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助っ人到着

 ケヴィンの助言に従い、クロキとヒースは西に向かって走った。

 何となくだが、ケヴィンの言うように巡回する騎士や兵士が少ないような気がする。それでも、誰もいないというわけではないので、辺りを警戒し、物陰に隠れながら慎重に二人は進んだ。


 順調に二人は進んでいたが、ふと、クロキは前方に人の気配を感じ、立ち止まった。

 路地の向こう側に、煌々と燃えるかがり火が見える。

 数人の騎士がたむろしているのが見えたため、クロキは別の道を行こうとしたところ、いつの間にか背後に人影があった。


「ははっ、見ぃつけた……おまいらだな」


 坊主頭で丸い目をした大きな男がニヤリと笑う。その隊服には見たことのある獅子の紋章。「高貴な獅子(ノウブル・レオ)」の騎士だ。


 男は大きな棘の突いた金棒を両手に構え、クロキとヒースに向かって振り回した。

 クロキはヒースの腕を引っ張り、寸でのところで金棒を回避したが、金棒が周囲の建物を破壊する。

 金棒の男は、続けてヒースに向かって金棒を振り下ろした。クロキはヒースを蹴り飛ばすと、男の金棒が地面に激突し、地面が大きく凹む。


 その音と振動で、近くにいた騎士たちがクロキの存在に気付いてしまった。


「久しぶりですね、無魔力者(ノマド)さん」


 背後からする声にクロキが振り向くと、そこに立っていたのはリドリーであった。


「誰だ?」

「ふ、ふん、冗談がお上手なようで、『高貴な獅子』の黄金の若獅子、リドリーを忘れたとは言わせませんよ」


 それでもクロキはリドリーのことを思い出せず、いぶかしんだ顔をしていたが、リドリーはそんなことはお構いなしに続けた。


「ギリアムさん、ここは私に譲ってください。彼にはロンの国で受けた屈辱を晴らさなくてはなりません」


 金棒の男――ギリアムは金棒を肩に担ぐと大きく笑った。


「そうか、なるほど、仕方ないな、『貸し』にしといてやるぜい」


 リドリーがロンの国と言ったので、ようやくクロキはリドリーのことを思い出した。


「ああ、あのとき、レオポルドに一撃でやられた奴か」

「失敬な、私はレオポルドにやられたのではない! ガーマンの眼鏡の男にやられたのだ。後からトラヴィス隊長に聞いたが、あの男、それなりに名の通った騎士とのこと。油断していて勝てる相手ではなかった」


 まるで、油断していなければオーウェンに勝てたかのような言い草。そも、レオポルドに気絶させられたのは事実であるのに、プライドゆえかどうしてもその事実を認めたくないようだ。


「つまり、1対1ならキミに負けることなど有り得ない」


 何がつまりかは分からないが、


「口上が長い」


 クロキはリドリーに向かってナイフを投げた。

 リドリーは剣でナイフを弾く。


「言ったはずです、1対1でキミに負ける道理はない、と」


 そう言うと、リドリーは走り出し、クロキの首を狙って剣を振るった。

 クロキはバックステップで距離を取ってかわすと、ギリアムやほかの騎士たちにも目を配る。

 数人の騎士がヒースに向かって行くのが見えたため、クロキはヒースに駆け寄り、次々と峰打ちで騎士たちの腕や脚の骨を折り、無力化していった。


 何が1対1だ。ヒースが狙われる以上、2対多だ。

 リドリーとギリアムのほか、手練れの雰囲気を持つ騎士が数人いる。状況は圧倒的に不利であった。


「ははっ、その異邦人を守りながら私を相手にするなんて、私も舐められたものだな!」


 そう言いながら斬り掛かるリドリーの剣をクロキは刀で受け止め、リドリーに蹴りを入れて突き放すと再びヒースの救援に入る。

 リドリーに対して攻撃に転じることができない。ヒースを守ることで精いっぱいだ。


「ならば、これならどうだ、スプラッシュ・ソード!」


 リドリーの剣の刀身が水流に包まれる。

 クロキは受けることを忌避し、リドリーの剣をかわすと、リドリーの剣が空振りすると同時に、上空に向かって大きな水しぶきが上がった。

 視界が遮られる。

 その水しぶきの中をリドリーがさらにクロキに向かって剣を振るう、再びクロキがかわすと、振り下ろされたリドリーの剣からまた大きく水しぶきが上がる。

 気付けばヒースから引き離されていた。

 水しぶきで視界も不明瞭の中、ヒースが騎士に捕まるのが見える。


「く、くそ……!」


 クロキに焦りが見えたそのとき、空から飛来した巨大な火球とともに一人の騎士がヒースの脇に着地し、炎をまとった剣でヒースの周囲の騎士を一刀のもとに斬り捨てた。


「あなたは……」


 ヒースが驚いて見るその騎士の鎧にはアトリス共和国の紋章。


「遅くなった」


 その騎士は、アトリス共和国を出奔した炎の騎士ディックであった。


「ディック、あんた、まさか……」


 クロキはケヴィンの言葉を思い出す。ケヴィンが呼んだ援軍とはディックのことだったのだ。


「ちょっと、私もいるわよ」


 数人の騎士が倒れると、その背後からディックの仲間の女騎士モニカが姿を現わした。


「貴様も俺と同じお尋ね者になったと聞いてな、面を拝みに来てやったぞ」

「またまた、恥ずかしがっちゃって~、ディックてばね、依頼されたら二つ返事で『了解した』って走り出したのよ」


 モニカが笑いながら言うと、ディックは恥ずかしそうな顔をした。


「何だ、おめいら、アトリスの者か?」


 ギリアムがディックとモニカを警戒し、ほかの騎士たちが二人を取り囲むように配置に着いた。


「少々、数が多いようだな、とりあえず数を減らそう」


 ディックはそう言うと、剣を片手で持ち投擲するように構えた。

 そして――


「フレイムソード・バイパーチェーン!」


 炎を纏った剣を炎の鎖でつなぎ、剣を振り回した。

 周囲の騎士たちが次々と薙ぎ払われていき、騎士たちの数がみるみるうちに減っていく。

 3周ほど剣を回したところで、ディックの手に握る炎の鎖が動かなくなった。


「おめい、調子に乗るんじゃねいぞう」


 ギリアムが金棒で炎の鎖を絡めとっていた。

 ディックはニヤリと笑う。


「手練れと見た、手合わせ願おう。モニカ、ヒースを頼んだぞ」


 そう言うと、ディックは炎の鎖を手繰り寄せながらギリアムに向かって走り出した。


「はいはーい。私の傍から離れないでね」


 モニカがヒースにウインクすると、ヒースは、


「は、はい、よろしくお願いします……」


 と返事をした。

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