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外道の始末

「トウハイさん、これはどういうことですか?」

「んぐ……」


 シーハンの問いにトウハイは即座に返答できない。


「では、その二人に事情を聞いてもよろしいですね」


 そう言ってシーハンがクロキに近づいていこうとすると、


「ちょ、ちょっと待て、その二人はうちの部下だ。訓練で熱が入ってしまったんだろう。とりあえず貴様らの目的の文化財とやらは全部見つかったのであろう、直ぐに屋敷を修理せねばならん。今日はもう帰ってくれ、ほかに何かあるのなら後日だ」


 トウハイがシーハンの前に立ちはだかった。


「おい、何を言っている、俺は別にお前の部下じゃ――」


 クロキの言葉を遮るように、ドゥエンがクロキに向かって人差し指を立てる。


「トウハイさん、私はここでお暇しますが、これ、約束の物です」


 そう言ってドゥエンは腰から金色に輝く棒を取り出し、トウハイに向かって投げた。


「な、お、おい!」


 トウハイは慌ててキャッチし損ね、棒は床に落ちた。

 金剛石が散りばめられた黄金色の棒。

 それはカミムラが奪った宝剣の柄であった。


「トウハイさん、これは……」


 シーハンが慌てて駆け寄り、柄を持ち上げ、トウハイに突き付ける。


「し、知らんぞワシは、知らん知らん」


 トウハイは必死に否定する。


「詳しい話をお聞きしたいのでご同行願いますか。そして……」


 シーハンは背後の捜索員を振り向き、


「屋敷内を捜索しろ、わずかな痕跡も見逃すな!」


 と指示をした。


 次々に屋敷内に散らばっていく捜索員にトウハイはさらに慌てる。


「おい、おい! 止めろ」


 カミムラがいた痕跡は隠蔽できているのか。

 それより、拉致した者たちを見つけられるのはまずい。


「おい! お前ら、出てこい! こいつらを止めろ!」


 トウハイの一声とともに屋敷内にいた部下たちが一階に集まって来る。

 ここで公安部に抵抗したとしても、後で裏から手を回せばどうとでもなる。

 今はとにかくこの公安部を止めなくてはならない。


 トウハイの部下たちと公安部が対峙し、そこかしこで小競り合いが起きる。

 クロキは好機と捉え、腰のホルダーから通信魔道具を取り出すと口元に当てた。


「入って来い。コウソンは屋敷の北側の厩舎脇の物置から入った地下にいる。俺はシュウリンを探す」





 トウハイ邸の正面の門の前にカイら魔導館の者たちが待機していた。

 トウハイの屋敷から大きな音が響いた後、しばらくしてカイの持つ通信魔道具にクロキから突入の指示が入り、十数人が門を蹴破ってトウハイ邸に向かって走り出す。


「私はコウソンを助けに行く、三人ついて来い、ほかの者はこのまま屋敷に突入し、クロキさんとともにシュウリンを探せ!」


 そう言うとカイは三人の門下生を引き連れ、屋敷の北側へと走り出した。





 クロキが気付いたときには既にドゥエンはいなくなっていた。

 結局カミムラの行き先は聞きだせなかったが、勝敗はつかず引き分けであったのだから仕方がないと諦め、混然とするロビー内を見回し、シュウリンがどこにいるか考えていたところ、トウハイが一人階段を上っていく姿が見えた。

 クロキは人混みをかき分けトウハイを追う。


 トウハイは3階まで上がり、東側の部屋に入った。クロキが静かにその部屋に近づくと、シュウリンの悲鳴が聞こえ、クロキは即座に部屋の扉を開けて室内に躍り込んだ。

 室内ではシュウリンのほか数人の若い娘、そしてシュウリンに向かってナイフを突き立てようとするトウハイの姿があった。


 クロキは咄嗟にトウハイの手に向かってナイフを投げ、トウハイの手からナイフを放すと、直ぐに走り寄りトウハイを壁際に蹴り飛ばした。


「一体どういうつもりだ貴様……」


 クロキが静かにトウハイを恫喝する。

 トウハイはナイフで傷ついた手の甲を押さえながら、苦悶の表情でクロキを見上げた。


「こいつらに喋られるわけにはいかん。喋られるくらいなら、ここで全員殺してやる」

「この娘らの口を封じても、もう貴様は終わりだ」

「ふん、知った風な口を聞くなよ小僧。俺が一声かければ全てひっくり返る。あの捜査官の女も直ぐに家族親族探し出して何も言えなくしてやる。お前も死ぬよりも辛い目に遭いたくなければ黙ってここから出ていけ!」

「癒着、恐喝、人身売買……良いねえ」


 クロキが楽しそうに微笑する。


「そういう分かりやすい悪人、大好きだぜ、何の気兼ねもなくぶっ倒せる」


 そう言うと、トウハイの顔面に前蹴りを入れた。


「あ、が……」


 トウハイの鼻骨が折れ、大量の血が流れる。

 そしてクロキは、鼻血を受け止めるトウハイの手に刀を突き刺した。


「死ぬよりも辛い目、って何だ?」


 刀を抜き、もう一度刺す。


「なあ、教えてくれよ」


 トウハイの手に突き刺した状態の刀を振り切ると、トウハイの指が部屋に転がり、シュウリンら娘たちが悲鳴を上げる。


「今よりも辛いことって、俺には想像できないんだよ、なあ」


 クロキは娘たちの悲鳴をよそに、トウハイの眼前にしゃがみ込むと、わずかに残った頭髪を掴んでトウハイの顔を持ち上げ覗き込んだ。


「カミムラは何でお前を頼った」


 トウハイの顔を床に叩きつけ、そして起こす。

 トウハイの前歯が折れ、口からも血が流れ出している。


「ゆ、許してください……」


 クロキはもう一度トウハイの顔面を床に叩きつけて起こす。


「もう一度聞く、カミムラはここに何の用があって来た」

「あ、ああ……よ、良く知らないんだ」


 さらにもう一度床に叩きつけて起こす。


「き、聞け! 良く知らないが、宝剣の秘密を解くのに、うちにある古代遺跡から発掘された物が必要だとか何とか」


 古代遺跡から発掘された物、それはシーハンのリストにある失われた遺物のことか。


「た、頼む助けてくれ」


 クロキは冷たい視線で、血だらけで涙を流すトウハイの顔を見た。

 先ほどの脅しはどこへやら、トウハイはクロキに怯え切っている。

 トウハイは無我夢中でクロキの腕を振り払うと、部屋の入り口に向かって走り出した。

 だが、クロキがナイフを投げトウハイの両足に当てると、トウハイは転倒し、立ち上がることができなくなる。

 クロキはゆっくりと立ち上がると、刀を肩に担ぎ、トウハイに向かって歩いていく。


 このままでは殺されるとトウハイは感じた。


「あ、ああ、助けてくれ」

「あん、何言ってんだ? 何で俺がお前を助けなくちゃならないんだ?」


 いやだ、死にたくない。

 トウハイは、上着の内ポケットから注射器を取り出すと、震える指で針を覆うカバーを外す。


「ん? 何してる!」


 クロキが注射器に気付いて叫ぶと、トウハイはクロキを振り向き、笑いながら自分の首に針を突き刺した。

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