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異邦人ダグラス

「おいおいマジかよ、かわすか、これ」


 クロキが壁の陰から顔を出して廊下の奥を見ると、中折れ帽を目深に被り、黒縁眼鏡を掛けたスーツ姿の男。

 その手には拳銃が握られていた。


「おいおい、マジかよ……」


 クロキも思わずつぶやく。


 どう見ても異邦人だ。

 帽子の下に傷のある頬が見え、高い鼻と彫りの深い顔、欧米人であると思われた。

 クロキは壁の陰から男に向かってナイフを投げる。

 男はナイフを銃弾で弾くとともに、一瞬見えたクロキの身体に向かって銃を撃った。

 クロキは今の一瞬で、男の銃がリボルバー式であることを確認した。

 発砲音が非常に小さいが、おそらく魔法によるものであろう。

 先ほど1発、そして今4発撃ち、残りは1発。


 クロキは壁から飛び出した。

 銃弾を補充される前に攻撃を仕掛ける。

 男は迫り来るクロキに向かって引き金を引いたが、クロキは銃弾をガントレットで弾き、先ほどの三人と同じように気絶させようと男に飛び掛った。

 リボルバーは空の筈であった。

 だが、男が引き金を引くと、クロキの胸に銃弾が命中し、クロキは男の脚元に崩れ倒れた。


「ふう、危なかったぜ……え?」


 クロキを倒したと思い見下ろす男をクロキの脚が襲う。

 だが、男が咄嗟に銃口をクロキに向けたため、クロキは蹴りを止め、すぐ横の扉から部屋の中に逃げ込んだ。


 棚の影に隠れながら胸を見ると、銃弾ではなく銃弾の形をした石が防弾チョッキにめり込んでいた。

 威力は銃弾と変わらない。

 クロキは痛みを堪えながら、室内に入って来る男の動きに集中する。

 男は先ほど撃ち落としたナイフを手に持って眺めていたが、ふと室内を見渡した。


「まさか、防弾チョッキか? まさかとは思うが、あんたも俺と同じか?」

「ああ、どうやらそうみたいだな……!」


 そう言いながらクロキは男に向かって棚を倒した。

 そして、男の背後を取ろうと、倒れる棚を足場に跳び上がった。


「ウインド・バレッド!」


 男が棚に向かって引き金を引くと、竜巻のような暴風を纏った空気弾が放たれ、周囲の物を風圧で粉砕しながら全て吹き飛ばしてしまった。

 クロキも天井に叩きつけられたが、風の勢いを利用し、男の背後を取ることに成功した。

 そして、男に向かって刀を抜く。

 男は間一髪反応し、身を翻したが、刀が拳銃に当たり、拳銃を床に落としてしまった。

 すかさずクロキは拳銃を脚で踏み、男の眼前に刀を突き付ける。

 男は呆気なく両手を挙げた。


 男の全身を改めて見てクロキは呟く。


「やっぱり異邦人か……」

「それは俺の台詞でもある。あんた名前は?」

「言う必要はない」


 クロキは即座に断った。


「おいおい、連れないこと言うなよ、どうもこの辺では戦う相手と名乗り合うのがしきたりなんだろ? 今日、連れてきた若者が言っていたぜ」


 こいつか、コウソンがこっぴどくやられたという奴は。


「俺はダグラス。前の世界では、ニューヨークで用心棒をやっていた」

「なぜ、トウハイの元に?」

「本当は別の国で召喚されたんだけどよ、護衛でこっちに来たときにトウハイ氏にスカウトされてね。さあ、俺の自己紹介は終わった、次はあんた番だぜ」


 しかし、クロキはダグラスを無視して、ダグラスを気絶させようと剣を構えた。


「おいおい、そりゃないだろ」


 そう言いながらダグラスがクロキに向かって手を伸ばすと、袖の中からナイフが飛び出し、ダグラスはそのナイフをクロキに向かって突き付けた。

 クロキは足の下の拳銃を蹴り飛ばしながら、ナイフをかわす。

 ダグラスは、ナイフを持つ手とは反対の手で拳銃をもう一丁取り出すと、クロキに向かって撃った。

 クロキは部屋から出て、廊下を走り、身を隠す場所を探す。

 ダグラスはクロキに蹴り飛ばされた拳銃を拾うと、両手に拳銃を握り、クロキの後を追って部屋から出た。


 廊下の先にクロキが見える。

 ダグラスは走って追いかけながら、


「ストーン・バレット」


 と石の銃弾を連射したかと思うと、片方の拳銃に魔力を込め、


「アイス・バレット」


 と、引き金を引いた。

 銃口から氷の弾が発射され、クロキの足元に着弾すると周囲を凍らせる。

 クロキは咄嗟にジャンプしてかわしたが、空中で無防備になったところを石の銃弾が襲う。

 空中でかわしきれないと見るや、折りたたんだ巨大手裏剣を腰の後ろから取り出し、それを盾にして急所は防いだが、いくつかが身体を掠めた。

 しかし、クロキは怯むことなく空中で巨大手裏剣を展開し、ダグラスに向かって投げつけた。

 ダグラスは魔力を少し溜めて、風の銃弾を放ち手裏剣の威力を弱めた上で、数発の石の銃弾で弾き、手裏剣の方向を変えた。


 その間にクロキは近くの部屋に入り身を隠していた。


 ダグラスの魔法が見えてきた。

 属性を乗せた魔弾を拳銃から撃ち出す魔法。

 実質、無限に銃弾を撃てる石の銃弾「ストーン・バレット」

 着弾点の周囲を凍らせる「アイス・バレット」

 竜巻を巻き起こす「ウインド・バレット」

 当然、火属性の魔弾もあるに違いない。

 さらに、魔力の溜めで威力を調節できるとみた。


 案の定、壁を貫通して石の銃弾がクロキを襲う。

 魔力を溜めることで、銃弾を長く、固く、ネジのような形にして回転力を上げている。

 直撃すれば防弾チョッキと言えども防ぎきることはできないだろう。


 ダグラスは部屋の外から二丁拳銃で貫通力のある石の銃弾を撃ち続けた。

 もちろん中の様子は分からないため当てずっぽうであったが、石の銃弾で開いた壁の穴が、綺麗に円状になっている。

 その中心にウインド・バレットを当てれば、壁に大きな穴が開き、中の様子が見える。

 ダグラスは魔力を拳銃に溜め、ウインド・バレットを撃とうとしたとき、


「ダグラスさん!」


 とどこからか名前を呼ぶ声が聞こえ、思わず左右を見た。


 誰もいない。


 空耳か。


 いや、音を操る空気系魔法エコーだ。

 そう気付いたときには、大きな音とともに壁がダグラスに向かって飛んで来た。

 ダグラスがウインド・バレットを当てようとしていたもろくなった部分が、逆に内側から蹴り飛ばされたのだ。

 自らの思惑をクロキに利用された格好となったダグラスは、思わぬ事態に動きを止め、迫りくる壁を腕でガードするので精いっぱいであった。

 思ったほど重くないと思ったのも束の間、クロキが壁を踏み台にしたことにより、さらなる圧がかかり、ダグラスは押し倒された。

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