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国境侵犯

 次の日。


 ヒースとクロキがホテルの食堂で朝食を取っていると、寝ぐせで髪がボサボサの状態のゴードンとアーノルドがやってきた。

 その顔から、昨晩クロキが立ち去った後もしばらく、さらに遅い時間まで特訓をしていたのだろう。


「おはようございます。お2人とも早いですね」


 そう言いながらゴードンは大きく欠伸をした。


 クロキはゴードンに挨拶を返すと、焼き立てのパンをちぎり、溢れ出る湯気の中、一かけらを口に入れる。そして、スプーンでバジルが散らしてある黄金色のスープを啜った。


 ビュッフェ形式の朝食であったため、クロキの前に並んでいる皿は、どれも料理が山盛りになっており、クロキは次から次に料理を口に運ぶ。


「うえ、朝からよくそんなに食べれるね」


 ゴードンの後ろからアンナとリタがやって来て、クロキの食べる量を見てお腹を押さえながら言った。


 ヒースはコーヒーカップを飲み干し、口を拭うと全員に向かって今日の日程の説明を始めた。


「皆さん、今日はダニ・マウンテンに入って私の調査をします。その中で、魔獣の痕跡を見つけていくような形にしましょう。では、『明け4つ』にロビーに集合です」


 それぞれ眠たげに返事をする。


 クロキは部屋に戻るとヒースに聞いた。


「『明け4つ』とは、なんだ?」


 先ほどヒースが示した時間について、ヒースが簡単に説明する。


 この世界の時間は、「明け」、「陽下」、「暮れ」、「月下」の4つに区分し、それぞれについて「1つ」から「6つ」を加えて時間を示すのである。そして、「明け」とは、太陽が昇ってから沈むまでの間のうち、前半の午前5時くらいから午前10時くらいまでを指し、「明け4つ」と言えば、午前8時くらいを示す。


 4つの区分がそれぞれ6つの時間に分けられる、つまり24の時間で1日が経過するということになり、時間の概念がクロキの世界と同じ24進法であると言えるため、きっと太陽と月の動く速度、つまりこの星の自転速度は元の世界と同じなんだろうとクロキは思いつつ、念のためヒースに聞いた。


「この世界も丸い星の上にあるのか」

「ええ、そうですよ。数百年前に世界を一周した人により、この世界が丸い星の上にあることが証明されました。そして、この星は、我々の世界と同じく太陽の周囲を自転しながら回っているとも言われています。言われていますというのは、実はまだ仮説の段階で、この世界では誰も証明したことがないからなんです。まあ、皆そこまで興味がないだけかも知れませんが」


 クロキは、それを聞いて何故か安心した。




 ダニ・マウンテンは標高2千メートルの山で、ヒースの調査はその中腹、約千メートルの辺りで行う。


 登山道が整備されており、歩きやすい道を麓から1時間半ほど登り、開けた場所に出ると、ヒースは露出した岩を叩いて欠片を採取したり、魔法石で作ったエコー調査用の装置で、地下の様子を調べ始めた。


