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打ち砕け、地崩拳

 クロキとドゥエンが戦っていた所は3階である。

 この高さから無策で落ちればただでは済まない。

 クロキは自分の服を掴むドゥエンの手をナイフで突き刺すと、ドゥエンはクロキから離れ、続けてクロキはワイヤーを庭の樹に引っ掛けて減速し、地面に倒れるように着地した。

 一方のドゥエンも魔法により地面を柔らかくすることで、衝突の衝撃を和らげていた。


 二人が立ち上がる瞬間はほぼ同時。

 だが、ドゥエンの動きを警戒するクロキに対し、ドゥエンは魔導拳の構えをすると、


「魔導拳土の型、走狗蹴撃!」


 と、クロキに向かって踏み出す。

 すると、踏み込んだ足元の地面がクロキに向かって突き出すように動き出し、ドゥエンは打ち出されるがごとく跳び立ち、一瞬で間を詰めつつ高速の蹴りを放った。

 クロキが間一髪かわすと、ドゥエンの脚は屋敷の壁を貫通する。

 ドゥエンは脚を壁から抜くと、間髪入れずクロキとの距離を詰め、クロキは身構え、受ける体制を取ろうとしたが、


「岩砕陣!」


 とドゥエンが脚を踏み込むと、クロキの足元の地面が揺れ、砕け、クロキはバランスを崩してしまった。

 そして、バランスを崩したクロキの顔面に向かって、アッパー気味にドゥエンの拳が炸裂し、クロキは吹っ飛ばされた。


「ふむ……?」


 ドゥエンは拳の感触に不思議そうな顔をする。

 クロキが寸前で、手のひらでガードしていたことに気付き、


「岩礫飛弾」


 と言うと、ドゥエンの足元の石がクロキに向かって飛んでいく。

 その石とほぼ同時にドゥエンも走り出し、石をガードするクロキの死角に回り込みクロキに向かって蹴りを放つと、クロキはまたもや吹っ飛ばされ、屋敷の壁に激突した。

 ドゥエンは油断せず、間を置かずにクロキに向かって行こうとしたが、脚を止めた。

 地面に鉄製の棘、まきびしが散らばっており、その一つがドゥエンの靴底を貫通し、足の裏に突き刺さった。


 その間にようやくクロキが体制を立て直す。

 ドゥエンの攻撃は間一髪ガードしているが、ガードした腕の痺れが治まらない。

 土系魔法で相手の態勢を崩し、その隙を突いて攻撃する、魔導拳土の型は非常にやりづらかった。

 そして、さらに大きな隙を見せれば、必殺の一撃「地崩拳」が放たれるだろう。

 ドゥエンは、今度は地崩拳を放つ隙を生み出すまで休む間もなく猛攻を続けるに違いない。

 それならば――


「試してみるか」


 クロキは大きく息を吸い、構えた。


「沈泥砂」


 ドゥエンが地面を殴ると、まきびしが散らばった地面が泥化し、まきびしを泥の中に飲み込み、そして、再び固い地面となった。

 障害物のなくなった地面を蹴ってドゥエンがクロキに向かって行く。

 クロキはドゥエンが魔法を唱えようとする気配を察知し、ドゥエンに向かってジャンプしながら蹴りを放つ。


「ならば!」


 ドゥエンがもう一度地面を殴ると空に向かって土の壁が形成され、クロキの蹴りを止めた。

 ドゥエンはクロキが着地するタイミングを狙って土の壁を裏側から殴りつけると、土の壁が破壊され、クロキに向かって土片が飛び散り、クロキは思わず腕でガードした、と同時にドゥエンは土片とともにクロキに接近し、再び土魔法を絡めた接近戦を仕掛け始めた。

 急所を突くドゥエンに対し、クロキは体勢を崩しながら、ぎりぎりでかわし、受ける。

 防戦一方となっていた中で、ついにドゥエンの右背側蹴りがクロキにヒットし、クロキの肋骨にひびが入った。


「ぐぅっ……」


 まだ肋骨で良かった。

 内臓であれば、溜めた気力が全て吐き出される。

 だが、肋骨であれば、浅い呼吸を継続し、力が抜けることを防ぐことができる。


 クロキは屋敷を背にして体勢を整えつつ、浅い呼吸を繰り返しながらドゥエンを見た。身体はふらつくが、ドゥエンの動きに集中し、両手を前に構える。


「さあ、終わりです!」


 ドゥエンが右拳に魔力を込める。

 と同時に走狗蹴撃によって瞬時に間合いを詰め、そして、クロキに向かってとどめの一撃、


「地崩拳!」


 を放った。


 ドドドン!


 壁を突き破り、屋敷のロビーに転がり込んでくる人影。

 トウハイもシーハンらもただただ驚き、その人影を見つめていると、その人影は転がる勢いを利用し、ロビーの中央で立ち上がり、自分が突き破った壁の穴を見た。


「ドゥエン!」


 トウハイが叫ぶ。

 ロビーに突入してきたのはドゥエンであった。

 ドゥエンは右手を押さえており、よく見ると、肘があらぬ方向に曲がっている。


「一体……何が……」


 ドゥエンは、クロキに地崩拳を放った次の瞬間、屋敷の壁、そして、ロビーの隣の部屋を突き破り、ロビーまで吹っ飛ばされていた。


 屋敷の壁に開いた穴からクロキが姿を見せる。

 顔は天を仰ぎ、肩で息をし、満身創痍のように見えたが、地崩拳のダメージはほとんどないように見える。


 クロキは壁の穴を通り、右手の指を押さえながらドゥエンに向かって歩いて来る。

 脱臼した右手の指を無理やり直しているのだろう。


 ドゥエンの頭の中でさっきまでの一連の流れがリピートされ、そして気付く、地崩拳が命中する直前、クロキの身体から魔素(マナ)を感じた。


「……そうか、完成させていたんですね」

「ああ、『浮葉』という」

「しかし、魔素(マナ)を溜めている様子はありませんでした」


 クロキは、地下遺跡でジャックが動きながら少しずつ身体に魔素(マナ)を取り込んでいたことを思い出し、見よう見まねで試したのだ。


 結果は成功。

 ただし、必要な魔素(マナ)を100パーセント溜めることはできなかったため、ドゥエンに対して致命傷を与えることは叶わず、クロキ自身は右手の中指、薬指、小指を負傷し、地崩拳の衝撃を身体に受けてしまっていた。


「完ぺきとは言えないが、今回はこれで十分だ」


 クロキとドゥエンが再び対峙する。


 だが――


「今日は引き分けとしましょう」


 ドゥエンがそう言うとクロキも頷き、構えを解いた。


「お、おい、どういうことだドゥエン、そいつは何者だ!」


 トウハイがドゥエンに向かって叫ぶ。

 ドゥエンは説明するのが面倒というようにため息をついた。


 クロキはシーハンがクロキを見ているのに気づき、シーハンに向かって首を振った。

 結局カミムラがここにいたという証拠を手に入れることができなかった。

 ダグラスとドゥエンの邪魔がなければ手に入れることもできたであろうが、こうしてトウハイの前にクロキが姿を現わしてしまった以上、作戦はここで終了だ。

 後は地下牢のコウソンと、まだこの屋敷のどこかに監禁されているシュウリンを見つけ出すことで、トウハイを追求することをシーハンらに任せるしかない。

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