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その名はバリー、仇を討つ者

「クロキ、お前、一体どこほっつき歩いてたんだ」


 テオが不満そうに聞くと、クロキは申し訳なさそうに笑った。


「城の周りでこいつの仲間がうろうろしてましてね」


 クロキが親指で「爪」を差す。


「別館の辺りに集まってたんで、大方、ミレーヌがターゲットだったんでしょうが、全員とっつかまえて来ました」


 そして、クロキは目の前の「爪」と対峙する。


「さて、遅れた借りを返そうか」


 「爪」は警戒した。が、予備動作なくクロキは瞬く間に接近し、「爪」に向かって拳を連打する。

 「爪」は、受け身に回らざるを得ず、だが、拳を全てガードしていたところ、ふと、クロキの連打のタイミングが変わったかと思った瞬間、側頭部にクロキの蹴りが命中した。


 死角からのハイキック。


 よろける「爪」を追撃しようと、クロキは素早く刀の柄に手を掛け、「爪」に斬りかかろうとした。

 しかし、「爪」の両腕のガントレットが光り輝くと、ガントレットが鉄の槍に変化し、「爪」がその穂先をクロキに向けてけん制したため、クロキは「爪」の側面から攻めるべく横に切り込むように走りながら刀を抜き、側面から「爪」に斬りかかった。

 だが「爪」は腕の向きをわずかに動かすと、槍の形を変化させ、石突のあったところに穂先を創り出し、側面から迫るクロキに再び穂先を向けた。


 さすがのクロキも思わず立ち止まり、距離を取る。


「っつーか、お前の魔法、一体どういうことだ?」


 対峙する「爪」の魔法は、以前、サンド・ピール城で戦った「爪」のリーダー、ビリーの魔法と同じものに見える。

 仮面をしているため素顔が分からず、一瞬ビリーが蘇生したのかと思ったが、クロキはあのとき、確かにビリーの死亡を確認していた。

 では、こいつは一体何者だ。

 その答えは、目の前の「爪」自身が語った。


「俺の名は、バリー……お前に殺されたビリーは、俺の弟だ……」

「へぇ……それじゃ、なにか? 仇でも――」

「そうだ……弟を殺した者は……俺の手で始末する……そのために、ここに来た」

「ふ、くく……」


 クロキは思わず苦笑した。

 バリーの周囲の空気が変わる。仮面越しでも怒りが伝わってくる。


「何が、おかしい……」


 カミムラへの復讐を誓ったクロキが、別の者から復讐される。何の因果か。しかし、クロキは不思議と素直にバリーの復讐を受け入れられていることがなぜかおかしかったのだ。

 いや、初めから覚悟していたのだ。復讐される覚悟を。その覚悟は復讐する者は必ず持たなければいけないものだ。


「良いぜ、来いよ」


 クロキはまるで慈しむかのような表情で刀を構えた。


 バリーがクロキに向かって突進し、槍を突き刺そうと持つ手を引いた瞬間、槍が細く長く伸びた。

 突き刺す動作の前に槍が伸び、予期せぬタイミングでの攻撃であったが、クロキはひらりとかわすと、長くなった代わりに細くなった槍をへし折ろうと掴みにいったが、思い留まり、槍から距離を取った。

 その直後、槍の先端部分が変化し、槍の左右から棘が飛び出した。


 クロキがそのまま槍を掴みに行っていれば串刺しにできたものを、動きを読まれ、かわされた。


 クロキはバリーに接近し、刀で斬りつける。

 細く長く伸びた槍では接近戦は不利、とバリーも頭では理解していたが、クロキの素早い攻撃に、咄嗟に槍の柄で刀を受けてしまい、案の定クロキの刀は槍の柄を切断した上、バリーの身体を斬った。


