ、始めましょうか」


 オーキッドが数歩後ずさると、ハワードも数歩後ずさった。

 ハワードのバスタードソードの間合いの外。そこが試合開始の位置とレフェリーも観客も感じ取った。


「で、では……試合、開始!」


 レフェリーの合図とともに、ハワードがバスタードソードを振り上げてオーキッドに迫る。

 オーキッドは余裕の表情でバスタードソードをかわすと、続くハワードの連撃もステップを踏むようにかわしながら、自身の腰に手を当てた。そして、一瞬で何かを引き抜いて、そのまま腕を振ると、ハワードが衝撃でよろけ、鎧が筋状にヘコむ。


「頭を狙ったんだけど、よくかわせたわね」


 オーキッドの手に握られていたのは鞭。

 鼠色に輝く鞭は、革ではなく、どうやら金属で作られているようだ。そのため、ハワードの鎧を大きく傷をつけることができたのだ。

 材質が金属で重量があるにもかかわらず、オーキッドの振る鞭の速度は高速で、ハワードの眼では鞭の先を捉えきることができなかった。


「さあ、行くわよ」


 オーキッドが鞭を振り回しながら、一歩ずつハワードとの距離を詰め始めた。

 ハワードは表情を変えずに、オーキッドの歩みに合わせて一歩ずつ後退していたが、オーキッドから離れた位置でバスタードソードを大きく振り上げ、


「グランド・クラッシュ!」


 と叫びながらバスタードソードを地面に叩きつけた。

 地面――石畳がオーキッドに向かって一直線に爪のような形状で隆起していく。


「あら、やるわね」


 オーキッドは素早く身をかわす。

 鞭の攻撃が途切れた隙に、ハワードがオーキッドに向かって駆け出した。


 見た目に反してスピードが速い。だが、オーキッドは慌てることなく体勢を整え、まんまと射程内に入ったハワードを迎撃すべく鞭を振るった。

 音速を超えるスピードで宙を舞う鞭。観客はもちろん、控室で見守るクロキたちもその軌道を視認することはできない。

 だが、鞭はハワードの鎧の肩をかすめ、破壊したのみ。オーキッドが外したものと誰もが思ったが、オーキッドは確かにハワードの頭部を狙っていた。


 初手をかわしたハワードは、そのままオーキッドとの距離を詰め、バスタードソードを振るう。

 オーキッドは動揺しつつもバスタードソードをかわしたが、刀身の長いバスタードソードが腕を掠める。

 ハワードが続けてオーキッドを攻め立てる。その距離は鞭を当てるには近すぎるため、オーキッドは距離を取り、鞭を振り上げた。


「あら……?」


 ハワードの鎧に、先ほど地面を隆起させたときに発生した石片が張り付き、鎧の上にさらに岩石の鎧を創り出した。


「アームド・ロック……行くぞ」

「かっこいいじゃない」


 オーキッドがハワードに向かって鞭を振り回す。ハワードのスピードは落ちているため、鞭は当て放題だ。が、しかし――


「うそ……どんだけ硬いのよ」


 鋼鉄の鞭がハワードに命中しても、鎧を包む岩石が削れるのみ。鎧には損傷がない。また、重量が増えたことにより、ハワードはのけ反ることなく、真っ直ぐとオーキッドに向かって歩いて行く。

 オーキッドは一度鞭を振るうのを止め、体勢を立て直し、ならば岩石に覆われていない頭部、と鞭を放ったが、鞭はハワードの頭部ではなく肩を覆う岩石に命中し、その間に、ハワードはバスタードソードを両手で振り下ろした。


 オーキッドは回避したが、バスタードソードが地面に当たると、当たった所を中心に大きく地面が大きく割れ、衝撃でオーキッドはよろけた。


「あなた、見えてるの?」

「いや、見えんよ。だが、鞭の相手は初めてではない」


 ハワードは闘技場で鞭の使い手と何度も戦った経験がある。その経験から、鞭の先端を目で追うことができなくとも、1撃目であれば腕の振りと敵の身体の向きから大体の狙いを予測することができるのだ。


 ハワードは間髪入れずにオーキッドを追撃しようとしたが、オーキッドは鞭を大きく振り回すのをやめ、自分の正面で渦を巻くように回転させ始めた。

 それはまるで、盾を作るかのような動き。


「そんなもので止められると思うなよ」


 バスタードソードを力一杯振るえば、鞭ごとオーキッドを一刀両断にできる。


 しかし、そのとき一つの疑問がハワードの頭をよぎった。

 なぜあえて自分にオーキッドを当てたのか。


 重装備で攻撃力の高い自分と、軽装でスピードも優れているわけではないオーキッド。オーキッドが取り立てて自分に対して有利、とは思えない。


 ハワードは頭をよぎった疑念を振り払いながら、鞭ごとオーキッドを叩き斬るべく、バスタードソードを振り上げた。


「うふふ……これならどうかしらね」


 オーキッドが笑う。と、手元で回転させる鞭が水を纏い、ドリルのような形となった。


「ウォーター・スクリュー……オーキッド・バージョンよん」


 オーキッドは水流のドリルと化した鞭をハワードに向けた。

 さきほどまでの鞭とは比べ物にならない威力。水流のドリルはオーキッドの岩石の鎧を簡単に貫くと、その下の鎧も破壊し、ハワードのわき腹を抉った。


「ちぃ……」


 ハワードは思わず距離を取る。

 オーキッドは直ぐに鞭にまとったウォーター・スクリューを解除すると、再び鞭を振り回し、ハワードの鎧を纏う岩石を削っていく。


 距離を取れば振り回す鞭の攻撃を受け、近付けば水流を纏った鞭のドリルに抉られる。ハワードの堅固な防御力に対しても、オーキッドは着実にダメージを与えていた。

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