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クロキの奥の手

 アトリス共和国の使者が宿泊する宿では、カミムラがテイショウを脱したという報告を聞いたオリバーがソファに深く腰を掛け、酒の入ったグラスを片手にくつろいでいた。

 オリバーがテイショウに残っていた理由は、もちろんカミムラの脱出を幇助するため。


 独自のコネクションを利用し、トウハイとカミムラをつなげた。

 トウハイに対しては、カミムラが奪取した宝剣に刻まれた古代文字を解明するための方法とカミムラをロンの国から脱出する方法を提供させることと引き換えに、破壊の七徒が世界を破壊した後、トウハイにロンの国を与えることを約束していた。


 カミムラが無事脱したのであれば、オリバーもテイショウにとどまる理由はなくなり、明日にでもアトリス共和国に帰ろうと考えていたところ、一人の兵士がオリバーの元に駆け寄って来た。


「オリバー様、トウハイの邸宅で……」

「カミムラ様が脱したことはもう聞きましたよ」

「い、いえ、そうではなく、トウハイの邸宅から火の手が上がっています」


 オリバーは直ぐにソファから立ち上がると、カーテンと窓を開けてトウハイの邸宅の方向を見た。

 夜の闇の中で、トウハイの邸宅が紅く光り、煙が立ち昇っている。

 そして、時折煙か砂ぼこりか分からないが、上空に白い靄が立ち昇るのに少し遅れて何かが屋敷を破壊する音が響いて来る。


「早急に状況の確認を」


 オリバーはそう指示すると再びトウハイの邸宅に目を凝らした。





 トウハイの猛攻にほとんどの者が倒れ、立っている者は残り少ない。

 カイとシーハンもかなりのダメージを受け、ドゥエンも右手の負傷のため思うようにトウハイに対処することができず、じわじわと傷を増やしていた。


 トウハイは空中に浮遊し、力を溜めている。

 強力な一撃でもって、屋敷ごとドゥエンたちを葬らんとしていた。

 そして、まさにトウハイの身体に力が漲ろうとしたそのとき、トウハイに向かって黒い球が放たれた。


「うおい! 本当に大丈夫なんだろうな、あいつのスピードだと簡単にかわされちまうぞ!」


 それは、ダグラスの放ったブラック・バレットであった。

 ダグラスの右手には、クロキに破壊されたリボルバー式の拳銃に代わって、クロキのオートマチック式の銃が握られており、負傷したダグラスの腕をクロキが支えていた。


「ああ! 俺は勝算のない賭けはしない主義だ」





 時は少し遡る。


「おい、おい起きろ」


 何者かが頬を叩く感覚でダグラスが目を覚ます。

 荒れ果てた屋敷に唖然とし、クロキを見て、自身の敗北を悟る。


 頭から垂れてくる血に気付くと、帽子越しに銃弾を受けた痛みを感じ始め、頭を押さえるため右腕を上げようとしたが、激痛が走り、見ると右腕に銃創があった。

 そして左手に握る銃はリボルバーが故障し、動かない。

 この様で、ダグラスはクロキに再度挑む気力も失った。


「あー、悔しいねえ、いいところまで行ったと思ったんだけどね」


 ダグラスがそう言って笑った背後で、大きな音を立てて屋敷が崩れる。


「な、何だありゃ……」


 異形と化したトウハイの姿にダグラスは言葉を失う。


「トウハイだ、いや、トウハイだったものだ」


 クロキの言葉にダグラスは息を飲む。


「このままでは、ここにいる全員、それだけじゃない、この街が壊滅する」

「は、はは……そんな大げさ――」


 ドゴオオオオ……


 ダグラスがそう言い終わる前に、轟音ともに屋敷の半分が崩壊した。


「ってわけでもないか」

「力を貸せ」


 ダグラスが驚いた顔でクロキを見た。


「奴にブラック・ホールを撃ってくれ」

「いや、いやいやいや」

「何だ? トウハイへの義理立てか? もはやあの状態になってしまえば手に負えるものではない、義理立てする必要もないと思うぞ」

