現実はクソ、だけど前向きに
目が覚めると、そこはまたしても知らない天井だった。身動きが思うように取れない。
(今度はどこなの?)
部屋の様子やベッドなど周りのものを頑張って伺うと、白く清潔感のある簡素な作りで統一されている。ここはどうやら病院のようだった。
(病院?なんで……)
困惑していると、病室の扉が開いた。
「え……」
母だ。正真正銘間違いなく、酒やけで声がガラガラになった私のお母さんだ。
「うそ、目覚ましたの……」
「あ、うん、おはよう」
重たい身体を何とか起こしながら挨拶をする。私の姿を見るなり母は泣き出した。心なしかやつれている気がする。
よかった、よかったと私を抱きしめながら繰り返す母に何がなんだか分からず、困惑が止まらない。
「お母さん、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ!あんた今の今までずっーと意識失ってたんだから」
「えぇ?!」
落ち着いて母の話を聞いてみると私は今の今まで意識がない状態で、約一ヶ月近く入院していたらしい。
仕事によるストレスと疲労が重なり、大量のアルコール摂取で酔いが回り過ぎたのが原因だと言う。
「会社に連絡したんだけど、無断欠勤扱いで特に補償はないみたいなのよ。全く、どうなってるのかしら。」
「そうなんだ……」
その後、精密な検査や意識障害などの確認の為のテストを受け、元の生活に戻る為のリハビリを順調にこなしていき、私は3日後に退院した。久しぶりに浴びる外の空気は新鮮で、気持ちがいい。
それから一週間。私は、決意を込めてある場所に向かった。
「お母さん代わりに言いに行こうか?」
「そんな、子供じゃないんだから平気だよ」
「でも……心配だから」
「大丈夫、ちゃんと終わらせてくるから」
あのブラック会社にきていた。辞表を持って。
「辞めます。」
パッと見ただけでも以前いた私がいた時の会社よりも随分と酷いことになっていた。そもそも、また社員の数が減っていた。必死に引き留められたけど、限界を迎えてしまった私には効かなかった。そして、無事に新卒で入社した会社を辞めることができた。
程なくしてあの会社が業績不振で潰れてしまったことをネットニュースで知った。そりゃそうだ。
仕事を辞めた私は、それからすぐに実家に戻ってきた。やっぱりここが一番落ち着く。一人暮らしは寂しいし、まだしばはくは実家に居たいと思った。
新卒ですぐに辞めてしまった為、転職活動ではかなり不利になるだろう。私がやりたいことはなんなのか。とりあえず、アルバイトでも探そうかな。私が本当にしたいこと、できることを見つめ直したい。
就職活動で自分を見失い、失敗してしまったからこそ、今が逆にチャンスだと思いたい。自分を見つけるチャンスが、今まさに来ているんだ。
思い返せば、就職活動で不合格になりすぎてて、世界が狭くなっていた。会社に入社しなければいけない。会社に入社することがゴールだと勝手に勘違いしていた。でも、あの会社だって、良く調べてから決めれば内定辞退をすることも可能だったし、そもそも受けることもなかっただろう。
全てが過去のことではあるが、冷静に考えるとなんて馬鹿だったのかと思う。
なんて物思いに耽っていると、スマホの通知が鳴る。
「あ、コメント来てる!」
(新作も楽しく読んでいます。連載また頑張って下さい……。)
あの小説は完結させ、学園生活での物語は幕を閉じた為また新しい連載をはじめた。趣味とはいえ、真剣に向き合って描き続ける。待ってくれている人と書きたい設定がある限り。
今度はどんなシーンにしようかな、社会人物だから会社の話でもしようかなと、転職サイトを眺めながら妄想に浸る。
私の楽しみはこれに尽きる。この場所が居場所なのかもしれない。
小説の世界と同じように、いつだって私の進む道は自分の手で描くしかない。だから、やりたいようにやるしかないんだ。
未来は自分の手で必ず変えられるはずだから。
動画配信サイトで「SALT」のレギュラー番組をみる。今日も悠太くんと大我くんのたいゆうコンビは仲がいい。いつもの推しカプにときめいていると、ふと大我くんがこちらを見てウインクした気がした。
(気のせいだよね。ってかファンサービス)
そこに推しカプが居続ける限り、今日も私は小説を書き続けたい。