第78話 幼馴染じゃ嫌
朝、目が覚めてダイニングへ向かうと珍しく亜美と希望がいがみ合っていた。
一体何が起きたかわからない夕也は困惑する。
☆夕也視点☆
翌朝9月17日の事である。
朝、いつものように起きて洗面所で顔を洗ったりした後にダイニングへ行くと……。
「夕也くんの卵焼きは私が焼いたやつ!」
「私が焼いたやつの方が美味しいもん!」
二人が卵焼きの乗った皿を持ちながらいがみ合っていた。
何が起きているのかわからずに、春人の方へ視線を向けて状況の説明を要求するも、春人にもさっぱりわからないようで首を傾げる。
「夕也くん、おはよう」
「夕ちゃん、おはよー」
「あ、あぁ、おはよう」
一瞬、笑顔でこちらに挨拶をしたかと思うとまた鼻先をぶつけて、いがみ合いを再開する。
そういえば、昔はよくこんなやりとりをしてたなぁ、この2人。
そう小学生1年生ぐらいの頃は──。
「夕ちゃんのお嫁さん役は私なの!」
「私だもんっ! 前のママゴトの時も亜美ちゃんがお嫁さんだったもん!」
ママゴトの役決めで、しょっちゅう喧嘩してたっけなぁ。
そういう時、俺はいつも……。
「両方食べるから、とりあえず喧嘩はやめろよ」
2人から卵焼きの皿を奪い、手元に持ってくる。
何があったかは知らないが、今の2人を見ていると昔を思い出して懐かしくなるな。
「うわわ、夕ちゃん朝から欲張りさんだ」
「無理しないで、私のだけ食べれば良いからね」
「両方食うって言ってんだろうが」
椅子に座り、手を合わせて朝食をいただくことにする。
春人は「大変ですね」と、他人事のように言って卵焼きを口にした。
それは一体どっちが作ったやつなんだ?
ふと2人を見ると、春人が食べる卵焼きには興味が無いのか、俺の手元の卵焼きを凝視している。
声には出さないが「私のを先に食べて」という思念が伝わってくる。
たかが卵焼きで何なんだ一体。
訳がわからないまま、希望から奪った方の卵焼きを先に食べる事にした。
「はむ……」
「よしっ!」
なんか、ガッツポーズする希望と肩を落として落ち込む亜美という構図が出来上がってしまった。
何か勝負でもしていたのだろうか?
「美味い美味い」
「うんうん、そうだよね」
亜美の方を見て「ふふん」と勝ち誇ったような態度を見せる希望。
珍しい光景である。
「ゆ、夕ちゃん! 私のも食べて!」
「た、食べるから落ち着け」
そう言って俺は、亜美が作った方の卵焼きも食べてやる。
「おー、美味いな。 なんか入れたか?」
「隠し味だよ」
「俺好みだな。 さすがによくわかってる」
少し甘辛い味のする卵焼きをもう一口食べる。
すると、今度は亜美が勝ち誇ったような態度で希望を見ていた。
朝食中は終始そんな感じで、2人何かを競っているかのような状態のまま、登校を開始した。
「夕ちゃんっ!」
外に出て歩き出すと、右側から亜美が手を握ってきた。
「な、何だ? どうした?」
「手繋いで歩こ!」
満面の笑みを浮かべて、そんなことを言う亜美。
今まで、登校中にこんな事をしたことは無かったんだが。
一体どういう風の吹き回しなのだろうか?