 ゴードン達は、調査中のヒースに魔獣などが近づかないよう監視するとともに、依頼の対象となる魔獣の痕跡を探している。


 昼になりホテルで作ってもらったサンドイッチで昼食を取った後、調査を再開して間もない頃、アーノルドがゴードンを呼んだ。


 森の中へと続く丸太を引きずったような跡。


 その太さからその痕跡は、ゴードン達のターゲットである、ヘビの魔獣のものであると予想された。


「クロキ殿、どうやらこっちの森の方向のようです」

「まだ時間は経っていないな。直ぐに追えば間に合うかもしれない」


 魔獣がここから離れたということは、ひとまずこの辺りは安全とも言える。


 調査に没頭するヒースをここに残し、クロキはゴードン達とともに魔獣を追うこととした。


 魔獣が草の上を這ってできたと思われる一筋の線の上を駆け足で進む。


 前回は不安を感じていたゴードン達も、2回目の魔獣との遭遇、いや、正確には3回目の魔獣との遭遇であるためか不安を興が勝っていた。


 15分くらい走ったろうか、体力に自信のあるゴードン達も息を切らし始めたころ、木々が途切れ、山中の平地にできた草原に出た。


 一行が目撃したのは、草原の中央に横たわる巨大な身体。


 人一人を丸のみにできそうな頭部を持つ巨大なヘビの魔獣。


 そして、その魔獣の頭部にソードを突き立てる男の姿であった。


 銀色の兜と重装の鎧をまとったその男の背後には、仲間と思われる5人の姿。


 このパーティーがゴードンよりも先に魔獣を倒したのであった。


 しかも、見たところ、全員怪我一つ負っていないように見える。


 手練れであることを認識し、クロキは身構えた。


 鎧兜の男がヘビからソードを引き抜き、刃についた血を払うように剣を振るうと、その男の鎧の胸元に、金色の動物のような印が見えた。


「ここで何をしているっ」


 突然ゴードンが叫んだ。


「ここは、モンテ皇国の領地であるぞ、アトリス共和国の騎士がここで何をしている!」


 どうやら隣国の騎士であるらしい。


 ゴードンの問いに対し、アトリス共和国の騎士たちはわずかにざわめく。


「ディック。あれは、まさかモンテの騎士か。なぜこんなところにいる」


 鎧兜の男――ディックの後ろに立っていた男の魔術師が聞くと、ディックは切れ長の目を静かにゴードンに向けた。


 ディックに代わって脇に控える、鎧に身を包んだ兵士が答える。


「ふもとの町で我々のことを探っている者がいると耳にしました。どこからか漏れたのでしょう」

「そうか。次からはきちんと報告しろ」

「はい、申し訳ありません」


 ディックが注意すると、兵士は頭を下げた。


「フェルナンド、モニカ、魔法の準備を。ここで始末する」


 ディックの後ろに立つ魔術師の男――フェルナンドは杖を構え、その横に立つ軽装の女騎士――モニカは、柄に黄色い水晶をはめた細身のソードを構えた。


 相手が攻撃態勢に入ったとみて、ゴードン達もそれぞれ武器を構える。


 鎧に身を包んだ3人の兵士がクロキ達に向かってくる。


 その後ろでフェルナンドが魔法を唱えるような構えをするのを見て、アーノルドは腰を深く落とし、大きく深呼吸した。


「グランドアックスッ!」


 アーノルドが大きく前に前進しながら大斧を地面に叩きつけると、大地が揺れ、兵士、そして、フェルナンドに向かって地割れが走る。


 兵士は咄嗟に横に転がりながらかわし、フェルナンドもまた魔法の構えを解いて地割れを避けた。


「へえ、範囲攻撃できるスキルなんて凄いわね、まあ、スキルにしてはだけど」


 モニカは、ツインテールを手で触りながらアーノルドのスキルに感心していた。


「見ていないでキミも仕事をしてくれないか」

「あら、戦力の分析も重要でしてよ。そのための先鋒でしょ」

「ふん、なら自分の身は自分で守る、ミスト」


 フェルナンドが魔法を唱えると、辺り一面に濃い霧が立ち込める。瞬く間に数メートル先は霧に映る影しか見えなくなった。


 霧で視界が遮られた中、アトリス共和国の兵士たちが霧を突き破って現れる。


 不意を突かれたゴードンやアーノルドは、かわし切れず傷を負ってしまった。


「ファイアーボムだ」


 どこからともなくクロキの声が響き渡り、リタはとにかくはるか前方に向かってファイアーボムを放ったが、ファイアーボムはディックらの前方数メートルに着弾する。


「当てずっぽうに撃って当たるわけがないのに、魔力の無駄遣いだな」


 フェルナンドは鼻で笑ったが、ディックは否定するよう前方にソードの切っ先を向ける。


「どうかな、今の爆風で視界を確保したようだぞ」


 ファイアーボムの爆発による衝撃と熱波で霧が晴れていた。


 ゴードンとアーノルドが兵士らを抑え込んでいるのが見える。


 そして、兵士らを無視してディックに向かって走るクロキ。


 ディックはフェルナンドに向かって腕を上げた。


「へいへい、アイスニードル。こんなもんで良いでしょ」


 フェルナンドの前方に8本の太い氷柱が生成され、クロキに向かって放たれた。

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