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第88話 奈央の憂鬱

西條家、奈央は両親に呼び出されていた。

なんと奈央メインエピソード!

 ☆奈央視点☆


 今日は10月11日の金曜日、時刻は21時。

 私の誕生日まで後1ヶ月となる今日、何故か両親に呼び出されて、現在は大広間に集まっている。

 いくらしたのかわからない高級ソファーとテーブル。 花瓶には赤白黄色、色とりどりの花が生けられている無駄に広い部屋。

 

 今、私の眼前には3枚の写真が並べられている。 どれも男性の物ばかりである。 この時点でどのような話なのかは察しがついた。

 ようはお見合い写真なのだ。 この3人の中から気に入った人を選べという事なのだろう。 どの人もパーティー等の場で見たことがある。 グループ会社のお偉い方の息子さん達だ。 年上から同い年の人まで揃っているけど、誰1人として興味が向かない。

 私は自由に恋愛をして、好きな人と結婚したい。 何度もそう言ったはずなのだけど……。


「奈央、お前は西條家の長女にして唯一の跡取り。 婿を取って西條家の将来を担ってもらわないと困るんだ」


 お父様の言うはことは理解している。 いずれ西條家は、私と婿になる旦那様の2人が支えて行かなければならない。 子をなして、跡継ぎを残していく義務があることも理解している。

 でも、好きでもない人と一緒になって、それで西條家をちゃんと守っていけるとは思えない。

 それに、そんなのは幸せではない。


「何度も言いましたように、私は、私にふさわしい男性を、私自身で見つけたいのです。 本当に心から好きになった男性と添い遂げることこそ、西條家のさらなる繁栄に繋がると私は考えております」

「しかし、未だにお前からは浮いた話が聞こえてこないではないか?」

「うっ……」


 実際の所、私の心を揺り動かすような男性は今のところ現れてはいない。

 いや、居たには居たのだけれど、その男の子には常に付きまとう女性が居た為に諦めざるを得なかったのだ。

 これを言うと、紗希や遥が騒いで大変だから、誰にも明かしたことは無い。

 その男の子は今、付きまとっていた女性と交際中で実に上手くいっている。

 私も彼の事はとうの昔に吹っ切っているので、特に胸が痛んだりはしないのだが。


「そういえば、北上さんのご子息が月ノ木学園に留学しに来ているそうじゃないか? 何故黙っていた?」


 そうだ。 春人君がいるじゃない。


「そうです! 大体、私には春人君という許婚がいるではないですか? どうしてお見合いをする必要があるのですか?」


 別に、春人君と結婚するつもりはないが、見合いを断る口実として、この際使えるものはなんでも使う。


「確かに、そうだったのだが……つい先日、向こう方から連絡があってな」

「連絡?」

「婚約を破棄したいと、春人君からご両親に申し出があったそうだ。 その際、彼が月ノ木学園に留学していることも聞いたのだ」

「なっ……」


 わ、私に何の話も無く? 形だけとは言っても一応は許婚の間柄、一言あっても良いはずだ。

 彼が亜美ちゃんに惚れこんでいるのは、私だって見ればわかる。 お互い自由恋愛をしようという話になっているので、別に文句は無いが。


「私、聞いてませんわ!」

「そうなのか?」

「ええ」


 お父様は「ふむ……」と、考え込むような仕草を見せる。


「奈央は春人君と復縁を望んでいるのか?」

「別に、そういうわけではありませんが……」


 お見合いを断る口実に使えなくなってしまった。


「と、とにかく、私は私の愛した人と結婚したいのです! だからお見合いは必要ありません」

「……そこまで言うならば、そういった男性がすでにいると思って良いのだな?」

「えっ……」


 ぐぬぅ、いないとは言えない……。

 ど、どうする? この期に及んで春人君等と嘘をつくわけにはいかない。


「では、お前の誕生日パーティーにその男性を連れてきなさい」

「えっ!?」


 ら、来月じゃない!? えらいこっちゃー! どど、どうしよう! 来月までに恋人作って紹介しろってめちゃくちゃな話よ!!


「わ、わかりましたわ……」

 

 って言うしかないじゃなーい! 本当にどうしよ! 運命の出会いかもーん! はりあーっぷ!



