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果てぬ成長

 クロキの至近距離で放たれる高速高威力の回転斬り。


「クロキっ!」


 オウギュストが思わずクロキの名を叫ぶ。

 先ほどガードの上から致命傷を受けたオウギュストは、その距離、そのタイミングは不可避と思った。

 ジャックの重心がわずかに斜めであったため、回転も斜めになり、砂ぼこりを巻き上げながら地面を抉る。


 回転が止まり、砂ぼこりが収まると、誰もがその眼を疑った。

 肉片に成ったと思われたクロキが、その姿を保ったまま、両腕を前に構えた状態でジャックの背後に背を向けて立っている。

 次の瞬間、ジャックの左腕とクロキの右腕から、小さく血が噴き出し、それを合図にしたかのように、二人は背後に向かってハイキックを放つと距離を取った。

 ジャックは、状況を理解できない様子で左腕の傷を見た。


「何だ、こりゃ……」


 そして、クロキを見ると、クロキはジャックとの距離を詰め、刀を振り上げていた。

 ジャックは、刀をダガーナイフで受け、再び攻撃の応酬が始まる。

 だが、先ほどに比べ、ジャックの動きが鈍くなっていた。


 ツイスト・リッパーの発動は完ぺきだった。

 しかも、動きながら魔素(マナ)を溜め、発動前の一瞬の隙すらなかった。

 どう考えても、クロキの実力を考慮しても、クロキの身体を切断しているはず。にもかかわらず、クロキは今目の前で動き回っている。


「何をしたぁ!」


 ジャックが叫びながらダガーナイフを振るう。

 だが、それは感情に任せたあまりに雑な攻撃であった。

 クロキはその隙を見逃さず、ジャックのダガーナイフをかわしざまにその腕を取り、へし折ろうとした。

 ジャックは直ぐに反応し、もう片方の手に握ったダガーナイフをクロキに向けながら腕を抜こうとしたが、クロキは呆気なくつかんでいた腕を放すと、身体を屈め、後ろ廻し蹴りをジャックの頭部目掛けて放った。

 だが、ジャックの並外れた反射神経は、これにも反応し、向かって来るクロキの脚にダガーナイフを向ける。

 と、クロキの脚は途中で止まり、ダガーナイフは空を斬る。


「があぁぁ!」


 ジャックが咄嗟にその場で回転し、クロキを遠ざけた。

 ジャックが右足を引きずっている。

 見れば、ジャックの右の太ももが血で滲んでいた。


「うわの空で相手されるとは、俺も嘗められたもんだな」


 クロキが刀を構えながらジャックに言う。

 ジャックがクロキの後ろ廻し蹴りに反応したとき、いや、気を取られたときに、クロキはジャックの脚を刀で斬っていた。

 ジャックの腕をへし折ろうとしたときから、クロキの後ろ廻し蹴りにジャックが反応し、迎撃することまでクロキは予測し、そして、そのとおりの結果となった。


「ちぃっ……く、問題ねぇ……」


 ジャックは冷静さを取り戻す。


「どうやら、お前も一つ上の段階に来たみたいだな」


 どういう効果かは分からないが、クロキはスキルを使った。クロキはスキルを習得したのだ。


 ジャックの右足の流血は止まらない。

 機動力は失われたが、まだ、ジャックにはスキルがある。

 ツイスト・リッパーは見切られているとしても、神速の斬撃、スラッシュ・リッパーならば――


 いや、違う。

 ジャックの勘と、戦闘の経験が、スラッシュ・リッパーを発動することは危険であると言っている。


「くそっ、あの女へのとっておきだったが」


 ジャックの構えが変わる。

 ツイスト・リッパーでもスラッシュ・リッパーでもない。

 これまで見たことのないジャックの構えにクロキは警戒する。

 ジャックの身体に魔素(マナ)が収束する。

 一瞬の溜めの後、ジャックは片方のダガーナイフを上に放ると、その場で高速で回転した。


「シューティング・エッジ!」


 ジャックは回転による遠心力を利用し、落下してくるダガーナイフを弾いた。

 弾かれたダガーナイフは高速でクロキを襲う。

 クロキは咄嗟に身体をのけ反らせてギリギリでダガーナイフをかわした。が、ダガーナイフはかすってすらいないにもかかわらず、クロキの右肩の布地が裂け、肉が抉られた。


 ドゴオッ!


 ダガーナイフはクロキのはるか後ろの石造りの建物跡を破壊し、さらにその後ろの建物跡の壁も破壊し、止まった。


「第三のスキル……」


 右腕から血を滴らせながらクロキはその威力を見て、新たなジャックのスキルに驚愕するとともに、このシューティング・エッジが、遠距離高所からジャックを狙う敵を足場ごと攻撃するものであると認識した。

 ムスティア城の戦いで、ジャックはカオリに完封されたというが、その反省を生かして生み出したスキル、それがシューティング・エッジ。


 クロキは、直ぐにジャックに向かって走り出した。

 走りながら右手が動くことを確認する。肘から下は影響ないが、肩は上がりにくい。

 ディスアドバンテージだが、ジャックの右足の傷とイーブンと言ったところ。そして、何より、新たなスキルを使ったところに、ジャックの焦りが見える。

 クロキは勝機と見た。


 魔法石ミスト、投げナイフ、刀、魔法石エクスプロージョン、打撃、肘破壊、魔法石エア・ライドからの空中攻撃、ワイヤーで束縛、目つぶし、魔法石エルセ・ダガーによる地中からの攻撃、足払い、膝破壊、火薬、スキル浮葉でカウンター狙い、大手裏剣……


 次の攻撃の手を考える。

 クロキの怪我、ジャックの怪我、この空間、ジャックの精神状態。

 様々な要素を加味し、可能性を捨て、次の手も予測し、そして、第一撃を決めた。


「行くぞっ!」


 クロキがジャックに向かって叫んだとき、大きな地響きとともに地面が砕けた。

 クロキとジャックは、地面の崩壊に飲まれないよう、飛び散る岩盤の上を足場に跳びながら、地面に着地した。


 地面の崩壊はクロキの左方向から右方向へと一直線に走っている。

 クロキが左方向――地面の崩壊の始点を警戒していると、上空から三人の男女が落下し、受け身を取ることなく崩壊した地面に叩きつけられた。


「はっはっは、なかなか良いぞ、根性も実力もある、どうだ、モンテの騎士にならんか」


 身の丈ほどもある大剣を肩に担ぎ現れたのは、高貴な獅子(ノウブル・レオ)の隊長トラヴィスであった。

 この地面を砕いたのはトラヴィスでああると認識し、クロキはジャックとトラヴィスの双方が視界に入る位置に移動を始めた。


「次から次へと……」


 混迷を極める戦場に、オーウェンは苛立つ。


 トラヴィスは悠々と歩きながら、その場にいるクロキやジャックらに向かって、


「盛りあがっている最中、邪魔してすまないな」


 と詫びた。


 そして、満身創痍のオウギュストと、倒れているリドリーがいることに気付く。


「ほう、この二人がこんなことになっているとは……一体誰の仕業だね」


 トラヴィスは笑みを浮かべながら一人ずつ顔を確認していく。

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