 浅い。

 寸前で槍の柄で受けることは悪手と気付いたバリーは身体を引き、負傷を最小限に抑えたのだ。


 槍が変化すると、今度は長剣と短剣に変化し、バリーは体幹を維持して歩きながら、素早く両の剣を左右に振るう。

 頭部、胸部、腹部、胸部、腹部、頭部……

 上下に緩急をつけながら剣を振るうが、クロキは巧みかわしていき、バリーはタイミングを外して、足払いを放ったが、クロキは跳び上がってかわした。


 バリーはクロキが着地するタイミングを見計らい、両手の剣を鎖分銅に変化させると、クロキの足に鎖を絡ませ、続けて絡まった部分を足輪に変化させて拘束しようとしたが、なぜか足輪が歪み、クロキは咄嗟に足輪を刀の峰で叩き壊して脱出した。


 バリーが鎖分銅を足輪に変化させたとき、足輪の内側に棘を発生させていた。通常であれば棘は脚に食い込み、ダメージを与えるとともにより外れにくくすることができるが、クロキのブーツは元の世界の技術で作った特注性。魔鋼製の棘程度では穴を開けることなどできない。

 行き場のなくなった棘は足輪を歪ませ、不成型となった足輪は格段に耐久力を落としてしまっていたのだ。


「さて、次はどうするかな……」


 クロキは、そう呟きながら腰のホルダーを指でなぞった。





 時は少し遡り、カイゼルの屋敷の3階。


 タンジェリンの糸に拘束されたダリオは、喉元の糸が少しずつ閉まっていくのを感じていた。

 剣で糸を切断しようにも、腕が動かない。


 ダリオが腕を動かそうと藻掻いていることは、糸越しにタンジェリンにも伝わり、タンジェリンは艶やかに笑う。


「ふふ……無駄よ」


 ダリオは頭部への血液の流れが少なくなるのを感じながら、タンジェリンの奥にある部屋の扉を見た。


 そこはカイゼルの寝室。

 タンジェリンの糸が扉を覆っている。


 もはや手遅れか。いや、まだ希望は捨てない。

 そのためには、自分を拘束するこの糸から脱出しなくてはならない。


「はあぁぁぁっ……」


 ダリオは全身に力を込め、魔力を溜める。


「一体、何を」


 タンジェリンは身構え、ダリオが何かする前に殺してしまおうと、糸の縛りを強めた。


「ハイボルテージスパーク!」


 ダリオの全身から高威力の雷が発せられる。

 明かりの点いていない廊下が日中以上に明るくなり、タンジェリンは思わず腕で目を覆った。

 タンジェリンの糸は屋敷中に張り巡らされているため、ダリオの放つ雷は屋敷中にアースされ、タンジェリンには全くと言っていいほどダメージはなく、攻撃の手を緩めるほどではない。


 だが、突如としてダリオに巻き付いた糸が発火する。

 放電による発火は初めてであったが、タンジェリンは驚きつつも、火系魔法によって糸が焼かれたときの対処法と同様に対処しようと手を動かし、糸を編み込み、何重にも重ねた布を作りあげた。

 しかし、ダリオは自身を巻く糸が燃えて拘束が緩むと同時に、周囲の糸を切断しつつ、タンジェリンに向かって走り出した。


「サンダー……ちっ……」


 サンダーブレードを唱えようとしたが、ハイボルテージスパークは多量の魔力と電気を消費するため、使用後は一定時間光系魔法のうち、雷光系の魔法を使うことができない。


 タンジェリンはダリオに向かって作りあげた布を被せようと投げつけて来たが、ダリオは近くの部屋に入り、それをかわす。

 しかし、一息つく間もなく、ドアを突き破って、大量の糸が室内に侵入してきた。

 糸の動きに注意しつつ、迫りくる糸を切断していく。

 魔力で創られた糸は、切断されしばらくすると蒸発するように消えていく。

 つまりは、タンジェリンの身体につながっていなければ糸としての形を保つことができないということ。ということは、タンジェリンは屋敷中に張り巡らした糸を無駄にしたくはないため、接近され、根元から糸を切断されることを嫌うはずだ。

 そこに隙がある。ダリオがそう考えているうちに、再び雷光系の魔法を使うことができるようになった。


「サンダーブレード!」


 ダリオがそう唱えると、壁を突き破って雷の刃が数多の糸を切断し、タンジェリンに襲い掛かる。

 タンジェリンはサンダーブレードをかわしつつ、壁に開いた亀裂から室内に向かって糸を伸ばした。

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