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マーゴットの提案

「……何の話だ」

「このモンテ皇国の裏社会はさ、2つの組織が仕切っている――」


 1つはマーゴットを頭とする組織。そしてもう1つは、アーロンという男を頭とする組織であった。

 2つの組織はモンテ皇国内の裏社会を二分して仕切っており、これまでも何度も縄張り争いを繰り広げてきた。


 ここ、港町ナオネトは西の海への玄関口となる街であり、様々な品を密輸する拠点となる街であった。ナオネトは数年来マーゴットが仕切っていたが、1年ほど前からアーロンの組織が少しずつナオネトで幅を利かせ始め、一か月前には民間人を巻き込む大きな衝突が発生してしまった。

 そこで、マーゴットとアーロンはついに白黒をはっきりさせることとなったが、その方法というのが――


「互いに数人の闘技者を出し合って地下闘技場で決闘さ」

「あんたが負けたらこの街の支配権を奪われる、と……あんたが勝ったら?」

「アーロンの奴も賭け闘技を運営しててね、そこの闘技者をいただく」


 一見するとマーゴットのメリットの方が少ないように思えるが、闘技者を吸収するということはアーロンの地下闘技場の衰退につながり、いずれはマーゴットがモンテ皇国全体の地下闘技場を仕切ることにつながる。それだけではない。闘技者は抗争時の戦力ともなるため、此度の勝者の利益は、長期的に見てマーゴットが有利であった。

 ここナオネトは、アーロンにとって公平ではない条件を飲むだけの値打ちがある街であると同時に、この戦争に対するアーロンの強気がうかがえる。


「ここであったのも何かの縁、あんたならいい戦力になると思ってさ。それに本当は、賭博場にいた警備の連中が闘技者だったんだけどね、そいつらを素手でのしちまうんだ、その二人を使わない手はないだろう」


 黙ってマーゴットの話を聞いていたディックの顔をクロキが見ると、ディックは眼を伏せながら、


「騎士の力をそんな低俗なものに使うなど有り得ん」


 と吐き捨て、頑なに拒否するかと思いきや、


「だが、まあ、それしか道がないというのなら止むを得んな」


 と大仰にため息をついてみせた。

 それを聞いたモニカは大きく笑って、


「全く素直じゃないんだから、本当は『闘技者』って連中と戦ってみたいと思ってるくせに」


 とディックをからかった。

 クロキは少し安心し、今度はオウギュストとレオポルドを見ると、二人は静かにうなずいた。


「よし、決まりだね、それじゃあ――」

「1つ確認したい」


 マーゴットが手を叩いて話をさらに進めようとしたところをクロキが遮った。


「何だい?」

「船は勝敗と関係なく用立ててもらえるのか?」


 クロキの質問にマーゴットの顔から笑顔が消えた。楽しい気分をなんて台無しにするようなことを聞くのかとマーゴットは思ったが、クロキにとっては重要なこと。

 さっきのように抜かりがあってはならない。この女は後で屁理屈をこねて約束を反故にすることだって平気でやる。


「まあ、できることなら勝とうが負けようが船を用意したい、と私も思っているんだけどね」


 何とも白々しい言い方だが、


「もし負けちまえば、この街はアーロンのシマさ。私が船会社に口を利きたくてもできやしない。そうすると別の街から運んでくることになるが……それには数日、いや10日以上掛かるだろうね。それはあんたも困るだろう?」


 そう言われては何も言い返せない。この街で10日以上足止めなど、追手に掴まえてくださいと言っているようなもの。


「さすがにこの方の言い分に理がありますね」


 ヒースの意見にクロキもさすがにうなずかざるを得なかった


 クロキは仕方なしと言った風にため息を吐き、


「オッケー、オッケー……で、闘技者は数人と言っていたが……」


 とマーゴットを見上げた。

 レオポルドが一同を見渡し、


「ここにいるヒースさんを除く、ええと、僕とオウギュストと、ディックさんとモニカさんと、それからクロキで五人……」


 と数えると、


「そこの御仁もだな……」


 とディックがマーゴットの後ろに控えるハワードを見た。


「ああ、紹介するよ、あんたらと一緒に戦うハワードとイザークだ」

「ハワードだ、よろしく頼む」


 ハワードが大きな身体を傾げて挨拶をした。

 多くは語らずともにじみ出る威圧感と実力。ハワードがマーゴットの運営する地下闘技場のチャンピオンであることなどディックは露とも知らないが、ハワードの実力を感じ取っていた。

 そして、ハワードの横に立つ20代後半と思われる猫背の男が一歩前に出て、


「イザークっす、ヘヘ……よろしくです……」


 とペコリと頭を下げた。

 店に入って来たときは、マーゴットの手下のチンピラかと思いきや、よくよく集中してみればなかなかの手練れと見える佇まい。

 そして、かなり殺している、とクロキは見た。


「この二人とあんたらの合わせて七人が、私の闘技者さ」


 マーゴットが一同の顔を一人一人見た。

 いつの間にか、全員の眼から迷いも疑いも消えていた。それは、ひとえに確かな道筋が目の前に現れたことによるもの。


 マーゴットは満足したように立ち上がり、


「それじゃあ、宿の手配はしておくよ。下手な所に泊まられて通報されちゃ全部台無しだ。それから、明後日の詳しい時間と場所は追って使いを出す。しっかり準備しておきな」


 と言ってテーブルを離れようとしたが、ふと立ち止まって振り返ると、持っていたオウギュストとレオポルドの騎士章をオウギュストに投げ渡した。


「あんたら二人が、クロキとは関係ないって断ったときの保険だったけど、必要なさそうなんで返すよ」


 そう言って手を振りながらマーゴットは店から出て行った。

 ポカンとして自身の騎士章を眺めるオウギュストとレオポルドを見て、以外にもマーゴットが義理堅い人間だなとクロキは思った。

 敵に回せば最高に厭らしいが、味方となれば最高に心強い、のかも知れない。

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