はじまった、学園生活
学校へと向かう道中、朝の通勤通学時間帯という忙しない時間にも関わらず、何故か人と一人もすれ違うことなく向かえた。
(私の小説の中では、突然学園生活がスタートしたからその影響かな)
小説で描ききれなかった部分は簡素化されているということだろう。
学校まではここから三十分電車を乗り、学校の最寄駅からスクールバスに約十五分乗って到着する。順調に行けば一時間もかからずに行けるだろう。
ひとまず電車に乗り安心し切った私は電車の中で爆睡してしまった。ゆらゆらと揺られる心地よさにうっかり夢の中。そして気が付けば終点の駅にいた。
「お客様、当駅で折り返しになりますのでご降車お願いします」
駅員さんの呼びかけで目を覚ます。ここはどこだ。
時計を見ると時刻は10時20分。確実に遅刻だろう。入学早々やらかしてしまった。
終点の駅から学校の最寄り駅まではおよそ一時間。そこからスクールバスに乗ってって……もう何分かかるか計算できない。
とにかく急いで向かおう。そう判断して再び電車に乗る。
ふとスマホを見ると、着信がかなり来ていることが分かった。着信相手は蘭吹学園。入学式に無断欠席したからだろう。本格的にまずいことになった。
(やばい、やばい……)
学校への道のりは前途多難だ。最寄り駅に到着したはいいものの、スクールバス乗り場が見当たらない。というか、こんな時間にスクールバスなんて来るはずがない。
歩くしか方法がないことに気付き、とぼとぼと学校まで歩くことを決めたのだった。
そう言えば小説でも、主人公が遅刻して登場するんだった……。完全に自分が書いたことのせいで痛い目を見ている。
「あ!あった!」
スマホのマップを駆使してあっちに行ったりこっちに行ったりと迷子になりながらようやくたどり着いた。
そうしてなんとか学校に着いたのは、15時過ぎ。完全に門はしまっている。
「っていうか、でか……」
そびえ立つ学園はかなり大きく、城かなんかかと思うくらい綺麗な建物だ。門も派手な装飾が付けられ、なんとも豪華な雰囲気を演出している。
「どこから入ればいいのかな」
厳重に鍵がかかっており、開かないようになっているみたいだ。これじゃどうやって入ればいいのか分からない。
その時、学生だと思われる人の影が見えた。
「あ!あの!すみません!」
私の声に驚いている様子だった。そりゃ、門の外から声が聞こえてきたら誰だって驚くだろう。
「あの、私……じゃない、俺、今日から入学する予定だったんですけど、遅刻しちゃって!どうすればいいでしょうか」
半分泣きそうになりながら必死に叫ぶ。すると俺の悲痛な願いが届いたのかその人は親切にこちらへやってきてくれた。
「もしかして……安藤悠太くんですか?」
何故か名前を知られていた。ひょっとして遅刻者の名前は張り出させてたりするのだろうか。
「は、はい。そうです、電車を乗り過ごしちゃって……」
「今、事務の方を呼びますから、ちょっとだけ待って下さいね」
なんて物腰が柔らかないい人なんだろう。眼鏡をかけていて、きちんとした身のこなしをしている。理想の優等生像のようだ。それに、ものすごく顔が整っている。
(ってかこの人、椎名様にそっくり……)
そう、またしても私の好きなアイドルグループ「SALT」に所属しているメンバーにそっくりなのだ。椎名様、という孤高のクールキャラに雰囲気が似ている。
そんなことを考えていると、いつの間にか門は開いていた。
「ありがとうございます!すみません、助けていただいて」
「いえいえ。というか、僕は元々、君の案内役でしたので本来の役目通りのことをしたまでですよ」
「え?わ……俺の案内、ですか?」
「そう、今年の唯一の特待生の案内係をね」
この展開はあれだ。嫌な予感がする。
「あの、もしかして、生徒会の方、とかですか?」
「はい。生徒会副会長をしています、三年の名取椎名と申します。」
副会長と遭遇してしまった。よりにもよって。
「毎年何人かはいる特待生ですが、今年はなぜか合格者が君しかおらず、入学式の代表挨拶をお願いしようと考えていたんですが……」
冷や汗が止まらない。寒気がしてきた。
「入学式の時間になっても現れず、急遽代理の方に挨拶して頂いたんですよね。」
怖いくらい笑顔で言ってくる。確実に怒っている。
小説内で副会長はとんでもない腹黒・ドSの設定にしてしまっていた。だから、副会長とだけは絶対に会いたくなかったのだ。
「本当にすみませんでした!!!」
土下座する勢いで誠心誠意謝る。こういう時、一応企業で勤めていた経験が活きるものだ。
「まぁ、いいですよ。僕も色々生徒会の仕事とかサボってここに来ていたら、結果として君を迎えれた訳ですし。」
なんとか一命は取り留めたみたいだ。
「でも、お詫びはしてもらいますからね。特待生くん」
綺麗な笑顔でそんな怖いことを言われたら頷く他がなく、その後副会長様が学校のことや寮生活のことなど案内してくれていたが、ほぼ上の空になってしまっていた。