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目をつけられた絶対絶命

「え〜、今日は新入生合同のオリエンテーションを行うので、各自筆記用具だけ持って体育館に移動するぞ」


一度寝ても元の世界には戻っていなかった。当たり前のように小説の中の学園生活が進んでいく。とにかく闇雲に慣れていく、それが大事だろう。ブラック企業にいたせいでいつの間にか順応力が身に付いていた。


(私が所属するSクラスは一番上の特進クラスなはず、心なしか真面目そうな子が多い。)


入学式の後でひとしきりコミュニティが出来上がったのか、ちらほらと話をしている様子もある。


学年主任や担任の挨拶などを済ませた後に身体測定、健康診断を行なった。なんだか懐かしい気分だ。


「じゃあ今から校舎案内していくから、背の順で前から2人ずつで列になるように」


一番前になってしまった。何となく不服で、ふと隣の人を見る。


私の好きなアイドルグループ「SALT」のライバルグループ、「SHUGAR」のセンター、玲亜くんにそっくりだった。


(実は「SHUGAR」で推してるのは玲亜くんだから動揺すぎる。ってか顔可愛い……)


まさか同じクラスにも主要人物がいたとは。


「安藤くん……だよね?」

「えっ、うん、そうだけど」

「昨日から気になってたんだ。特待生ってどんな子なのかなって。」


すっごい顔が可愛い。キラキラの笑顔で話してくるので一々心臓に悪い。


「えっと、君は……」

「あぁ、ごめんね。ついつい。僕は葉山玲亜。よろしくね」


葉山くん……昨日先生から聞いた名前だ。


「あ、そうだ。昨日のこと先生から聞いた。代表挨拶代わってくれたんだよね?本当にごめん」

「あぁ……。全然いいよ。気にしないでよ」


なんていい子なんだろう。あと、顔が可愛い。


その後も葉山くんと話しつつ、段々仲良くなっていった。


お昼休み。葉山くんの誘いでない一緒にご飯を食べることになり、食堂に向かった。


「すご……広すぎ」

「え〜そうでもないでしょ」


どう考えてもそこら辺のレストランよりは広く綺麗な食堂に驚きが隠せない。入り口で戸惑っていると、中等部からこの学園にいるという葉山くんは慣れた様子で注文を済ませていた。真似して後に続いてみる。


何とか注文を終え、ようやく席に着く。メニューが多すぎてよくわからなかっので、定番のカレーライスにしておいた。


「安藤くんはさ、なんでこの学校に入学したの?」

「え〜」


なんでだろうか。そういう設定にしたからとしか答えようがない。


「なんとなく、かな」


男子校、全寮制、私立。私の好きな要素を詰め込んでいる、ただそれだけだ。


「へぇ〜」

「葉山くんは、なんでこの学校に入ったの?……中等部からいるんだよね?」

「僕はね、憧れの人がいたから」

「憧れの人?」

「そう。その人がこの学校に入ったって聞いて、追いかけたんだ」


なんて素敵な話なんだろう。こんなに可愛い子の憧れの人と言うものだから、是非ともお会いしてみたい。



「悠太くん!」


副会長様だ。周りが一気に騒めく。


「昼休みは生徒会室に来てくださいと言っていたじゃないですか。何故ここにいるんでしょう」

「あっ!」


(やばい。約束を忘れていた。)


「というか、何故あなたが悠太くんと一緒に居るんですか。悠太くんは僕と先約があったんです」


副会長様の怒りの矛先は葉山くんへと向かう。二人は知り合いのようだった。


「副会長様、違うんです……」

「大変申し訳ありませんでした。副会長様。」


葉山くんは深々と謝罪した。みてるこっちが痛々しくなる程に。


「悠太くん、話は生徒会室で聞きますから行きますよ」

「え?は、はい……」


弁解の余地なく連行されて行ってしまった。

その様子を冷静に見つめられていたことにも気が付かなかった。


そんなこんなで昼休みがあっという間に終わり、ギリギリ授業に間に合った。初日なだけあってすぐに授業が終わる。

ホームルームが終わり、寮に帰ろうと歩いている時、声をかけられた。



「葉山くん……」

「ちょっといいかな」


連れてこられたのは人影の少ない校舎の外。

重々しい雰囲気と、沈黙が痛い。



「生徒会の方々と無闇に近づかないでもらえないかな」

「え?」

「この学校では、生徒会の方々と話すには僕達が管理する親衛隊の許可が必要なんだよね」

「はぁ……」

「端的に言うと、抜けがけしないで欲しいってことなんだ」

「抜けがけって……」


副会長様には何故か構われてしまっているだけだ。それ以外で特に何か目立ったことはしていない。

……そうだった、葉山くんは小説内では主人公を敵対していじめてくる設定にしていた。何でそんなことさせたの自分。


とにかく、葉山くんが主人公をよく思っていないのは親衛隊だからであると言うことだ。


「分かったらあまり調子に乗らないでね」


それだけ言い残し葉山くんは去って行った。


部屋に戻ってもう一度頭の中を整理する。

小説の展開で物語が順調に進んでいることが段々と分かってきた。それが、多少強引でも。


ただ、裏を返せば無理やりにでも終わらせようとしているのではないのだろうか。

この小説世界の物語が完結するまで現実には戻れない??




私、戻りたいのかな、現実に。


あんな地獄の日々に戻りたいのかと問われれば、間違いなく首を横に振る。


ここは、顔のいい理想の男の子しかいないし、何より憧れこ男子高校生活をリアルに体感できている。夢のようだ。


それでも、私の居場所はここじゃないんだ。


段々と理解してきた現実ではないという実感が沸沸と湧いてきていた。

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