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対魔法戦闘

 クロキは直ぐに左方向へと進む方向を変え、直線的に向かってくる氷柱をかわしていく。


「ちっ、その位置は射程範囲外だ」


 フェルナンドの正面から左右五十度がアイスニードルの射程範囲であったが、クロキはすでにフェルナンドの右側へ射程範囲外に出ていた。


「ウォータークロー」


 フェルナンドが続けて魔法を唱えると、先の尖った木の幹ほどの太さのある水流が地面から無数に発生し、クロキを突き刺すように襲った。


 クロキは、その場で回避に専念するかと思いきや、水流の根元に向かって走り出し、向かい来る水流によって数か所にかすり傷を負ったものの、全てをかわしきる。


 不思議なことに、一旦かわした水流は、背後からクロキを襲うことはなかった。


「こいつ、まさか、この魔法の特性を把握してるのか」


 ウォータークローは、その太さのために小回りが利かず、特に接近する対象への対応は遅れがちであり、しかも根本付近は射程外であった。


「だらしないわね、アースクェイク、えい」


 モニカの厚ぼったい唇が魔法を唱える。


 クロキは、魔法の名称を聞くや直ぐに上空へとジャンプした。


 地面が大きく揺れだす。


 草原全体が揺れ、地面が割れ、割れた所から、地面が隆起し、また、沈降する。


 ゴードン達はその場に立っていられず、地面にしがみいた。


「なんて魔力なの。クロキは、あいつ連続で魔法を受けてるけど、大丈夫なの」


 アンナが叫ぶ。


 しかし、ゴードンもアーノルドも地面にしがみつき、地割れに落ちないようにするのに必死で、クロキを見る余裕はなかった。


「ちょっと、何ミストなんか使ってんのよ、アースクェイクはコントロールが難しいんだから、ミストで視界を悪くしたら危険でしょ。」

「い、いや、俺は使っていないぞ、本当だ」


 フェルナンドは否定したが、ディック、モニカの周辺を霧が包み始めていた。


 先ほどのミストと同じ魔法と思われるが、ゴードン達の辺りまでは霧は及んでいない。


 ミストによって視界が遮られ、モニカは微妙な魔法のコントロールを行えず、石片などがディック達にも向かってくる。


 ディックは、表情を変えず、3人に向かってくる石片を鋭い剣さばきで全て弾いた。


「そんなわけないでしょ、どう見てもミストじゃない」


 モニカに詰め寄られたじたじとなっているフェルナンドの前に、黒い影が降り立つ。


 霧のせいでディックはその影がクロキと直ぐには気付かなかったが、気付いたときにはフェルナンドの右肩からみぞおち辺りまで、そして右ひじの先から血飛沫が上がり、フェルナンドは切断された右腕の後を追うように倒れた。