「いや、そうじゃなくって」


 トウハイには寝床を用意してもらった恩はあるが、もとよりダグラスは金だけで動く男だ。トウハイのために命を張ろうとか身体を張ろうとか、そんな考えは毛頭なかった。

 それよりも、さっきまで本気で殺し合っていた自分に、真剣な眼差しで手を貸せと、それも命を預けるように勢いで頼むことが信じられなかった。


「合理的と言うか何と言うか……」


 ダグラスは帽子を深くかぶり直した。


「うん?」


 クロキが不思議そうな顔をする。

 そして、人差し指で帽子の唾を上げてダグラスがクロキに視線を向ける。


「やってやるよ」

「そうか、すまない」

「だけどブラック・ホールは無理だ。あれは銃が二丁ないとできない。ほら、一丁はお前に壊されたろ」


 ダグラスはクロキにリボルバーが故障した拳銃を見せた。

 クロキはその拳銃を少し触った後、腰のホルダーから自分の拳銃を取り出した。


「なら、俺のを使ってくれ」


 ダグラスはクロキの銃を手に取りしげしげと細部を眺める。


「へえ、よく手入れされているな。オートマチックでは試したことがないが……場合によっちゃぶっ壊れるぜ」

「構わん」


 クロキは即答した。


「オーケー、やってみよう」





 ダグラスが自分の拳銃とクロキの拳銃で放ったブラック・ホールは、自分の拳銃二丁で撃ったものよりも速度が遅く、サイズも一回り小さい。

 だが、空中を舞い散る瓦礫を飲み込む様子から威力に遜色はない。


「ぐぅぅ……くそ、ダメだやっぱりかわされるぞっ」


 ダグラスが歯を食いしばりながら、トウハイの動きを察知する。

 力を抜けば、ブラック・ホールは消滅してしまう。

 この速度とサイズを維持するので精一杯で、トウハイの動きに対応することは困難であった。


「何ダ、ソレハ、馬鹿ニシテイルノカ」


 トウハイはブラック・ホールの射線上から移動すると、ダグラスとクロキに狙いを定めた。


「頼んだぞっ!」


 クロキが叫んだ。

 先陣を切ったのはシーハン。


「アイス・ニードル!」


 トウハイに向かって数本の氷柱を放つ。

 速度を重視し、本数を減らしているが、トウハイはいとも簡単にかわす。

 しかし、トウハイの行く先を岩の壁が遮る。


「行かせませんよ!」


 地面に手をつけていたドゥエンはそう言うと身体を起こし、駆けだした。


「フン、コンナモノ」


 トウハイが翼を振って四方を囲む岩の壁を破壊しようとしたとき、


「魔導拳風の型、烈風刃!」


 カイが両手を合わせた状態で、トウハイの上から飛び掛かった。

 すると、カイの両手から風の刃が形成される。

 だが、これではトウハイにダメージは与えられない。


「ダブル・セゾン!」


 シーハンがカイに剣を向けると、カイの手から伸びる風の刃がさらに大きく、さらに研ぎ澄まされ、真空の刃となった。


 シーハンの唱えた魔法「ダブル・セゾン」は、任意の対象に任意の属性をエンチャントするシーハンの固有魔法であった。

 今、カイに付与した属性は、空気属性。

 カイの属性にさらに同じ属性を上乗せすることで、魔法の威力を向上させたのだ。


「うあああっ!」


 カイが真空の刃を振り下ろした。

 が、すんでのところでトウハイに回避され、真空の刃はトウハイの片方の翼を根元から斬り落とすので精一杯であった。

 トウハイは浮遊能力を失い、落下を始めたが、その表情には余裕があった。


「残念ダッタナ、翼ナドイクラデモ……」


 しかし、トウハイの真下でドゥエンが左拳に魔力を込めていた。


「これで終わりです!」


 ドゥエンが叫ぶと同時に、ドゥエンの足元の地面が猛スピードで上昇し、その頂点でドゥエンはさらにジャンプし加速しつつ、


「地崩拳!」


 と、左拳をトウハイに叩きこんだ。

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