昂天祭閉幕
「あっ、ああ! 先を越されちゃうよ!」
レオポルドが声を上げるが、既に遅い。
ダリオとフリッツは力いっぱい石造りの扉を押した。だが、押しても引いても扉は開かない。
扉をよく見ると、扉には左右を合わせて三組の両手型の模様があることに気が付いた。
どうやら三人いなければ開かないようだ。
その間に、凍り付いていた岩石兵が動き出し、攻撃を再開する。
このまま戦っても時間を食うだけ。それに、負傷者も多く、時間をかけるわけにも行かなかった。
この状況を即座に打開する方法。
それは、この茶番を終了させること。
早急に誰かが優勝者となることであると、オーウェンは結論付けた。
そして、そのことにはクロキも気付いた様子で、オーウェンに先んじてダリオとフリッツに向かって走り出していた。スピードはオーウェンよりもクロキの方が勝っているため、クロキが向かうのが最良とオーウェンも判断し、クロキの援護をするため岩石兵に攻撃を与えていく。
おそらくダリオとフリッツのもう一人の仲間はテオだろう。だが、テオの位置からここまでは距離があり直ぐには合流できない。
そして、この遺跡、入り口の仕掛けを作ったのはロンの国の者ではなく、古代遺跡を作った古代人に違いない。であれば、扉を開ける三人はこの余興のチームメイトではなくとも良いはず。
クロキとオーウェンはそう考えていた。
クロキが猛スピードで向かって来るのを見て、ダリオとフリッツは武器を構える。
だが、
「俺が手伝う! 開けるぞ!」
とクロキが叫ぶや、直ぐに武器を降ろし、フリッツは左の扉に、ダリオは右の扉に両手を当てた。
そして、クロキは左の扉に左手を、右の扉に右手を当てると、走って来た勢いのまま全力で扉を押した。
扉がゆっくりと開いていく。
扉の先には正面に長い石段。そして石段の先、はるか上には、天井を形成する岩盤の隙間から射しこむ光に照らされた祭壇があった。
フリッツは達成感で安堵し、ダリオもゆっくりと石段を登り始めた。が、
「何してる、早く行け!」
クロキが叫んだかと思うとジャックがクロキらに向かって突撃してくる。
「どけぇ!」
ジャックは一等先に祭壇に到達したようと全速力で向かって来る。
しかし、クロキがジャックの前に立ち塞がった。
「クロキ! どけぇ!」
クロキの刀とダガーナイフが打ち合い、二人はつばぜり合いをしながらにらみ合う。
「悪いが……お前の勝ちはないっ!」
クロキがジャックを弾きながら腹に蹴りを入れて建物の外へと吹っ飛ばした。
そして、その間にダリオが祭壇に到達し、中央の台座に置かれた金の玉璽を手に取った。
すると、再びどこからともなく声が響き渡る。
「おめでとうございます。優勝者が決まりました。皆さまを地上へとお戻しします」
その声が終わると、ショウエツの死体も含めて、建物の内外にいる全員の身体が白い光に包まれた。
「決着が着いたようだな」
皇帝タイソウは、皇后に注がれた酒を飲み干すと、盃を皇后に渡し、立ち上がった。
「はい、あの赤髪の青年はモンテ皇国の騎士のようですな」
大臣の言葉にタイソウはうなずく。
「そうか、最後、三人で扉を開けた後に、三人で一つの玉璽を奪い合う様も見たかったが、まさかこんな形で終わりとはのう」
「はい……」
「だが、巨大化する術などという思わぬものも見ることができて余は満足じゃ」
「なかなか面白い者たちがおりましたな」
「そうよな、金色の髪に隻眼の白装束の男、眼鏡を掛けた槍使い、そして――」
「黒づくめの男ですな」
タイソウは大臣に向かってニヤリと笑う。
「ふむ、まあ、最後まで残った者たちは皆、見るべきところがあったがな」
「では、表彰式ですが……」
「分かっておる、行くぞ」
クロキを包む白い光が消えると、そこは、始めに集合した遺跡公園とは異なる場所であった。
海を望む高台で、遺跡公園ほどではないが、辺りに遺構のようなものが見て取れた。
そして、辺りを見回すとレオポルド、オーウェン、ダリオ、テオ……と先ほどともに岩石兵と戦っていた者たちだけでなく、予選でクロキと戦った者の姿もあった。
オウギュスト、リドリー、トラヴィスは重傷のため、直ぐに治療のために運ばれて行き、オーウェンは、フリッツと、途中で離ればなれになったもう一人の仲間の女と無事を喜びあっていた。
ジャックは――
クロキが辺りを見回すが姿が見えない。
ソフィアとかいうメソジック帝国の女騎士の姿もなかった。
不審に思っていると、
「ああ、クロキさん!」
と言う声とともにヒースが駆け寄って来た。
「おお、ヒースどうしてここに?」
「今日は、博物館や歴史の研究家の方を訪ねて、そしてちょうど、この遺構を見に来ていたんですよ。それより大丈夫ですか、肩を怪我しているじゃないですか」
「ああ、そう言えば……」
岩石兵や巨大化したショウエツとの激闘の中でクロキは怪我をしていることを忘れていたが、ヒースの指摘で思い出すと、急に傷が痛みだした。
「クロキさん、怪我を治療しましょう」
オーウェンが仲間の女騎士を連れてクロキの元にやってきたが、クロキの傍にヒースがいることに気付くとオーウェンは眼鏡を上げ、ヒースに笑顔で近寄り握手をした。
「おお、ヒースさんお久しぶりです。お元気でしたか。あれからあなたの書いた論文を拝見させていただきました。大変興味深い。最新の論文を取り寄せて読ませいただきましたが、あれによると——」
「はいはい、ストーップ、俺の治療をしてくれるんでしょう」
オーウェンの意外な勢いに、ヒースが豆鉄砲を食らったハトのような顔をしていたため、クロキは無理やりオーウェンを遮った。
「あ……え、ええ、失礼しました」
オーウェンは恥ずかしそうに眼鏡を上げると、
「では、頼みます」
と後ろに立つ女騎士にクロキの治療を頼んだ。
クロキは上着を脱ぎ、肩を露にして女騎士のヒールを受け始めると、ヒースがコホンと一つ咳ばらいをして話し始めた。
「先ほどはちょっとオーウェンさんに圧倒されてしまい、言う暇がありませんでしたが……クロキさん大事なお話があります」
ヒースが改まって真剣な眼差しをクロキを見つめる。
ただならぬ雰囲気に、クロキは自然と居住まいをただし、オーウェンも興味深げにヒースの話に耳を傾けた。