こんな展開、知らない
学校生活は着実に進んでいった。何事もなく、平穏な日々。
授業を受け、ご飯を食べて、寮へと戻り、寝る。それがいつもの日常になりつつあった。
こうなってしまっている理由は多分、小説で書いてるシーンがもう無い為、展開の仕様がないのだろう。
つまり、ここから先の展開は私自身も知らない。ここからは私の行動一つ一つが小説内の展開へと変わっていくということだ。
副会長様が話しかけてくれたり、葉山くんから疎まれたりすることも今はない。むしろ、誰とも話をしていない状況になっている。このままじゃ埒が開かない。
「葉山くん、あのさ……」
一人じゃどうしようもない。そう思った私は、身近にいる人に相談しようと考えて葉山くんに声をかけた。
学校がある日だとゆっくり話せないし、限られた時間になってしまうので、休日に寮の自室に呼んだ。
「へぇ〜一人部屋ってこんな感じなんだ」
葉山くんは私服でやってきた。普段の感じよりも大分素が出ているみたいだ。
(私服以外と大人っぽい〜〜〜。可愛いい〜〜。)
「で?僕に相談事って何なの」
呼び出したはいいものの、どう切り出せばいいか分からない。
「前にさ、憧れの人がいるって行ってたじゃん。その話詳しく聞きたくて」
「あぁ、そのことか……」
少し悩むと葉山くんは淡々と話はじめた。
「僕の憧れの人は、副会長様だよ」
「え?!そうなの!?」
「っていうか副会長様親衛隊の隊長だしね」
「知らなかった……」
「親同士が仲良くて、習い事とかも一緒に受けてたんだけど、僕が要領悪いからよく教わってたんだ」
「へぇ……」
「昔からなんでもできて、クールでかっこよくて、僕の憧れの人」
そう語る葉山くんの顔からは本当に、心から副会長様のことを慕っているんだと伝わってきた。
「で?本題はそんなことじゃないよね?」
「え、」
さすがに見抜かれているみたいだ。目敏いな。
「僕も馬鹿じゃないからね。そんなことくらいで休日に呼び出されるなんてこと君がする訳ないでしょ」
こうなってしまっては仕方ない。意を決して話し始める。
「葉山くん、ここ最近、自分の意思が誰かに操られてるような感覚ない?」
「え?」
この反応はまずいかもしれない。間違った選択だったかも。でも、もう後には引けない。
「実を言うと……」
何かを思い出したかのように、葉山くんが話を続ける。
「あの日、安藤くんを呼んで注意した日、何故か分からないけれど無性にムカついたんだ。うちの親衛隊は割とゆるいというか、落ちついてるんだ。特に隊長の僕なんて憧れてるだけで恋愛感情を持っている訳じゃないし。」
「……」
「だけど、副会長様と安藤くんが話しているところを見たら、なんか注意してやらなきゃ、そう感じたんだ」
自分でも分からない、けれど確かに行動している。
「この世界は……小説の中なんだ」
「小説の中……?」
「物語として展開していく、フィクションの世界なんだよ。ある人が書いた、小説の」
私が書いてることや私が現実から来ていることは伏せて話す。こんな話、信じてるくれるだろうか。
「う〜ん。でも、ちょっと納得できるかも」
なんてことだ。受け入れてくれたのか。
「考えてみたら、今までずっと僕の意思とは関係なく物事が進んでいく事、不思議に思ってたんだよね。例えば、君に話しかけてたのもそうだし」
「そうそう」
順応はやくない?
「え?それじゃ、この先もずっとその小説通りによって展開や行動が決まっているってこと?」
「それが、小説が書かれてるのが葉山くんに呼ばれていたところまでで、そこから先のシーンは描かれてないんだ」
「じゃあ、今の僕達は……」
「そう、小説にはない展開を進めて行かなければならないんだ」
葉山くんは険しい顔をして考えこんでしまった。
「どうすればいいの?」
「……」
正直、どうすればいいのかまだ分かっていない。でもヒント沢山はある。何せ、私が生み出した小説だから、私の考えられることにしか結末向かわないはず。
「協力してほしい」
「協力?」
「最終的に、この小説は終わらせなければいけない。でも今のままの展開じゃ終わらず、何もない日常を繰り返すことになってしまう。」
「そんな……恐ろしい」
「小説は必ずエンディングがある。そこに向かう為に展開を進めたいんだ」
一人では到底どうすることもできない。
「分かった。僕に力になれそうなことがあったら協力するよ」
「葉山くん……!」
なんて順調力があっていい子なんだろう。
「その代わり、絶対いい結末にしなよね」
「うん!」
私は頼もしい協力者を見つけ、不安だった気持ちが少しだけ明るくなった。