それに、ちょっとくっつき過ぎではないだろうかと思われる。
「むっ! 夕也くんっ!」
今度は左側から希望が腕を組んできて、ピタリとくっついてくる。
そして、亜美と視線を合わせては何やら火花をバチバチと散らし始めた。
そんな状態のまま、宏太と奈々美との合流地点に到着すると、珍しい光景を目にした奈々美は「あんたも大変ねぇ」と、やはり他人事のように言った。
「で、どうしたのよこの状況?」
「知らん。 朝からずっとこんな感じだ」
「がるるー」
「がおー」
相変わらず謎にいがみ合う2人に挟まれながら、学校までの道のりを歩かされる俺であった。
◆◇◆◇◆◇
学校に着くと、人目がある為か2人とも急に普段通りに戻り席に着いた。
何なんだよマジで。
とか考えていると、隣の席から亜美が声を掛けてきた。
「ねぇ、今日の夜に2人で話がしたいんだけど……」
「ん? 2人でか?」
ここ最近は、ベランダ間の行き来も無くなっていた。
すっかり幼馴染ポジションに定着したものだと思っていたが。
「希望ちゃんには先に伝えてOKも貰ってるの」
昨日の内から決めていたようで、希望には許可を得ているとのこと。
それならまあ良いか?
「わかった。 22時ぐらいに部屋にいるから来いよ」
「うん、ありがとう」
その後は、授業中こそいつも通りだったが、昼休憩や下校時には今朝と同じように、亜美と希望の謎の戦いが繰り広げられていた。
◆◇◆◇◆◇
時刻は22時を少し過ぎたところ。
部屋でボーッとしていると、ベランダから亜美が入ってきた。
ノックぐらいしろよ。
「おじゃまします」
「おう」
部屋に入ってきた亜美は、どうやら風呂あがりのようだ。
少し髪が湿っている。 ちゃんと乾かさないと髪が傷むぞ。
「ごめんね、夜遅くに」
「いつもの事だろ」
亜美は「そだね」と、可愛い笑顔を見せる。
せっかくだ、今朝からの希望とのやりとりについて聞いてみよう。
「なあ、希望と何かあったのか? お前ら、今日なんか変だったぞ」
「んと、その辺含めて話をしに来たの」
どうやら、これからする話はそれ関連らしい。
亜美は、近くにあった椅子を引っ張り出してきて座り、俺の方を向いた。
「昨日あの後ね、希望ちゃんとお話しをしたの」
「話?」
「うん、大事な大事なお話し」
一体どんな話をしたというのだろうか?
「夕ちゃんにも言ったことあると思うけど……私ね、今まで希望ちゃんの幸せを何よりも優先して生きてきたんだ」
それが理由で、俺は亜美にフラれてしまったのだ。
「昨日はその事で希望ちゃんと話をしてね、希望ちゃんに怒られたの」
「怒られた?」
「『夕也くんの事が無くても、幸せなんだ。 亜美ちゃんが私を幸せにしてくれたんだ』ってね」
亜美は目を閉じて、その時の事を思い出すように言った。
「はぁ……今更そんなこと、どうして言われるまで気付けないんだよ? バカだな、お前は」
「わかってるから言わないでよぅ」
亜美は勢いよく立ち上がり、ベッドに座る俺の隣に腰掛けた。
「それでね、お願いされたの」
「お願い?」
亜美は、閉じていた目を開けてゆっくりと口を開く。
「自分の幸せの為に生きてほしいって」
真剣な表情で俺を見据える亜美。
その目はとても力強く真っ直ぐで、自信に満ちている。
「私、もう迷わないって決めたから」
「迷わない?」
「私は夕ちゃんを愛してるよ」
その声音や表情からは、ほんの僅かな迷いすら感じられない。 希望に対しての罪の意識も消え去っているように見える。
どうやら、「希望を幸せにする」という呪縛からは解き放たれたようだ。
今までに何度も口にしてきた「愛してる」という言葉。 だが、今までとは比べ物にならないほどの重みを感じる。
いや、一度だけこれと同じぐらい重みのある愛の言葉を聞いたことがある。
あの、最後のデートの夜に。
「お前……」
「もう、夕ちゃんの幼馴染じゃ嫌なの」
それは、つい先日に二人で決めた「お互い幼馴染として接していこう」という話を全否定する言葉だ。
「い、今更そんなことを言うなよ」
俺のその言葉に「ごめんなさい」と、小さな声で謝る。
本当に今更過ぎる。
あの日亜美にフラれて、希望の誕生日に希望に告白されて、自分なりに亜美か希望か悩んで考えた末、希望と歩いていく事を選んだ。
夏祭りの夜、希望を誰よりも大事にしようと決めた。
その為に、亜美の事は忘れようと色々やってきた。
先の「幼馴染として接していこう」もその一つだ。 お互い少し距離を取って付き合っていこう、そう決めた矢先じゃないか。
「やっぱり、今更こんなこと言われても迷惑だよね?」
膝の上で指を絡ませながら、下を向いてそう口にする亜美。
少し声のトーンも下がっているように感じる。
希望も希望だ。 何故今更、亜美を焚き付けるようなことを……。
(夕也くんの事、亜美ちゃんになら譲ろうって思ってたんだけど……)
ふと、そんな事を言っていたのを思い出した。
まさか、亜美の為に希望は身を引くつもりなのか?
