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第1回戦

「えー、皆様、お待たせしました。これよりアーロン・ファミリーとマース・ゴート(バカの行進)・ファミリーによる特別試合を開始します!」


 観客席が湧き経ち、会場全体が揺れる。


 レフェリーの開会宣言を聞いたマーゴットは、


「『マース・ゴート(バカの行進)』ねえ……言ってくれるじゃないか」


 と歯ぎしりをした。


 レフェリーの開会宣言からマーゴットをマース・ゴート(バカの行進)と呼ぶ挑発ぶり。その挑発を観客は喜び、歓声が会場を包む雰囲気に、ここが敵地(アウェー)であることを一同は改めて実感した。


 レフェリーは観客に向かってルールの説明を始めた。


「さて、簡単にルールのおさらいです。試合は5戦。先に3勝した方が勝利。5戦で勝敗が決しない場合は6戦目を行い決着を着けます。各試合の闘技者と試合のルールは、公平公正を期すためその都度ランダムに選出しますので、どんな組み合わせで、どんな勝負になるか、皆様お楽しみに!」

「公平公正とかどの口が言っているんだか……」


 マーゴットは鼻で笑い、観客席の向こう正面を見た。

 そこにはマーゴットらと同じガラス張りの控室。大きな椅子にアーロンとアッシュが座って談笑している。


「では、さっそく第1回戦を開始しましょう」


 レフェリーの宣言に観客席が再び湧いた。


「第1回戦の闘技者は、マース・ゴート(バカの行進)・ファミリー……」


 マーゴットらが固唾をのんでレフェリーの言葉を待つ。


「レオポルド!」

「やったーっ!」


 レオポルドが両手を挙げて跳び上がった。


「じゃあ、行って来るね!」


 レオポルドは満面の笑みでマーゴットらに向かって親指を立てたが、オウギュストがムスッとしていることに気付き、


「オウギュスト、落ち込むなよ、アハハ」


 と笑うと、オウギュストはレオポルドに向かってこの世界の侮辱のサイン――親指と人差し指と中指を立てた手を地面に向ける――をした。

 が、レオポルドはなんのその。オウギュストの仕草は負け惜しみとでも言うかのように笑顔で手を振って控室から出て、闘技場へと降りた。


 レオポルドの姿を見て観客席はざわめき、笑いがこぼれる。


「おいおい、ガキじゃねえか」

「マーゴット側は人手不足か? こりゃ勝負は決まったな」


 それを聞いたオウギュストは、さっきまでレオポルドに悪態をついていたにも関わらず、ガラス越しに見える近くの観客に対してチンピラのようにガンを飛ばす。


「クソが、言いたい放題言いやがって、試合が始まれば――」

「落ち着け、対戦相手が呼び上げられるぞ」


 オウギュストの言葉をディックが遮り、一同は再びレフェリーに注目した。


「対してアーロン・ファミリーは……」


 レオポルドのときとは異なり、会場が暗転して、スポットライトが灯る。


「挽き裂き嬢アリサ!」


 スポットライトに人影が浮かび上がる。


「おおっ」

「いきなりアリサか」

「ガキなんてバラバラにしてやれ!」


 観客の歓声を浴びるは、胸と股間にだけアーマーを装着した異常に露出の高い恰好の女。軽く日に焼けた肌には無数の傷が刻まれ、背はレオポルドよりも少し高いぐらい。身体は引き締まり筋肉の盛り上がりが見て取れる。

 赤い髪を後ろで1つに縛り、野獣のような目つきでレオポルドを凝視しながら、その女――アリサは、少し猫背で闘技場の中央に向かって歩みを進める。




「へえ、1回戦はアリサですか」


 そう言って、アーロンはアッシュを見た。


「ええと、確かあの小僧はギルバート隊のレオポルド。炎を操る騎士で、戦闘スタイルは真っ向から力押し、でしたね……?」


 アーロンの問いにアッシュは頷いた。マーゴット側の闘技者のことは、この2日間で可能な限り調査しアーロンに伝えていた。


「アリサも同じタイプで、どちらかと言えば策を弄するタイプは苦手です。ですが、力で押してくるタイプには滅法強い」


 そう言って、帽子の唾を軽く上げながらアッシュは笑った。


 今回の特別試合は、一部を除き、闘技者と試合のルールはもちろん、闘技者の組み合わせもアッシュに任せられていた。

 それも全て、観客たちに最高のエンターテイメントを提供するため。勝敗のコントロールと同時に、最高に楽しめる組み合わせを考えていた。




 レオポルドはアリサの風体に少し戸惑ったが、何より彼女が持つ得物が気になっていた。


 アリサの両手に握られているのは、大きな鋸。

 会場が明るくなると、鋸のギザギザの刃がよく見える。


 その鋸のようなギザギザの歯を見せてアリサはニタリと笑うと、口を開いた。


「どんな屈強な男が出てくるかと思えば、なんだガキかい。あたいは相手がガキだろうと容赦しないからね」

「何をぅ、僕は18歳だぞ」

「18? なんだ、あたいと1つしか変わらないじゃないか」


 体中の傷から漂う、アリサの歴戦の強者然とした雰囲気に、レオポルドはアリサを10歳程上かと思っていたので、意外と若いことに驚いた。


「よーし、じゃあ、始めようか」

「はっ、せいぜい楽しませておくれよ」


 レオポルドは自分の身の丈ほどの大槌を両手で握り、アリサは両手の鋸を構えた。

 しかし、レフェリーが止める。


「ちょっと、ちょっと、まだ、まだですよ。この試合のルールを発表していません」


 そう言えば各試合には特殊ルールが、と言っていたか。

 気が逸ってすっかりそのことを忘れていたレオポルドとアリサは、一旦武器を下した。


「……えー、では第1回戦のルールは……デスマッチ! どちらかの死か戦闘不能で勝敗が決します」


 意外にも普通のルールに、マーゴットらは肩透かしを食らった気分となったが、レフェリーはルール説明を続けた。


「ただし、今回の試合の舞台はハードル・フィールド。障害物を配置した中で試合をしていただきます」


 そう言ってレフェリーが指を鳴らして合図をすると、闘技場が揺れ始める。

 すると、闘技場内の床のいたる所が次々と隆起し、みるみるうちに闘技場中に石の壁が乱立した。


 石の壁の高さは3メートルから5メートル。奇妙なのは、石の壁には丸や四角の形のいくつもの穴が開いていること。

 石の壁で視界が遮られるかと思いきや、壁の穴により、ある程度壁向こう側が見える。まあ、それでも大した大きさの穴ではないため、逆にチラチラと見える向こう側の景色に惑わされるおそれもある。




「あの穴、何の意味があると思う」


 ディックがクロキに聞いた。しかし、クロキは答えられない。あの穴の大きさであれば、クロキならば手を使わずとも壁を駆け上がることができるが、まさかそのためと言うわけではないだろう。

 そもそも大槌を両手で構えるレオポルドでは、そう簡単に登ることはできない。レオポルドにとってはマイナス要素しかない。

 対戦相手のアリサという女がどん戦闘スタイルかは分からないが、クロキには嫌な予感しかなかった。

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