 アースクェイクの前にジャンプしたのは、魔法の効果を受けない上空に退避するためであったのか。


 ディックはこれまでのクロキの魔法への対応を思い出し、確信する。

 こいつは、フェルナンドとモニカの使った魔法の効果を知っていて、全て対処しきったのだ。


 そして、腰に見える魔法石、おそらく今ディック達を覆っている霧はその魔法石により発動したミストによるものであろう。


 クロキは、ディックには目もくれずモニカに切りかかる。


 広範囲高威力の魔法を使う者を先に倒すのはセオリーと言っても良い。


 モニカは、ソードでクロキの刀を受けるが、クロキの剣さばきに対応できず、剣を弾かれて手から放すと同時に尻もちをついた。


 その動きにディックは目を見張る。


 クロキは、弾いたモニカの剣を空中でキャッチすると、魔法石ミストを解除し、モニカの剣をゴードン達のいる方向へ思い切り投げた。


 剣は、兵士の1人の腰をかすめ、アンナのすぐ脇に突き刺さる。


 これで、モニカは水晶の加護を得ることができなくなり、魔法の威力は半減するはずである。


「クロキさん、大丈夫ですか」


 ゴードンが、モニカの剣で腰に傷を負った兵士を倒し、クロキに向かって叫んだ。


「クロキ、そうか貴様が異邦人のクロキか。黒い衣装に猿のような身のこなし。そして、無魔力者(ノマド)。情報通りのようだな」


 ディックが淡々と語る。


「へえ、俺のことを知っているのかい。というか猿って」

「異邦人に関する情報は各国の戦力を図る上でも重要だからな。今回、モンテで召喚した異邦人が無魔力者(ノマド)と聞いて安心していたところだったが……」


 ディックが剣をクロキに向ける。


「貴様、剣術の心得があるな。異世界の剣術、興味がある。俺と手合わせ願おうか」

「剣術と言っても、かじった程度だけどな」


 ディックがクロキに切りかかる。


 重装の鎧をまとうディックの動きは鈍く、クロキは難なくかわして、距離を取り、ディックの様子を窺った。


「さすがだな、今ので貴様の実力はおおむね分かった」

「は、本当かよ。すごいな」


 クロキは大仰なディックの発言に対し、小ばかにしたように返した。


「では、本気で行くぞ。フィジカルゾーン」


 ディックが魔法を唱えると、ディックの身体が一瞬白い光に包まれた。


「フィジカルゾーン、なんだそれは、魔術書にはなかったぞ」


 ディックが再びクロキに切りかかる。


 しかし、今度は先ほどとは比べ物にならない速度であった。


 まるで鎧を装備していないかのような軽快な動き。


 クロキは驚きつつも、ディックの剣を捌く。


 斬り、捌き、突き、避け、薙ぎ、払い、そして斬る。


 ゴードン達は、2人の動きを目で追うことができず、ただ刀とソードが触れる金属音の連続だけが耳に入るばかりであった。


 そして、ひと際大きな金属音が響き、2人は距離を取る。


 スピードも剣さばきも互角。


(剣術を学んでいて良かった、そうでなかったらとっくにやられていた)


 クロキは息を整えながら、ディックが口だけでなく達人級の剣の技を持っていることを認識した。


「すばらしいぞ。異世界の剣士よ。だが、悲しいな。俺はメイルで守り無傷。貴様は軽装で、致命傷ではないにしても傷を負っている」


「その重装でそのスピードとは、どういうからくりだ。さっきの魔法か」


 フィジカルゾーンは、ディックが自ら創生したディックだけが使える魔法――固有魔法である。


 固有魔法は、個人の特性に適した魔法であるため、広く魔法を知らしめる魔術書には記されておらず、クロキはフィジカルゾーンを知らなかった。


「このままでは、ジリ貧というのは俺も同意だ」


 クロキはそう言いながら、魔法石でミストを発動した。


 クロキとディックが霧に包まれ、霧に映る影だけしか見えなくなると、クロキは静かにディックの背後に回りながら、また別の魔法石を腰のホルダーから取り出した。


 そのとき、ディックの身体が炎に包まれ霧がかき消される。


 ディックがソードを構えながらクロキを振り向いた。


「小癪な真似だな。もう一段階上を見せてやろう。エンチャントファイア、フレイムソード」


 ディックの身体を包む炎がソードの刀身に凝縮され、ソードのみが炎に包まれた。


「行くぞ」


 再びディックの猛攻が始まる。


 スピードは変わらず、先ほどと同じようにクロキは捌くが、受けるたびに刀身にまとった炎がクロキを襲う。


 たまらずクロキが距離を取ると、ディックはクロキに向かって手の平を広げて見せ、魔法を唱える。


「ウィルオ・ウィスプ」


 ディック5本の指からそれぞれ小さな火球が放たれ、クロキを襲う。


 クロキは1つ、2つを刀で切り払い、残りはかわしたが、かわしたところにディックが大きく刃を振り下ろした。


「フレイムソード・スラッシュッ!」


 クロキは紙一重でかわしたが、背後にあった1メートルほどの岩石が真っ二つになる。


 そして、ディックはすかさずウィルオ・ウィスプでクロキを追撃する。


 ディックが剣と魔法を組み合わせ始めてからクロキは防戦一方となっていた。


 ディックに隙が見つからない。


 せめて、ディックの装備がもっと軽いものであったら状況は変わっていたであろうが、計算されたディックの戦法にクロキは舌を巻いていた。


 だが、ディックが真っ二つにした岩石と、これまでのクロキの攻撃で傷ついているディックの鎧を見て、1つの作戦を思いつき、クロキは林の中へと逃げ込んだ。

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