「な、なぁ希望はなんて言ってるんだ?」
「希望ちゃん?」
小首を傾げる亜美。
何の事を言ってるのかわからないというような感じだ。
「俺の事をどうするとか」
「あー、うん。 簡単には渡さないって言ってるよ」
「そ、そうか」
大体、今朝の様子を見れば譲る気なんて毛頭無いっていうのが丸わかりだったじゃねぇか。
希望の事は心配しなくても大丈夫そうだ。
「私は、そんな希望ちゃんから夕ちゃんを奪うって宣言したよ」
「う、奪うって……」
その結果が今朝のアレになったわけか……納得した。
ちょっと幼稚なやりとりではあったが。
「はぁ……」
俺は大きく溜め息をついて、目の前の幼馴染の顔を見つめる。
亜美は真剣な表情を崩さずに、見つめ返してきている。
その青く綺麗な瞳に吸い込まれそうになるのを、何とか堪えて。
「俺だって、もう簡単に希望と離れられないぞ?」
「……」
亜美は肩をビクッと震わせて涙目になる。
しょうがねぇだろ……俺をフッたのは亜美自身なんだからな。
希望と付き合う前なら、俺は迷わず目の前の亜美を抱きしめていたに違いない。
今でも、必死にそうしない様に堪えているのだ。
「あ、諦めないもん」
亜美は「私だって幸せになりたいんだぁ!」とか叫びながらベッドに寝転がった。
「大きな声出したら、春人に聞こえるだろうが」
そのまま寝転がった格好でちらりと俺の方を見て「襲っても良いよ?」といたずらな笑みを浮かべている。
「はぁ、帰れ帰れ」
「むぅ、据え膳食わぬはなんとやらだよ?」
「俺は今腹一杯だ」
「思ったより強敵だねぇ……」
「甘くはねぇぞ? 俺も希望も」
「残念ながら、希望ちゃんは甘々だよ」
確かに違いない。 こうやって2人で会うことを承諾しているぐらいだ。
「ふふっ、まあいいや。 今日の所は気持ちを伝えるだけということで、帰らせてもらいます」
亜美はスタッと立ち上がってベランダの方へ歩いて行き、窓の前でくるっとこちらを振り向いた。
「覚悟しといてね夕ちゃん? 絶対に私の彼氏になってもらうから」
胸を張り堂々と宣言した亜美は、窓を開けて部屋から出て行った。
その亜美の自信に満ちた表情を見て、この先どうなっていくのかという不安を覚えずにはいられない。
俺は机の引き出しを開けて、片付けていた写真を取り出す。
「今更言うなよな、あのバカ」
口ではあんな風に強がったが、本当のところはまだ亜美の事も好きだ。
希望と亜美への気持ちの大きさは大して差がないと自覚している。
それは「恋人」か「幼馴染」かの差でしかないのだ。
写真に写る亜美の笑顔を見て、心が揺れるのを感じていた。
今更になって亜美と希望の恋の戦いが始まった。
揺れる夕也の心。
「亜美だよ! 皆お待たせ、やっと私も恋の戦いに本格参戦! とは言っても、希望ちゃんは強敵だからねぇ。 もっと早くこの展開になってれば楽勝だったのになぁ><
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