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ショウエツの絶技

「お前、知っているのか?」


 ティムが聞くと、カイはうなずいた。


「あいつは、ロンの国で仕合と称して、十数人の戦士を殺した男。一級の犯罪者よ」

「ふん、戦闘が好きなのか、人を殺すのが好きなのか、良く分からねえな」

「この際、どっちでも良いわ、私たちが、あの男と戦わなくてはいけないことには変わりはないから」


 カイとティムの会話がショウエツの耳に入り、ショウエツはカイに狙いを定めた。


「俺のことを知っているようだな。だったら分かるだろう、俺と対峙したが最後、逃げることなんざできねえ、戦うしかないってな」


 そう言うと、ショウエツはカイに向かって走り始めた。

 カイとティムが迎撃の構えをする。

 ショウエツがカイに向かって柳葉刀を振るうと、カイは腕のシールドで受け、もう片方の腕でショウエツを殴ろうとしたが、ショウエツはカイを蹴って距離を取ると、離れた位置から柳葉刀を縦横無尽に振るい、風の刃を放った。

 それに対してカイは拳を握り構え、


「魔導拳風の型、風神拳!」


 と言って、空中に向かって拳を振るうと、カイの拳から風の拳がショウエツに向かって放たれた。


「はっ、魔導拳か!」


 ショウエツは楽しそうに叫んだ。





 クロキは、ジャックの相手をしながら、「魔導拳」という言葉が言い交わされるのを聞き、思わずカイを見た。

 魔導拳――以前出会ったドゥエンという男が使っていた武術。

 そう言えばドゥエンははるか東の国から来たと言っていた。それはここ、ロンの国か。


「よそ見してんじゃねえぞ!」


 ジャックが叫びながら斬りかかるのを、クロキはいなし、再びジャックを攻撃する。





 カイの放った風の拳は、ショウエツの風の刃に衝突し相殺する。

 しかし、ショウエツの手数の方がわずかに多く、カイは風の刃を受け、身体に傷を受けた。


「おい、大丈夫か! 俺が前に出る、援護を――」


 ティムはカイの前に出ようとしたが、カイは遮り、構える。


「魔導拳風の型、疾風怒濤!」


 カイが次の攻撃に移ろうとしたとき、


「お前も面白そうだが、俺はあいつらが良い」


 とショウエツは言ってクロキとジャックに向かって走り出した。


「さあ、俺と遊ぼうぜ! 受けろ、俺の固有魔法風刃斬り(ストーム・スラッシュ)!」


 ショウエツが大きく柳葉刀を振りかぶる。


「あ?」

「何だお前」


 クロキとジャックが攻防の最中でショウエツとすれ違い、何事もなかったかのように攻撃を継続する。

 一方ショウエツは、よろよろとゆっくり回転しながら血を噴き出し、倒れた。


 一瞬の決着に、カイは唖然とする。

 ロンの国では名うての戦士であったショウエツが、全く相手にならず倒されるとは。


 その光景を目の当たりにしていたトラヴィスとオーウェンは感心していた。

 そのとき、足元の地面が揺れ、天井から細かい岩塊が落下してくる。


「うん? なんだ?」


 トラヴィスもオーウェンも天井を見上げた。





 くつろぎながら見ていたロンの国の皇帝タイソウは、その光景に身を乗り出す。


「おお、なんだ、何が起きる」

「ふむ、言い伝えにある、『岩石兵』ですかな。私も初めて見ます。どうやら、戦闘が激しくなったので、永い眠りから目覚めたのでしょう」

「はっはっは、面白くなってきたのう」


 タイソウは食い入るように鏡に映る地下遺跡を見ていた。





 巨大な建物の周囲の地面が跳ね上がり、石床の下から岩石が隆起してくる。

 それらの岩石は2メートルほどの大きさに腕と脚が生え、クロキらの一団に向かって歩き始めた。


「なんだ、あれは」


 トラヴィスがそれに気づく。

 岩石は、オウギュストチームに接近すると攻撃を開始した。

 オウギュストの仲間が、岩石兵の攻撃からオウギュストをかばうが、岩石兵のパワーに潰され、吹っ飛ばされる。


「オウギュスト!」


 レオポルドが傷だらけのオウギュストの助けに入り、ハンマーで岩石兵を砕く。

 しかし、岩石兵は固く、一撃では砕けきらず、二撃目でようやく身体全体を砕くことができた。

 岩石兵は次々と押し寄せ、戦場は大混乱となった。


「くそっ、なんだこいつらは」

「邪魔だ、どけえ!」


 クロキとジャックのもとにも岩石兵が押し寄せ、二人を分断し、二人は岩石兵の相手をせざるを得なくなった。


 そんな中、トラヴィスのチームメイトであるメソジック帝国の女騎士ソフィアが歩き出す。


「良いタイミングね、そろそろ私も動かないと」


 ソフィアは倒れたまま動かないショウエツに近づくと頭の前にしゃがみこんだ。

 ショウエツは身体から血を流し、虫の息となっている。

 ソフィアに気付くと、ショウエツは眼で助けを求めた。

 このまま放置すれば死ぬだろう。だが、直ぐに手当てをすれば助かるかもしれない。


「大丈夫助かるわ……多分ね」


 そう言うと、ソフィアは上着のポケットから注射器を取り出し、針の部分を覆ったカバーを外してショウエツに薬剤を注射した。

 針を抜くと、一瞬を置いてショウエツの身体が震えだし、そして、ショウエツの筋肉がみるみる膨れ上がった。


「何ですかあれは、全く非常識だ!」


 オーウェンの視線の先には、8メートルほどの大きさに膨れ上がったショウエツの姿があった。

 その身体は、肉が膨れ上がり元の姿を残しておらず、理性も失われ、ただ暴れ回るだけの化け物であった。


 大きな騒ぎにリドリーが目を覚ます。

 自分がレオポルドに一撃を与えられたことすら理解できていない様子で、上を見上げると、巨大なショウエツの拳がリドリーに振り下ろされていた。

 咄嗟にトラヴィスがリドリーの前に立ち、化け物と化したショウエツの拳を受け止めようとするが、その勢いに二人とも吹き飛ばされてしまった。

 ショウエツは二人を追いかけ、踏み潰そうと左足を振り上げる。


「ちぃっ」


 体勢を崩し、防御ができないトラヴィスとリドリーを見て、クロキはショウエツに向かって走り出すと、跳び上がりつつショウエツの右足の地面を殴りつけた。

 クロキの手には魔法石エルセ・ダガーが握られており、ショウエツの右足はわずかに地面に沈み、バランスを崩す。


「ウォーター・フロウ!」


 そして、オーウェンが槍を向けると、バランスを崩したショウエツに向かって槍の先から水流が発生し、ショウエツを転倒させた。

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