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クロキVSバリー

 階段までもう一息という所で、階下からの足音が聞こえ、ダリオは身構えた。

 階段を上がって来たのはメイドのメラニーであった。


「だ、ダリオさん、一体何が……糸が消えたので、音がしたので……」


 メラニーがひどく焦ったように話す。どうやらメラニーもタンジェリンの糸で拘束されていたらしい。

 ダリオはホッとした表情でメラニーに声を掛ける。


「糸はもう大丈夫です。それよりもカイゼル様が寝室に居られません、どこにいるかご存じですか?」


 メラニーはカイゼルが寝室にいないと聞き、驚いた顔をしたが、直ぐに居所を考えると、


「もしかしたら書斎かも知れません。何やら持ち帰った仕事があるとおっしゃってたので」

「そうか、なら……」

「はい、私、見てきます」


 ダリオが言うが早いか、メラニーはカイゼルの書斎に向かって駆けだした。

 メラニーの足音を聞きながら、ダリオは一安心し、壁にもたれかかり、体力と魔力の回復を図る。


 ふと、イマジン・ライトニングスがタンジェリンに直撃したときに、タンジェリンから立ち登った稲妻が開けた天井の穴を見上げた。


 穴から夜空が見える。

 そう言えばいつの間にか、屋敷の外の喧騒が静まっているようだ。


 状況が把握できていないダリオは、全貌の見えぬ今宵の様にもどかしさを感じ、早くカイゼルの無事を確認して周囲の状況を確認したいと考えていた。


 とそのとき、天井の穴から一人の男が降りて来た。

 その人物はタンジェリンの遺体の傍に着地する。

 黒衣に身を包んだ男。クロキか――と思ったが、その人物が顔を上げると爪痕の文様の入った仮面をしている。


「何者――」


 ダリオが叫ぶと同時に、もう一人天井の穴から飛び降りてきて、仮面の男に真上から斬りかかった。

 それこそがクロキであり、仮面の男――バリーは手にした槍で刀を受けると、槍が鎖に変化し、刀身を絡めとる。

 クロキは咄嗟にバリーの上半身に数度蹴りを入れると、バリーが怯み、鎖が緩んだところで刀を引き抜き、距離を取って着地した。


 クロキと対するバリーを直ぐに敵と判断したダリオは、重い身体を起こし、剣を抜いて構えた。

 しかし、バリーは一瞬の躊躇いもなく、ダリオに向かって鎖の一端、文銅のついた方を投げつけると、分銅はダリオの鎧を砕いて鎖骨に命中し、ダリオの鎖骨は綺麗に折れた。


 バリーはさらに分銅を振り回し。ダリオの頭部目掛けて分銅を投げつける。

 この速度で頭部に命中すれば頭蓋骨の骨折は免れない。悪ければ即死だ。


 だが、クロキの投げたナイフによって分銅は減速し、ダリオの頭部に命中したものの、ダリオは気を失うだけで済んだ。

 クロキは宙を舞う鎖に対して更にナイフを投げて鎖を床に固定すると、跳び上がってナイフの柄の上に着地し、ナイフを深く床に突き刺した。

バリーは鎖を強く引っ張ってもナイフから抜けない。その間にクロキがバリーに接近して来る。

 バリーは鎖の形状を変化させようとしたが、長く伸びた鎖を変化させて手元に戻すよりもクロキの方が早い。


 バリーは鉄製の耳飾りに触れると、耳飾りを長い針に変化させ、クロキ目掛けて投げてクロキをけん制したが、クロキは左に一歩切り込んで針を回避するとブーツのかかとに仕込んだ魔法石エクスプロージョンを発動させて急加速し、バリーのみぞおちに右ひじを深く食い込ませた。


 バリーは嗚咽し、後ろに下がりながら、まだ手元に戻りきらない鎖を鎌に変化せる。

 鎌の刃はちょうどクロキの首の真後ろ、バリーは胸の痛みに堪える動きと同時に鎌を一気に引いた。


 クロキの首の後ろに鎌の刃が触れる。

 バリーがクロキの首の切断を確信した瞬間、肉を、骨を断った感触なく、クロキの頭部が下に落ちた。

 手前に引き寄せる鎌の刃には一滴の血痕もなく、バリーの仮面が映る。


 次の瞬間、バリーの左肩に衝撃が走る。


 踵。

 黒いブーツの踵が左肩から首寄り、首の付け根に食い込んでいた。


 恐ろしいまでの集中力。

 クロキはバリーの手元の動きから鎌の刃が後ろから迫っていることに勘付き、咄嗟に前方に向かって回転し、鎌をかわしつつ、バリーに踵落としを命中させたのだ。


 左腕を動かそうとして激痛を感じる。鎖骨が折れている。いや、動かすことはできる。ひびが入っているだけだ。

 もう少しクロキの距離が離れていれば、踵が鎖骨に命中し、折れていたであろう。

 しかし、折れてはいないとは言え、クロキほどの手練相手にこれは致命傷と言っても過言ではない。

 だが、クロキの態勢が崩れている今、ここが、最大にして最後のチャンスだ。


 バリーは鎌を剣に変化させ、クロキに向かって突き刺そうとした。


 もらった。


 そう思ったとき、視界が微かに黒ずんでいることに気付く。


 黒い粉。


 なんだこれは。


 バリーは警戒し、息を止めた。

 その瞬間、クロキのガントレットから、カチッ、という音がして目の前が真っ白になった。


 クロキが空中に蒔いたものは黒色火薬。

 突然の強い発光に、バリーの身体が一瞬硬直する。

 その一瞬の硬直の間にクロキは体勢を立て直しつつ、バリーの脇を掛け抜け、そのわき腹を刀で斬った。


 傷は深い。内臓にまで達している。

 バリーは手に握る鉄の槍を変化させ、コルセットのように腹部に覆い、応急的に止血した。

 だが、もはや戦闘を継続することはできない。一刻も早く「爪」の仲間のもとに戻り治療を受ける必要がある。しかし、クロキがそれを許すかどうか……。


 バリーは力なく、クロキから距離を取るように後ずさりを始めた。


 クロキは刀を構えながらバリーを振り向く。既にバリーに戦う力が残っていないことはクロキも感じていた。

 だが、どのような奥の手はあるか分からない。慎重に、バリーの動きを注視しながら、クロキはバリーとの距離を詰める。


「キャーッ!」


 突然、悲鳴が屋敷に響き渡った。


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