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第2回戦

「えー、では第2回戦に移りたいと思います」


 レフェリーの宣言を合図に、観客たちが湧く。


「では、まず、マース・ゴート(バカの行進)・ファミリー……オウギュスト、アーンド、ディック!」




「俺……と、あんた?」


 オウギュストがディックを見た。


「ということは……」




「おっと申し遅れました、第2回戦は2対二のタッグマッチとなります。えー、では、次にアーロン・ファミリーですが……うん?」


 レフェリーが手元の紙を見て訝しみながら続けた。


「失礼しました、改めましてアーロン・ファミリーの闘技者は……ドリス、アーンド、ヘルムート!」


 レフェリーがアーロン側の闘技者を呼び上げたにもかかわらず、観客席からはあまり歓声が響いて来ない。


「え……?」

「誰……?」


 という小さな声があちこちから聞こえてくる。

 そんな中、オウギュストとディックが闘技場に降りてくると、ちょうど正面からコートを羽織り、フードで頭を隠した小柄な二人が闘技場に入って来た。


 二人がオウギュストとディックに近づいて来る。

 近くで見るとさらに小さく見える。身長はオウギュストよりも20センチ以上低いだろうか。しかも片方は足元が覚束ない様子で杖をついており、もう片方がたまに手を貸している。

 オウギュストもディックも異様な対戦相手を不審な目で見ていたが、対戦相手の二人がコートを脱ぐと不審は驚きに変わった。

 片方は50歳前後の小太りの女。髪を頭の上で結っており。にこやかな笑顔を浮かべた顔は厚い化粧で覆われている。そして何とその格好はワンピースにエプロン。

 もう一人は杖に身体を預けた高齢の男。頭は禿げ上がり、チャームポイントのように数本の髪の毛が頭頂部から天に向かって生えている。深いしわが刻まれた顔の下半分は真っ白いひげが覆い、伸び放題の眉毛で目元は良く見えない。くの字に曲がった腰のため、背丈は女よりもさらに低く見える。


 どんな強者が出てくるかと思っていれば、まさかその辺で買い物をしていそうなおばさんと、今にも死にそうな爺さんであったことに、オウギュストとディックは言葉を失っていると、女――ドリスが口を開いた。


「まあまあ、お兄さんたち、近くで見るとかっこいいわねえ。こんなかっこいいお兄さんに相手してもらえるなんて、おばちゃん、嬉しいわぁ」


 と、口元に手を当てて、オホホホ、と笑った。


「ドリスしゃん」


 急に爺さん――ヘルムートがドリスの名前を呼んだ。


「あら、どうしました?」

「このお兄さん方は誰じゃ? 郵便屋さんだったかの?」

「いやですよヘルムートさん。このお兄さん方は対戦相手ですわ。さっき楽しみだって言ってたじゃありませんか」


 ドリスはふっくらとした頬に手を当てて困った顔でヘルムートを見た。

 オウギュストとディックは困惑した顔でヘルムートを見た。


「へあ……? おお、そうじゃったそうじゃった、アッシュが言っておった。勝ってこいて」


 ヘルムートはそう言って、フガフガ、と笑った。




「あの二人、アッシュ殿の推薦だから採用したが、本当に勝てるのか?」


 アーロンが、ドリスとヘルムートを見下ろしながら心配そうに言った。

 事前に名前と年齢程度は聞いていたが、実際に姿を見ると不安が募る。

 いや、そもそもヘルムートはとても戦闘ができるようには見えなかった。

 だが、アッシュは一抹の不安もない様子で、寛ぎながら仰ぎ見る。


「もともとこの試合は実力者と思われるオウギュストとディックを一つの試合で使わせてしまうことが目的の、負けを前提とした試合でした」

「ああ……」

「ですが、簡単に勝敗がついては詰まらない。あの二人は盛り上げるだけ盛り上げて負けることができる技術がある。そして、あの二人の姿から、負けたとしてもわざと負けたなどと考える者がはいない。そういう人選でした」


