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本選開始

 今まではとは様相の違う部屋は、三人が新たなステージに進んだと認識するに充分であった。


「さぁて……」


 ジャックが部屋に脚を踏み入れる。

 よく見れば、部屋の中にはジャックが入って来た扉以外に扉が見当たらない。

 何かギミックがあることは容易に想像できる。


 ジャック、ティムと中に入り、そして、カイが部屋の中に脚を踏み入れた瞬間、入り口の両脇に立っていた石像が動き出し、カイに向かって斬り掛かって来た。

 カイの前を歩いていたティムは、石像に気付くと振り向き様に剣を抜き、片方の石像の腕を破壊し、カイの腕を引っ張って自分のもとに引き寄せ、もう片方の石像の剣からカイを守った。


「く、はははは……こういうことかい、面白え」


 楽し気に笑うジャック。

 気付けば部屋中の石像が動き出し、三人に向かって来ている。

 ティムは、ジャックが両手にダガーナイフを握り、身体を捩じったことに気付くと、カイの腕を引っ張ってジャックから距離を取った。


「ツイスト……リッパーッ!」


 ジャックが高速で回転し、周囲の石像を粉々に打ち砕く。


「くそっ、あいつ、今、俺らごと……殺ろうとしやがった!」


 咄嗟にかわしたティムは、ジャックへの敵意を露にした。


「ちょっ、危ない!」


 ティムの背後から石像が斬り掛かるのにカイが気付き、盾のついた両腕のガントレットで、襲い掛かる石像の頭部を破壊した。


「ちっ……」


 ティムは舌打ちをしながら、ジャックに気を取られている場合ではないと、迫りくる石像たちに向かってソードを構えた。





「さて、ここは……何と言うか……」


 目の前の光景にクロキは言葉が見つからない。


「非常識ですね」


 オーウェンが眼鏡を上げながら、バッサリと斬り捨てる。

 扉を開けた先にあったのは、日中のような明るさの中、いドーム球場ほどもあろうかという部屋に広がる森林であった。


「うわー、すごいなー、見て、池もあるよ」


 レオポルドはそう言って部屋の中央に見える池に向かって走り出した。

 クロキとオーウェンもレオポルドの後を追って歩き出す。


「それにしても、屋内に植物とは、ロンの国の技術ですかね?」


 クロキが木々を見上げながら疑問を口にすると、オーウェンもまた眼鏡を上げながら天井を見上げていた。


「どうでしょうね、そんな話は聞いたことがありません……と、言いますか、自動(オート)で昼夜を作り出すなど魔法の常識を外れています。時間があれば調査して、我が国でも活用したいところです」

「しかし、現に今、俺たちの目の前にそれは存在している。この植物の育ち方、まるで原生林とでも言うべきこの様は、数年、数十年と言ったレベルではないですよ」

「ええ、おそらくは古代文明の技術。さすが『禁忌』と言われるだけはあります」

「『禁忌』?」

「おや、そこはご存じないのですか」


 この世界には、古代、2つの超高度な魔法技術・体系を有した文明が存在した。

 その2つの文明は約四千年前に世界の四か所に散らばり、巨大な都市を持つ古代文明を作り上げたという。しかし、超高度な魔法技術は現代には受け継がれておらず、どのような技術であったか謎に包まれているばかりであり、神話の一遍においては、その技術は「禁忌の術」と書かれているという。


「ですがこれで、超魔法技術は、少なくともこの遺跡を作った者たちには受け継がれていたことが分かります。……ふむ、興味深い、これはぜひヒースさんにお伝えしたい」

「ヒース?」


 オーウェンの口からヒースの名が出たため、クロキは思わず聞き返した。


「ええ、あの方の研究は—―」

「うわあああ!」


 オーウェンが言い掛けたところで、レオポルドの叫び声が聞こえた。

 クロキとオーウェンはすぐさまレオポルドの元へと走り出す。


「レオナルド、どうした!」

「れ、レオポルドだ! い、いや、それよりも……」


 レオポルドの指す方向をクロキは見る。


 そこには一人の男が立っていた。

 だが、それだけならレオポルドが驚くことはない。

 その男は、ボロボロの革製の鎧と槍を身に着け、肌は青白く、片腕は皮一枚でぶら下がり、眼窩からは眼球が垂れ下がり、割れた頭からは血は垂れておらず白い脳みそが見えていた。


 それはまさに生ける屍。


 元の世界において、映画で見たゾンビそのものであった。


「クロキさん」


 オーウェンの声でクロキが周囲を見回すと、同じようなゾンビ兵士がクロキらを取り囲むように立っていた。


 クロキはレオポルド、オーウェンと密集し、ゾンビ兵士の出方を待つ。


 ゾンビ兵士は、クロキらに顔を向けるだけで一定の距離から近づいて来ようとしない。だが、ゾンビ兵士は次々と集まり、気が付けば大群になっていた。


 判断をミスった。

 そう、クロキは後悔していると、ゾンビ兵士が一斉に低くくぐもった雄叫びを上げ、そして、三人に向かって突進してきた。


 走っている。

 ゾンビは走らないんじゃなかったのかよ、などとクロキは思いながら刀を抜き、構える。


「ウォーター・スライサー」


 オーウェンが水の刃を放ち、一体のゾンビを胴体から真っ二つにした。

 が、下半身はそのまま下半身だけで走り続け、地面に落下した上半身は腕だけで這いずり始めた。


「これは……不死身か」


 オーウェンが手立てを考えていると、クロキがゾンビに向かって飛び出し、ゾンビの頭部を狙って刀を振るい、頭部を破壊した。

 頭部を破壊されたゾンビは脳を飛び散らせながらその場に倒れ、動きを止める。


「これは映画と同じか。二人とも、頭だ、頭を破壊しろ」

「なるほど、頭部ですね」

「それから、所詮死体なんだから火があれば……」


 クロキがゾンビを蹴散らしながらそう呟くと、レオポルドが思い出したように、


「あ…、僕、火だった」


 と言った。


「ならば、私たちが彼らを食い止めている間に―—」


 オーウェンが提案する間もなく、レオポルドは片手を上げ、


「ファイヤー・ストーム!」


 と唱えると、レオポルドの真上に向かって火柱が上がり、大きな火球が空中に現れる。そして、その大火球から周囲に向かって無数の小さな火球が放たれた。

 その小火球はピンポイントにゾンビを狙わず、無差別に周囲を焼き尽くし始めたため、クロキとオーウェンは咄嗟に身を屈めた。


 どれくらいの時間が経ったろうか。

 レオポルドの真上の大きな火球が出し尽くしたように消えてなくなると、周囲のゾンビはおろか草木も全て焼き尽くしていた。


「どうだい?」


 レオポルドが鼻高々に身を屈めるクロキとオーウェンを見下ろした。


「な、なんと……」


 ゾンビ兵士を倒せたのは良いが、古代の魔法の貴重な痕跡の半分近くを焼失してしまったことに、オーウェンは愕然とした。


「ま、まあ、ここは助かったんだし、良かったんじゃないか」


 クロキがオーウェンを慰めるようにそう言うと、レオポルドは、


「本当、僕のおかげだよね、無魔力者(ノマド)は一体だけ? オーウェン(ガーマン)は? 僕は……あれ、何体倒したっけ?」


 と生意気な口調で、クロキとオーウェンを挑発した。


 オーウェンは身体を震わせながら立ち上がると、下を向きながら眼鏡を上げた。


「クロキさん……私は、子どもの扱いは得意な方だと思っていましたが……考えを改めます」


 クロキは苦笑しながら、オーウェンの肩を叩いた。

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