第39話 月姫激突
亜美と弥生、2人の激戦が今始まる
☆亜美視点☆
私達は今、試合開始前にベンチで作戦会議中。
「お相手さんはどの選手も全国区の選手だし、はっきり言って個々の能力じゃカバーしきれなさそうね」
「特に月島さんねぇ。 あれは、亜美ちゃんと奈々美がなんとかしてよね」
紗希ちゃんに無茶振りされた!
まあ頑張るしかないけど……。
「前がコース絞ってくれたり、ワンタッチでスパイクの勢い止めてくれたら、私どんなボールでも拾いに行くよ?」
私達の守備の要、希望ちゃんの心強い言葉だ。
「この試合はやっぱり3人にかかってるよなぁ」
と遥ちゃん。
遥ちゃんの身長なら弥生ちゃんとの空中戦でも十分に通用するはずだけどなぁ。
「攻撃の軸はどうしますの?」
「そこはほら、冷静沈着な司令塔の奈央に任せるわ」
「はぁ、わかりましたわ」
でも、何だかんだ言って頼れる司令塔の奈央ちゃん。
良くコート内も見えてるしお任せしても問題無いだろう。
◆◇◆◇◆◇
『さて、今大会の注目カード! 絶対女王の京都立華と、全国NO1プレーヤーとして名高い清水亜美を擁する千葉月ノ木学園の一戦です!』
『注目はやはり、月島と清水の対決です』
『とは言え、インターミドルで3度対戦して3度とも清水が勝ってますからねぇ』
『今年は月島も強豪校に入学して総合力でも上では無いかと言われています』
『それでどこまで差を詰めたのか、はたまた逆転したのか? そこにも注目していきましょう』
◆◇◆◇◆◇
サーブ権は立華から。
一番手は高校生プレーヤーなら皆が知ってる3年の新田さん。
彼女の得意なサーブはジャンプフローターだ。
それが早速飛んでくる。
綺麗な無回転ボールがフラフラと揺れと、落下地点が読めない。
「任せて!」
希望ちゃんがサッと落下予想地点に入り腰を落とす。
予想以上に伸びてきたサーブをバックステップしながらレシーブする。
「(上手いっ! 今日の希望ちゃんは一味違う!)」
「奈央ちゃん!」
ボールを繋ぐのはもちろん司令塔の奈央ちゃん。
私を含めて、前衛3人で助走に入る。
上がったトスは真っ直ぐ私の方へ。
低い弾道のトス。 奈央ちゃん冷静だ……。
私は、そのトスに合わせてジャンプする。
「クイック?!」
相手のリードブロックを逆手に取り、速攻を決める。
「いきなりやってくれはるわ……」
「えへへ」
ローテーションで弥生ちゃんの正面に移動する。
今度はこちらのサーブ。
遥ちゃんの強烈なジャンプサーブが相手コートに飛んでいく。
さすがに、このレベルだとレシーブも崩れてくれないなぁ。
相手のセッターはおそらく今大会で3本指に入る眞鍋さん。
奈央ちゃんと同格と見ていい。
綺麗なバックトスを弥生ちゃんに合わせてくる。
「奈々ちゃん!」
「はいよ!」
「ストレート締めて!」
希望ちゃんの声を聞いて、咄嗟にストレートのコースを塞ぐ。
「せーのっ!」
完全にストレートのコースを塞いだので、スパイクをクロスに打たせる事が出来る。
「甘いっちゅうねん!」
注文通りにクロスに打たれたスパイクは希望ちゃんの方へ。
「?!」
強烈なスパイクは希望ちゃんのレシーブで威力を殺し切れずに想定外の方向へ飛んでいく。
「どやぁ」
凄いドヤ顔でこちらを見る弥生ちゃん。
凄いパワースパイクだよ。
最高到達点もパワーも、間違い無く去年以上だ。
「ごめん、想像以上にパワーあったよぅ」
「どんまいどんまい、ここ1本で切るわよ」
この相手のサーブはサーバーが弥生ちゃんなので後ろに下がる。
つまり、相手の攻撃力が落ちるタイミングだ。
とは言え、前に出てくる人達も全国レベルの猛者ばかり。
楽はさせてもらえなさそうだねー。
対してこちらは前衛に私、奈々ちゃん、紗希ちゃんの超攻撃型陣形。
ここはしっかり1本で切りたい。
弥生ちゃんのジャンプサーブが飛んでくる。
セッターの奈央ちゃんが狙いだ!
「奈央ちゃんどいて!」
希望ちゃんだ! 希望ちゃんがサーブのコースに飛び込んできてレシーブを上げる。
かなり強引なプレーだけど、私達の攻撃力を最大限に活かすには、奈央ちゃんのトスが必要だ。
「ナイスですわ!」
すぐにセットに入る奈央ちゃん。
私達も助走に入る。
「頼みますわよ!」
そう言って上がったトスは私の斜め前方。
タイミングドンピシャだよ!
私はボールの最高到達点に合うよう跳ぶ。
「高すぎやろ……っ」
ブロックの手の遥か上からボールを空いている場所へ叩き込む。
「亜美、ナイス!」
「どやぁ!」
弥生ちゃんにどや返ししてやった。
弥生ちゃんは、さすがにむっとしていたがすぐに表情を戻す。
「あんた、今どれくらい跳んでた?」
「さぁ?」
結構本気で跳んだのは確かだけど。
「まあ、良いけど。 あんたが味方で良かったわマジで」
そう言いながらローテーションする。
さーて、私のサーブだよ!
えへへ、弥生ちゃん挑発しちゃお!
