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ゴードンの憂鬱

 ロンの国で皇帝タイソウにヒースが話したことを思い出しながら、クロキはネロス城から出た。

 そして、堀に掛かった橋を渡り始めたところで、クロキはヒースに聞いた。


「これからどうする? 3つの大陸に行くのか?」


 クロキに問いにヒースは自信満々に答える。


「もちろんです。アトランティス、ムー、レムリアに何があるのか、見てみたいです。それに、カミムラさんの計画とやらを暴くこともできると思いますよ」


 クロキはヒースが自分をその気にさせようとしていると勘付き、


「言うじゃねえか」


 と笑った。


 二人が橋を渡り終わった辺りで、通りの向こうからゴードンのパーティーが歩いてきた。


「ああ、クロキさん、ロンの国ではまた大変だったみたいですね」


 ゴードンがいつもの調子で嬉しそうにクロキに声を掛けてきた。


「まあな、そっちはまた依頼だったのか?」

「ええ! 今回もバッチリでした」


 ゴードンが胸をドンと叩くと、アンナがゴードンのわき腹をつつき、ゴードンは敏感に反応する。


「またぁ、ゴードンのせいで道に迷って大変だったんだよ」


 アーノルドも腕を組み、呆れた顔をして、


「お陰で予定よりも任務達成が遅れて、報酬が20ペルケント(%)カットだ」


 と笑った。


 アンナとアーノルドから指摘されてゴードンはうなだれて落ち込み、リタが背伸びをしながら慰めるようにゴードンの頭を撫でた。


 そんな会話の後、アーノルドらはゴードンと別れてそれぞれの家に帰って行き、ゴードンが一人残された。

 クロキとヒースも帰ろうとしたところ、城からカイゼルが出てきた。


「おや、クロキにヒース、それにゴードン」

「あ……父上、お疲れ様です。もうお帰りですか?」


 ゴードンがかしこまって挨拶をした。


「少し早いが、今日はもう上がることとしたよ。ゴードンも帰るところか?」

「え、ええ……」

「そうか……そうだ、クロキとヒースも家に来たらどうかね。ちょうど午後のティータイムの時間だ」


 突然のカイゼルの提案に、クロキとヒースは顔を見合わせ、ゴードンは慌てたように、


「ち、父上、お二人も予定があるでしょうし、そんな急にお誘いしても迷惑では……」


 と言った。


「なに、少しの時間だ、それに二人には色々と助けてもらっているのでね、こんな機会でもないと労うこともあるまい。さあ、良いでしょう?」


 カイゼルにそう言われてはクロキとヒースは断れない。

 カイゼルについて歩き出したクロキとヒースの後ろで、ゴードンは重い表情をしていた。





 ネロス城を出て左手、ネロス城の南側に貴族が住まう住宅街があり、その中でもひときわ大きく古めかしい屋敷がカイゼルの屋敷であった。


 先祖代々モンテ皇国の重要な役職についているカイゼルの一族が代々住まう屋敷。

 築にして150年はゆうに経っている。


 門をくぐると広い庭があり、暖かな午後の日差しとともに穏やかな風が流れている。


「それでは、テラスにティーと菓子の用意をさせるので、テラスで待っていてくれたまえ」


 カイゼルは庭に面した一階部分のテラスを指さすと、従者とともに屋敷の中に入って行った。

 ゴードンが妙な表情をしているのでヒースは申し訳なさそうに謝った。


「ゴードンくん、こんな急に押しかけてしまって申し訳ないです」

「い、いえ、急にお誘いしたのはこちらですし、迷惑を掛けたのはこちらですし……」


 妙に落ち着かない様子のゴードン。


「あ、ああ、ええと立派なお屋敷ですよね。さすがカイゼル様の邸宅」

「え、ええ、ありがとうございます……」


 ヒースが気を使って話題を振るが、やはりゴードンにいつもの元気がない。

 ヒースは分からないようだが、クロキにはゴードンの挙動不審の理由に思い当たることがあった。

 要するに兄ギルバートと姉グレイスにかち合わないかと気にしているのだ。

 シュマリアン共和国でのやり取りで、ゴードンはギルバートとグレイスを避けているのが見て取れた。

 今も、落ち着かない様子で辺りをきょろきょろと見回している。


「あ、ゴードン」


 ふとどこからか声がして、声の方を見ると、車いすに乗った女性が庭の片隅にいた。

 どうやら家の裏手から庭に出てきたようだが、その車いすを押していたのは、何とギルバート隊の赤髪の騎士ダリオであった。

 クロキとダリオは目が合うと、互いに会釈をした。


「ゲルダ姉さん」


 ゴードンが車いすの女性――ゲルダの元に駆け寄る。

 ゲルダは、ゴードンの直ぐ上の姉、ギルバートとゲルダの妹であった。

 ゴードンが近づいていくと、ゲルダは花のような笑顔で嬉しそうに笑う。

 そして、ゴードンが、


「ダリオさん、お久しぶりです」


 とダリオにあいさつすると、ダリオは静かに頭を下げた。


「ええ、ゴードン様もお元気そうで」

「そう言えば、ロンの国では大活躍であったとか。街中で噂になっていますよ」


 ゴードンがそう言うと、ダリオは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ふふ、ゴードン、もう許してあげて? ロンの国から帰ってきてからそればっかりで、偉い人に呼ばれたり、ほかの騎士に絡まれたり、大変なのよ」


 そう言ってゲルダは車いすを押すダリオを振り向いて微笑んだ。


「そう言えば、あの方たちは? ゴードンのお友達?」


 ゲルダがゴードンの背後を覗くようにクロキとヒースを見て言った。


「あ、そうですね、姉さんは初めてでしたね」


 ゴードンがクロキとヒースに向かって手を上げ、二人を近くに招いた。


 クロキとヒースがゲルダに向かって挨拶をすると、ゲルダも


「ゴードンの姉、ゲルダと言います。弟と仲良くしてくださってありがとうございます」


 と丁寧にあいさつをした。


 すると、そこにカイゼル家のメイドが紅茶と茶菓子をトレイに乗せてテラスに出てきた。


「ゴードン様、ティーの用意ができました。ゲルダ様とダリオ様もご一緒にどうですか?」

「あら、私たちもご一緒して良いの?」


 ゲルダがそう言ってゴードンを向くと、ゴードンは「もちろんです」と笑って答えた。

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