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見失う手がかり

 ブラック・ホールは消え失せ、ダグラスが肩で息をしながら床に膝をついている。


 クロキの作戦はまんまと成功した。

 ブラック・ホールが爆発の衝撃を吸い込んだため、ブラック・ホールは急激に不安定となり、ダグラスはコントロールを失ったのだ。


 ブラック・ホールを停滞させた部屋は、天井は剥がれ、床は抜け落ち、壁には穴が開いている。

 散々たる室内に、クロキも無事では済むまいとダグラスは思った。だが――


「あっはっは、さすがですね」


 ドゥエンの楽しそうな声が聞こえたかと思えば、背後からクロキが刀を振り上げ、ダグラスに飛び掛かって来た。

 爆風で窓の外へと飛ばされたクロキは、ワイヤーを使って隣の部屋に入り、ダグラスの背後に回ったのだ。


 クロキの刀を間一髪ダグラスは左手の拳銃で受け止める。

 そして、右手の拳銃を構え、貫通力のあるストーン・バレットを撃つため、可能な限り拳銃に魔力を溜める。

 クロキはストーン・バレットが放たれる寸前で拳銃を脚で蹴ると、回転しつつさらにダグラスを蹴った。

 ダグラスは体勢を立て直しつつ刀を受け止めた方の拳銃を撃とうとしたが、リボルバーが故障し、トリガーを引くことができない。

 そのため、反対側の手に握る拳銃を向けてアイス・バレットでクロキの足止めを図ろうとしたとき、二発の発砲音が響き渡り、ダグラスの頭に強い衝撃が与えられ、ダグラスは仰向けに倒れた。


 クロキの手には元の世界から持って来た拳銃が握られていた。

 クロキが放った弾丸は、ダグラスの左腕と中折れ帽の真ん中、ちょうど頭部を直撃した。


「おお……」


 以外な攻撃に傍観していたドゥエンも思わず唸る。


 クロキはトリガーガードに指を入れたままくるくると拳銃を回すと、腰のホルダーにしまった。

 実のところ、弾は2発しか残っていなかったため、ダニ・マウンテンでのキングウルフとの戦いを最後に、これまでの戦いでは使用してこなかったが、ダグラスが普通の銃弾を所持していることから、この世界でも銃弾を製造することが可能であると考え、虎の子の2発を使用したのだ。


 クロキはひとまずダグラスの持っている銃弾を拝借しようとダグラスに近付いていく。


「ん……?」


 ダグラスは額から血を流していたが生きていた。気を失っているだけであった。

 クロキはダグラスの中折れ帽を持ち上げ帽子の中を確認すると、中折れ帽は内側に特殊な素材を用いた防弾仕様となっており、クロキの放った銃弾は中折れ帽を貫通していなかった。

 だが、強い衝撃によってダグラスは脳震盪を起こし、気を失ってしまったのだ。


 クロキは口径が異なるダグラスの銃弾をわざわざ拝借するのを止め、後でこの世界で製造する方法を聞くこととし、ダグラスをそのままにドゥエンに向かって歩き始めた。


「クロキさん、お見事です。ダグラスさんとは一度手合わせをしたいと思っていたのですが……」


 クロキは無言でドゥエンの前に立った。


「クロキさんに負けたのなら、私はより強いクロキさんと戦います」


 クロキは、ドゥエンがなぜここにいるのか、トウハイとどのような関係なのか、聞きたいことがいくつもあったが、たった一つの質問をぶつけた。


「ドウェンさんに聞いていいのか分からないが……カミムラはどこにいる?」


 ドゥエンは口を結んだまま口角を上げ、笑い、そして口を開いた。


「3階の西です」


 その一言で充分であった。

 クロキは3階に向かって駆け出した。


 ドゥエンはクロキの後姿を見送ると、クロキと同じ方向に向かって歩きながら、上着を脱ぎ棄てた。





 3階の西側の端から2番目の部屋。

 図面上では広い部屋であったが、客間とも応接室とも見当がつかない、用途の見えない部屋であった。

 ドゥエンの言う3階の西の部屋とはこの部屋で間違いないだろう。


 クロキが3階に上がると、目指す部屋の前に三人のトウハイの部下がいた。

 三人がクロキの気付いたときには既に遅く、瞬く前に二人が刀で峰打ちにされ、残る一人は流れるように締め落とされた。


 クロキは息を整え、ドアの取っ手に手を当てる。

 そして一瞬の間を置いて、ドアを押した。


 室内はカーテンが閉め切られ薄暗い。

 目立った家具は一切なく、壁と部屋の中央に燭台が置いてあるばかり。

 燭台のろうそくに火は灯っていなかったが、入り口のすぐ横の燭台に触れるとまだわずかに熱を帯びていた。

 何もない部屋を見回すと、床に大きな汚れを見つけた。

 よく見るとただの汚れはない。

 床に描いた魔法陣を雑に消した跡であった。


 魔法陣の種類などクロキは知る由もなかった。だが、この魔法陣が何のためのものであるかは容易に想像がついた。


「くっそぉぉぉ!」


 クロキは壁を殴る。


 再びカミムラを逃した。


 おそらくカミムラらメソジック帝国の者は、この魔法陣によって空間転移をしたのだろう。

 燭台の熱を鑑みるとついさっきのことだ。

 寸でのところでカミムラとニアミスしたことが、クロキにとっては悶えるほどに悔しかった。


 ふらふらとクロキは部屋を出る。

 せめてカミムラがこの屋敷にいたという証拠を手に入れなければ、いや、その前にコウソンの妹を探すか、などと考えていると、視界の端に白い衣装が見え、クロキは思わずその方向を見た。


 腰の後ろで手を組んでクロキに正面を向けて堂々と立つドゥエン。


 いつもの紺色の長袍ではない。

 カミムラやジャックと同じ白の長袍。


「それは……いや、そうか……」


 ドゥエンがこの屋敷にいることとつながりクロキは直感した。


「カミムラの仲間だったのか」

「はい」


 ドゥエンが肯定した瞬間、二人の間に緊張が走る。


 その張り詰めた空気の中、クロキはドゥエンに向かって歩き出す。


 そう言えば、ドゥエンの出自も経歴も聞いていなかった。

 クロキは別段ドゥエンに騙されたという思いはなかったが、なぜドゥエンがカミムラに加担するのか、それだけが気になっていた。

 だが、今は確認している状況ではない。

 早くシュウリンを見つけ、カミムラの痕跡を手に入れなければ。


 そう考えながらクロキがドゥエンの横を通り過ぎようとしたとき、


「カミムラさんは、メソジックには帰っていません」


 ドゥエンがクロキの耳元で囁いた。

 ドゥエンの言葉にクロキはドゥエンを向く。

 すると、ドゥエンの拳がクロキを襲い、クロキは咄嗟に回避して、ドゥエンと距離を取った。


「どういうことだ」

「知りたいですか?」


 ドゥエンの眼がクロキを挑発している。


「知りたいのなら、私を倒してごらんなさい!」


 ドゥエンがクロキに向かって駆け出し、拳を突き出した。

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