私は弥生ちゃんの後ろのラインを目掛けてジャンプサーブを打つ。
「他の選手やったら拾うか迷わせられるやろけど、ウチは迷ったりせんよ!」
しっかり見極めて、レシーブしてくるライバル。
さすがに見逃してくれないか。
これは相手の攻撃に繋がる。 相手のトスが上がる。
「え? そこは?!」
トスはアタックラインの後ろ……つまり。
「後ろに下がったかて、バックローアタックがあるんよ!」
意表を突かれた!
後方から放たれたバックローアタックはクロスに飛んでいき、綺麗にラインの上に接地した。
「うわー……後ろに下がっても火力落ちないじゃんアレ」
「あはは……」
紗希ちゃんが弥生ちゃんを指して文句を言っている。
私に言われてもなぁ。
☆弥生視点☆
「この試合、弥生とあちらさんのエースはんの勝負になりそやね? 先にエースを捕まえた方が勝ちや」
「先輩、それはちょっとちゃいますよ? あちらさんのエースは亜美ちゃんやのうて、オポジットの藍沢さんや」
「はぁっ?! 嘘やん!」
「ホンマやん! 亜美ちゃんはユーティリティです」
「ユーティリティかいな」
「それも、頭にスーパーとかウルトラが付くやつですねん」
「噂以上やなぁ」
「ウチが知る限り、リベロ、セッター、ウィングスパイカー、ミドルブロッカー、何をやらせても超一流」
「そんなんがおるんか……」
「そやさかい前から言うてますやん? ウチはバケモンちゃいますよって。 ホンマもんのバケモンはアレですわ」
そや言うても、今日はウチかて調子ええんよ。
いつもより集中できてるっちゅうんか?
もうちょいでなんや掴めそうな気がするんやけど。
どうすればそれ掴めるんやようわからん。
とりあえず今は集中や集中。
点数離されるわけにはいかへんで。
☆亜美視点☆
今日はなんか調子良いなぁ。
普段より動ける気がする。
さて、相手のサーブだね。
ここも1本で切りたい所だ。
この試合、1本のブレイクが明暗を分ける可能性がある。
1本だって落とせないよ!
集中集中。
今のフォーメーションはリベロの希望ちゃんが前衛に移動の為一度交代。
キャプテンが希望ちゃんの代わりに入る。
キャプテンが後衛に回るまでは希望ちゃんはコートに戻って来れないので、守備力が落ちるけど、そこをカバーするのがユーティリティの私の仕事だ。
レセプションでもディグでもトスでもなんでもやるよ!
相手サーブが飛んでくる。
私は抜けた希望ちゃんの代わりに拾いに行く。
「はいっ!」
「相変わらず、何やらせても上手いですわね」
私の上げたボールを奈央ちゃんが繋ぐ。
それをエースの奈々ちゃんがしっかりブロックアウトを誘って1点をもぎ取る。
「よーしよし」
「亜美ちゃん、今日は動きキレてるね?」
「うん、なんか調子良いんだぁ」
「今日は亜美ちゃんにボール集めますわよ?」
このサーブから、奈々ちゃんも後衛になる。
一応、紗希ちゃんがまだ前衛に残ってるんだけど……オポジットの奈々ちゃんじゃなくて私なんだ?
「そうねぇ、今日は亜美に任せても良いかもしれないわね」
奈々ちゃんがそう言うと、紗希ちゃんも頷く。
仕方ないなー、やれるだけやってみよう。
◆◇◆◇◆◇
その後もどちらのチームもブレイク出来ないままで試合は1セット目の中盤に差し掛かった。
現在スコアは17ー18。
そろそろブレイクポイントが欲しい。
プレーしてても感じるけど、時間が経つにつれて弥生ちゃんの動きがどんどん良くなってる。
このまま、いつまでも均衡状態を続けてるわけにはいかなさそうだ。
フォーメーションは最初と同じ、前衛レフトに奈々ちゃん、センターに私の陣形だ。
セッター奈央ちゃんのサーブは、上手くネット際に落として、弥生ちゃんに拾わせる。
ナイスサーブだ。
相手コートを良く見る。
弥生ちゃんが助走に入るのが見えた。
レシーブの体勢からこの時間で助走が出来るのはさすがだ……でも。
低いトスに合わせて弥生ちゃんが跳んだ。
クイック攻撃! 読み通り!
「は?! コミットブロック?!」
私は、クイックを仕掛けてくる弥生ちゃんと同時にブロックに跳んでいた。
「読まれたんかっ?!」
弥生ちゃんは苦し紛れのプッシュスパイクを打つが、そこには希望ちゃんが詰めていた。
「ナイスだよ、亜美ちゃん!」
「ブレイクチャンスですわよ!」
私はブロックから着地すると同時に助走準備に入っていた。
「亜美ちゃん!」
「いくよっ! 弥生ちゃん!」
ブロックは3枚。
だけど1人が警戒してコミットブロックに跳んでいた。
最初に見せたクイックがここで効いてくる。
これで壁は実質2枚。
「止めたる!」
小細工はいらない! 私の全力で跳ぶ!
「っは!」
声を出してスパイクを打ち抜く。
弥生ちゃんの高いブロックのその上から──。
「ナイス亜美! てか、また高かったわね!?」
「えへへ、自分でもびっくりしてるよ」
今日は本当に調子が良い。
「なんやの今の、シャレにならんて亜美ちゃん」
「どやどやぁ!」
「(さっき一緒に跳んだ時、一瞬やけどこの子の背中に羽根が見えたような気がしたわ……底が知れんなぁ、この子は。 ウチかて今は最高の状態なんやで? それでも届かんのか? あかん。弱気になるんやない……集中や! 何か掴めそうなんや!)」
化け物と人間の差?
激戦はまだ続きます。