 ◆◇◆◇◆◇



「きゃははは、何やってんのよあんた」


 翌日、喫茶店で紗希にその話をしたら大爆笑されてしまった。 一番の親友の紗希に取り敢えず事の顛末を伝えて相談してみたのだがこの始末である。


「笑うなぁ!」


 ぽかぽかと両腕を扇風機みたいに回してみるが、頭を抑えられて手が届かない。

 仕方ないので、ターゲットを無駄に飛び出している胸に切り替えて手を伸ばす。


 むにむにだ。


「ふふん、どうよ私の胸」

「悔しいぃぃぃ!」

「きゃははは。 それで?」


 大爆笑しながらも、ちゃんと話は聞いてくれる。 頼れる親友である。


「誕生日に、柏原君を貸してほしいのよ」

「はぁん、なるほど」


 とりあえず1日。 誕生日パーティーを凌げばなんとかなる……と思う。

 ここは頼れる親友の彼氏を、1日だけ借りて急場を凌ごうという作戦だ。


「ダメね」

「な、なんで!?」

「裕樹はそういう場に慣れてるような奴じゃないもの。 すぐボロを出して終わりよ」


 決して、彼氏を貸し出すのが嫌だという理由ではないのだという。 むしろ、それで私が救われるなら貸し出すことも吝かではないと紗希は言った。

 ただ、先述の通りボロが出てバレるのが目に見えていて、私が恥をかくことになるのを見越してのことらしい。

 この親友はちゃんと私の事を考えてくれたのだ。


「仕方ないなぁ」

「ごめんね、役に立てなくて」

「ううん、相談乗ってくれてありがとう」

「ねぇ、遥に男装してもらうのはどう?」

「それは考えたけど、バレそうだから止めたわ」


 凄くかっこいいんだけどねぇ、あれ。 でも女性だってバレたら終わりだしねぇ。


「となると頼れそうな男性は3人?」

「春人君はちょっと厳しいのよ」

「あ、婚約破棄されたんだっけ……」

「あい」


 つまり、私が仲良くしていて頼れそうな男性は残り2人……どちらも彼女持ちで、やっぱりそういう社交界の場には慣れていなさそうな2人だ。


「佐々木君なんてどう?」

「佐々木君ねぇ? どっちかっていうと今井君の方がまだ落ち着きあって、場の空気読める分マシだと思うけど?」


 佐々木君こそ。何しでかすかわからないという面では危険牌だと思う。 それならまだ今井君の方が比較的安牌だ。 通せるかはわからないけれど。


「まぁ、その点は私も同意。 でもさあ、あんたの気持ちってのもやっぱ重要でしょぉ?」

「……はい?」

「とぼけちゃってぇー」


 肘で私の胸をつついてくる親友。

 クッションが無いから痛い。 いやちょっとはあるんだけどね?


「あんた、中学の頃は佐々木君に惚れてたっしょ?」

「はっ……えぇ……」


 なんでバレてんのぉ!? 誰にも言った事なかったのにぃ!?


「誰の目を誤魔化せても、親友のこの私の目は誤魔化せんなぁ?」

「い、いつから気付いて……」

「中1の冬ー」


 惚れ始めた時からじゃーん! 何なのこの子? エスパーなの?

 大体、神の手からしておかしいと思ってたのよ。 どうなってんのこの子は?


「はぁ……って言っても中2の夏にはもう諦めてたわよ私? 今は未練も無いし」

「みたいねー」


 事実、今は奈々美と佐々木君の事を応援している。 胸も痛まないし辛くも無い。

 もしかしたら本気じゃなかったのかもしれない。


「でもまぁ、もうその2人しかいないし? ダメ元で頼んでみるしかないかぁ」

「ほいじゃまぁ、早速頼みに行きますか?」

「どっちに?」


 私がそう訊くと紗希はニコっと微笑み言ったのだった。


「両方よ」


 紗希はスマホを取り出して、にやりと微笑んだ。

なんとか誕生日までに嘘でも良いから恋人を作る必要のある奈央。

どうする?


「奈央です! お父様もお母様も急に言い出すんだもの。 どうしたらいいのー? 彼氏がいないってわかったら、お見合いさせられるわよ?」

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