 アーロンはアッシュの話を咀嚼し、一拍置いて聞いた。


「つまり、その気になれば勝つことができると、と……?」


 アッシュは何も言わず、眼で肯定する。

 しかし、ドリスとヘルムートの風体に説得力はなく、アーロンは不安を拭いきれぬまま、椅子に深く背中を預けた。




「何か拍子抜けだな。瞬殺してやるぜ」


 オウギュストが自信満々にドリスとヘルムートを見下ろしたが、ディックは嗜める。


「見た目に惑わされるなよ。この試合に出てくる奴らだ、ただ者ではないと考えろ」


 ディックの忠告は正論であった。それ故にオウギュストは無性に言い返したくなった。


「なんでお前に命令されなくちゃならねえんだよ。あなたは俺の上司ですかぁ?」

「なんだと……?」


 オウギュストの言い方がディックの精神を逆撫でした。

 二人がにらみ合うのをドリスは見ながら微笑む。


「オホホホ、お兄さん方仲良くしなくちゃダメよ。ほら……」


 ドリスがエプロンのポケットから包みを取り出した。


「おばちゃんクッキーを焼いてきたから。これ食べて仲良く、ね?」


 ドリスが包みを開けると、星形やハート形のクッキーが一杯に詰まっている。


「ドリスしゃん、おいしそうじゃのう。儂にも一つちょうだい」


 ヘルムートが横から手を出してクッキーをつまみ口に入れた。


「おお、美味い美味い。そらもう一つ……」


 そう言いながらヘルムートはまた一つ、また一つとクッキーを口に運び、ついに包みを空にしてしまった。


「あら、なくなっちゃったわね、ごめんなさいね」


 そう言いながら微笑むドリスに、オウギュストとディックの苛立ちは収まったようであった。


「ええと、そろそろルールを説明しても……?」


 申し訳なさそうにレフェリーが四人に声を掛けた。そう言えばまだこの試合のルールが説明されてなかった。


「えー、ではこの試合のルールですが……ディフェンス・バトルです!」


 オウギュストとディックは顔を見合わせた。ディフェンス・バトルと言われても具体性がなく今いちピンと来ない。


「さて、皆さん後ろを向いてください」


 レフェリーに言われるまま、四人は闘技場の自分たちが出て来た方向を振り向いた。すると、そこにはいつの間にか、オウギュストの身長と同じくらいの高さの卒塔婆のような石碑が設置されていた。


「この試合では、相手側に設置された石碑を先に破壊した方が勝者となります」


 つまり、敵の攻撃から自分の石碑を防衛しなければならない。故にディフェンス・バトルか。


 レフェリーからのルール説明が終わり、双方自分の石碑の近くへと移動した。そこが試合のスタート位置となる。

 ディックは自分の石碑の位置から闘技場を見渡した。

 敵の石碑が視認できる。だが、第1回戦でレオポルドが破壊した石の壁の瓦礫、そしてまだ一定の高さを保っている残骸が一部散逸しており、身を隠そうと思えば隠すこともできる。

 そして、石碑を鞘で叩き、手で触れてみた。

 どうやら石の壁と同程度の硬度。通常攻撃では破壊することは難しいであろう。だが、エンチャント・ファイアからのデストロイ・スラッシュならば破壊できる。後は、ドリスとヘルムートのディフェンスを掻い潜る方法を考えれば良い。

 とディックが考えていると、


「よっし、じゃあ俺がオフェンスな」


 とオウギュストが槍を肩に担ぎながらディックに言った。

 確かにこの試合、敵の石碑の破壊を目指すオフェンス役と自分の石碑を守るディフェンス役に別れるべきだが、


「勝手に決めるな、俺ならば石碑を一撃で破壊できる。俺がオフェンスに回る方が効率的だ」


 ディックが反論する。


「……んだ、手前え……俺があの石っころを壊せねえって思ってんのか?」


 オウギュストが睨みながらディックに顔を近づけた。


「貴様がどんな力を持っているか俺が知るわけがないだろう。俺は貴様ではなく、俺の力を信頼しているだけだ」

「はん……そこだけは気が合うな、俺もだよ、俺もお前を信用できねえ」

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