明るい未来なんてどこかに消え去りました。
就職活動、それは多くの学生にとって避けては通れないものである。
リクルートスーツを身に纏い、髪型をきちんと整え、面接、面談、採用試験を繰り返しす。その末にようやく内定を得る。その為に自分をアピールし続ける。一種の闘いのような時間が恐ろしくもやってくるのだ。
私の就職活動は、まさに地獄の日々で本当に難航していた。
第一希望で受けていた憧れの出版社は、最終面接の手前で社長による横領という不祥事が発覚し、新卒採用中止。
慌てて受けた第二希望の印刷会社は、人事によるセクハラが酷く、一次試験で辞退した。
その後、第三希望、第四希望、第五希望と順々にエントリーをして行っても、どこも一次試験すら受からない始末。
希望業界を変え、希望職種を変え、受けられる企業はほぼ全て受けた。しかし、結果は奮わず不合格の烙印ばかり。
もう駄目だ……。私は社会不適合なんだ……。いっそこのまま就職出来ずに一生学生でいたい……。
もはや受からなすぎて自暴自棄になっていた時、電話が鳴った。
「はい!はい!……ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」
内定の電話だった。どん底だった私に、空から光が差し込んだような、そんな気分だった。
やっと勝ち取った内定。正直、第一希望の業種からは程遠いし、何をしている会社かもよく把握していないけれど、多分事務職かIT会社だろう。パソコン未経験でも大丈夫って書いてあったし、とにかく内定出てよかった……。
この時の私は、内定が出たことばかりにすっかり気を取られ、会社情報や評価なんて見てはいなかったのである。それが後々とんでもない後悔を生むことも知らずに。
就職活動が長期に渡ってしまった私はその後大急ぎで卒論を仕上げ、バタバタと忙しなく大学生活を終えた。
そして、新卒として入社する四月を迎えた。期待と不安で、不安の方がかなり大きい中、まぁ何とかなるだろうという心持ちで会社へと向かう。
今日から三ヶ月は研修期間だし、同期の子と仲良くなれればいいな、なんて期待してオフィスのドアを開ける。
「おはようございます、今日から新卒で入社致します……」
挨拶をしながら本当にここがオフィスかどうか疑った。何故なら、そこにはホームページ上に載っている写真とは異なった、地獄絵図が広がっていたからだ。
椅子を何個か使い寝ている社員、床に寝袋を広げる社員、資料で散乱した机の上。どう見ても綺麗ではない。
「あぁ、新卒の子ね、ちょっと待ってね。」
寝袋の中から声が聞こえる。
「人事の渡辺です。申し訳ないんだけど、今研修とかしてる暇ないからさ、このマニュアル見てとりあえずやってみてくれる?じゃ、そう言うことで」
隈がすごく明らかに疲れ切った人事と名乗る人はそう言い切りまた寝袋へと戻っていった。
え?っていうか、研修なし!?いきなりやれって言うの!?何を???!?
もしかして、やばい所に入社したんじゃないか。そう考えても今更なことすぎた。もう後には引けない。
混乱状態すぎて軽く目眩がした。でもやるしかない、そう思ってとりあえずその辺にあったパソコンを起動し、マニュアルに従いながら業務をこなしていった。何がなんだかよく分からなかった。
初日から膨大な量の仕事と向き合い、帰宅したのは終電ギリギリ。会社にいる社員の人達は全く帰るつもりがない様子だった。
「お先に失礼します……」
返事はなく、カタカタとキーボードを叩く音だけがこだまする。
堪えようと思ったが涙が滲んでくる。なんなんだこんな初日。最寄駅から自宅までの道中、ビールを飲みながら大声で泣いた。その日私は人生ではじめてやけ酒を覚えた。
それから早三ヶ月。研修なんてあったもんじゃなかったが、一応研修期間が終わった。この三ヶ月間でまともに終電前に家に帰れた日は数えるくらいしかない。と、同時に人と話したのも数えるくらいだ。話したと言っても業務内容のことだったり、どこからか聞こえる奇声に私が反応してしまったということくらいだが。
そして、この三ヶ月で色々と分かったことがある。
まず一つ目。この会社では数年に一回、過労死で亡くなる社員がいるということ。私の同期になる予定だった人はネットの評判やニュースを見て、早々に内定辞退したのだろう。賢明な判断だ。
そして二つ目。残業代なんてものは存在しなく、また休みという概念もまたこの会社においては幻であること。入社して一ヶ月目から既に休みはなく、毎日出勤することがさも当たり前かのようなスタイルだ。
三つ目は業務量がえげつないということ。経費削減の名の下、人件費が削られに削られたこの会社では、一人が受け持つ役職の多さが半端ではない。私も入社三ヶ月目なのに、謎のプロジェクトリーダーや経理、人事補佐、広報などやたら受けもっている。
要するに、超がつくほどのブラック企業である。
私は、この息が切れる程の恐ろしい日々に疲れ切っていた。
しんどい。辞めたい。苦しい。毎日そんなことばかり考えていた。
そんな毎日の中で唯一の娯楽があった。
数少ない終電で帰れた日は、酒で疲れを流し込み、趣味のBL小説の連載を書くことで癒しを得る。どれだけ疲れていようと、推しカプを小説にして絡ませることで明日も頑張ろう、そう前向きになれた。
「あ、コメントきてる……」
そうして出来た小説を細々とサイトにあげ、投稿を続けていると少なからず応援してくれる人やコメントをくれる人がいる。この瞬間が本当に救いだった。
自分が必要とされてる。そう思って明るくなれた。
そろそろ新しい章に入ろうかな、なんて次の展開に胸を弾ませながら、明日の仕事の為に布団に入った。