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逆転に次ぐ逆転

 自身の魔法によって逆にレオポルドに隙を与えたことには、アリサも気付いていた。

 魔法の技量はレオポルドが上。魔法の撃ち合いでは分が悪い。


 アリサは地面から噴き出す業火を避けて着地すると、直ぐにレオポルドに向かって駆け出す。


「ファイアー・ボール!」


 低い体勢で走って来るアリサに向かってレオポルドは火球を放つが、アリサは飛び跳ねるように火球をかわしながら、脚を止めずに迫って来る。


「ファイアー・ボルテックス!」


 レオポルドは続けてアリサに向かって炎の渦を放つと、アリサは手の平から出ている鋸を地面に付き刺し支柱にして上に向かって高く跳び上がりながら炎の渦をかわし、落下しながらレオポルドに斬りかかった。


「死ねぇっ!」


 レオポルドは大槌の柄で鋸を受ける。

 次のアリサの手は何だ。鋸を挽き、再び猛攻か。この体制のまま全身から鋸を出すことも考えられる。


「はっ、考えたって分かんないか」


 レオポルドはそう呟くと、


「フレイム・スプラッシュ!」


 と唱え、アリサの足元からアリサに向かって火柱を発生させた。

 アリサはすかさずレオポルドから距離を取ったが、また直ぐにレオポルドに向かって切りかかり、レオポルドは再び柄で受ける。


「何度やっても同じだ!」

「それは、どうだろうね」


 レオポルドが再びフレイム・スプラッシュを唱えようとすると、アリサの鋸と大槌の柄が接している部分から火花が上がる。だが、おかしい。リサは腕を動かしていない。

 アリサの手の平から出ていた鋸はさっきまでは片刃であったが、今は両刃になっており、その歯がチェーンソーのように回転しているのだ。


 キイイイイイイン

 耳をつんざくような高音が鳴り響く。押しのけようとしたが、アリサはもう片方の手で鋸を出している腕を押さえつけ全体重を乗せており、簡単に押しのけることができない。

 それでも腕力には自信があるレオポルド。意地とばかり大槌を持ち上げた。が――


 バキイッ


 大槌の柄が切断された。柄を切断した鋸がレオポルドの身体を挽き裂き、レオポルドの身体から血が噴き出す。


「あたいの勝ちだね!」


 大槌の柄が半分になった。これで大槌を振り回すことはできない。レオポルドの攻撃力を半減させたのだ。

 アリサが勝利を確信した直後、切断された大槌の柄の下半分が握られたまま、レオポルドの左拳がリサの顔に向かって来た。アリサは冷静に顔を後ろに反らした。が、レオポルドの左拳に握られていた切断された大槌の柄の端が、アリサの顎に命中した。

 レオポルドが狙ったのかどうかは分からない。だが、レオポルドが勝利を諦めていなかったことだけは確かだ。


 レオポルドは自分の両手を炎で包むと、大槌の柄の切断された部分をくっつけて火力を上げた。

 術者であるレオポルドの手の平すらも焼き、柄が紅く変色し、そして、柄は元の通り一本にくっついた。


 顎にダメージを受けてふらつきながらもアリサは危険を察知し、全身から鋸を出し、レオポルドを攻撃する。だが、そのときにはレオポルドは上に向かって跳び上がっていた。

 そして、大槌を思い切り振りかぶり、振り下ろそうとした瞬間、先ほど切断された柄が再び真っ二つに分離してしまった。


「くそっ」


 高熱で溶接したが、冷やし切れていなかった。

 だが、一瞬でも両手で振るえたことで勢いは十分。しかし、片手ではこの勢いに耐え切れずすっぽ抜ける。レオポルドはそう直感すると、狙いを変えた。

 上手くいくかは分からないが、これしかない。


「行っけええ、エクスプロージョン!」


 レオポルドはエクスプロージョンで大槌の勢いを上げつつ、大槌をアリサ目掛けて投げつけた。

 足元がふらついていたのもあるが、思わぬ攻撃にアリサは反応できず、高速で投げられた大槌の直撃を受けた。堪える間もなく、アリサは吹っ飛ばされる。大槌が当たったのは右肩。だが、凄まじい威力に鎖骨が、いや上腕骨もイっている。

 だが、まだ左腕は動く。脚も動く。まだ、ヤれる。


「あたいが……負ける、もんかぁ!」


 アリサが左腕でだけで起き上がろうとしたとき、アリサに激突した後、上に跳ね上がった大槌のヘッド部分が落下してきてアリサの脳天に直撃した。


 これが決め手となった。


 アリサはそのまま気を失い、バタリと倒れ動かなくなった。

 会場中に沈黙が流れる中、レフェリーがアリサの状態を確認し、手を挙げる。


「勝者、レオポルド!」




「いよっしゃぁぁぁ!」


 マーゴットは思わずガッツポーズをした。

 レオポルドは終始劣勢であった。実のところ、マーゴットは途中からダメかと思っていたのだ。その中でのレオポルドの勝利。湧かないわけがない。




 一方、アーロンはワイングラスをサイドテーブルに勢いよく叩きつけ、眉のない眉間に皺を寄せ、苛つきを露にしていた。サイドテーブルに飛び散ったワインを手下が拭こうと寄って来たのも、


「邪魔だ!」


 と追い払ってしまう始末。


「まあまあ、まだ1回戦。焦るのは早いですよ」


 アッシュが嗜めるが、アーロンの苛つきは収まらない様子。


「だが、この試合に負けてしまっては、この後の計画が崩れてしまうではないか」


 そう、アーロンは、この第一回戦はアリサの勝利と見込んで、この後の星勘定をしていた。だが、アッシュに慌てる様子はない。


「ならば、次の試合。負ける予定でしたが、勝ちに行きましょう」


 そう言ってアッシュは背後をチラリと振り向いた。そこには、フードで顔を隠した二人。


「良いですね? 頼みましたよ」


 アッシュが声を掛けると、片方が感激と言うように手を合わせた。


「まあ、良いんですの? 好きにやっても」


 もう片方も少し顔を上げた。


「ほっほっほ、こりゃ、久しぶりに腕がなるわい」


 それでもアーロンは不安な様子。


「だが、次の対戦相手はあの二人だぞ。本当に大丈夫なのか?」




 マーゴットらの控室では、治療を終えて戻って来たレオポルドを迎えていた。

 アーロンの用意した治療術師(ヒーラー)によって、レオポルドが負った傷は応急処置がされたが、出血が激しかったため完治とまではいかず、全身に包帯を巻いていた。


 レオポルドがだるそうにソファに横たわる。


「あー、疲れたー、オウギュスト、何か飲み物ちょうだーい」

「ああ? なんで俺なんだよ自分でやれ」

「貴重な1勝を挙げて来たんだよ? 少しくらい優しくしてくれてもいいじゃーん」


 レオポルドは、嫌な顔をするオウギュストにニヤニヤとねだる。

 そこにヒースが黄色いジュースの入ったグラスを持ってきてレオポルドに差し出した。


「はい、どうぞ、お疲れさまでした」

「ありがとう、ヒースさんは優しいな、どっかのオウギュストとは違って」


 レオポルドがグラスに口をつけながらオウギュストを見ると、オウギュストは「ふん」とレオポルドから顔を背けた。


「まあまあ、あんな感じですが、オウギュストさん、ガラスに張り付いて応援していたんですよ」


 ヒースがレオポルドにこっそり耳打ちすると、レオポルドは「フフ……」といたずらっ子のように笑った。


「次の闘技者が発表されるぞ」


 ディックの呼び掛けに一同は闘技場に注目する。


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