揺れる心
「悪いな、こんな時間まで付き合わせて」
「いいんですよ、俺が居たくていただけなんで」
すっかり辺りが暗くなり、校舎から寮までとはいえ、暗くなっていた。会長は俺を気遣って、部屋のある階が違うにも関わらず送ってくれた。
「いいですよ、部屋に帰るだけなんで」
「いいから、さっさと帰るぞ」
心配する必要もないのに。その不器用な優しさに胸が熱くなった。
(あれ、なんで……私)
気付いたら会長のことしか考えていない自分がいた。胸の鼓動が早まる。
「え、会長……」
「副会長様……」
その途中、副会長様とすれ違った。恐らく例の葉山くん達との会議の帰りだろう。
「なんで会長が、悠太くんと一緒にいるんですか」
副会長様が不機嫌そうにそう言う。
「なんでって……今まで話をしていて遅くなったから送っているだけだ。他意はない。」
「本当ですかね」
副会長様が疑わしそうに会長を見る。
「悠太くん」
「は、はい」
何となくぎこちなくなってしまう。
「莉人から聞きました。悠太くんにに僕との関係を聞いて問い詰めたこと。」
先ほどのことを言ってるのだろう。
「あぁ〜、はい」
「僕のせいで迷惑をかけてしまいました。本当にすみません」
もしかして、そのことを謝るためにわざわざ探していたのだろうか。そうだとしたら、なんだか申し訳ない。
「そんな!大丈夫ですよ、会長が間に入ってくれたので、なんともなかったです」
「え、そうなんですか」
「大したことはしていない」
会長は平然と答える。
それを聞くと、副会長様は少しだけ安心したような、少し悔しそうな表情になった。
「悠太くんを助けていただき、ありがとうございます。」
副会長様は会長に対して深くお礼をした。義理堅い人だ。
「それと、悠太くん、今度からは何かあったら、すぐ僕に言うんですよ」
「わ、分かりました」
またしても笑顔で言われてしまっては頷くことしかできない。
会長が中々帰ろうとしない副会長様を引っ張りつつ、見送られ、ようやく部屋に入ることが出来た。
シャワーを浴びて一息つく。ベットに横になりながら思考を整理する。
副会長様からの好意には気が付いていない訳ではない。
あそこまで気にかけてくれ、あからさまに態度に出ているからだ。しかし、それははじめに決めたシナリオがそうさせているのだろう。
動き出した展開、ここから先の展開は私の意思で変わる。
だけど、このまま何も変わらなければ、副会長様とのエンディングではないのだろうか。
副会長様は優しい。大袈裟な程心配してくれるけれど、根底にある私への想いが懸命に伝わってくる。
じゃあ、私の気持ちは、副会長様に向いているのだろうか?
目を閉じて自分の心に問い直す。
浮かび上がってくるのは一人の顔。
いつだって、優しく接してくれた人。
不器用ながらも励ましてくれた人。
私の本当の気持ちに気が付いた。