第296話 納得できていない
西条家のお泊り会、まだ続いていたガールズトーク。
話題は移って、1年生2人の事について。
☆奈々美視点☆
現在もガールズトークが続いている、西條家のお泊まり会。
話題は麻美と渚の恋愛についてに変わっている。
この子達も中々に難儀な恋をしている。
2人とも夕也に惚れているのだ。
もう彼女のいる男……勝ち目の無い戦い。
これからどうするのだろうか?
「どうするって訊かれてもねー……私もずっと小さい頃から夕也兄ぃが好きだからねー。 多分ずっと好きなんじゃないかなぁ?」
「私は……諦めてますから」
と、こんな感じの2人。
麻美は夕也に告ったらしいけど、当然フラれたという。
渚の方はまだ何のアプローチもしていないらしい。
「ええんです。 所詮はただの一目惚れやし、多分すぐに忘れると思います」
と、告白したりするつもりは無いとのこと。
まったく、遥といい渚といい、どうしてこんな消極的なのかしら。
「ちなみにね、夕ちゃんがフリーだったとしたら?」
「今井先輩がフリーやったらですか? どうやろ……それでも近くに清水先輩とか雪村先輩がおったら諦めてたんちゃいますかね」
「まあ、良いんじゃないのー?」
麻美が、冷たい感じでそう言うと、渚はムッとしたような顔をしていた。
結構複雑な感じね。
「出来るアドバイスは、後悔しないようにしなさいって事ね」
以前、一番の親友にも同じアドバイスをしたことがある。
その子はまあ、坂を転がるかのように不幸のどん底まで落ちるぐらい後悔してたけど。
今は自力で這い上がって、暗い闇から出て幸せを手にしたけども。
「んん? 奈々ちゃん何?」
「いえ、このアドバイスが上手くいったことないなーと思ってね」
「ああーっ! そりゃ、私はそのアドバイス活かせなかったけどさぁ」
案の定、亜美が怒りだした。 面白い子ねぇ。
「後悔……」
「……」
2人は黙り込んでしまう。
はぁ……。
「別に、私達は面白がってるわけじゃないんだからね」
「そーそー」
「本当かぁ?」
「本当だってば」
人の恋心をイジって楽しんでるわけない。
「そやかて、私はもうフラれるってわかってるんですよ?」
「だから気持ちを伝えるのをやめるのー? 私はわかってても伝えたよー?」
「……麻美は何で告白したん?」
「好きだし後悔したくないからだよ。 それに、なんだか胸がもやもやするじゃん? スッキリさせたくて」
「もやもや……」
渚は俯いてしまった。 麻美の言葉に、少なからず思うところがあるようね。
どうなることやら。
「遥はー? 遥の場合は勝算だってあるでしょ?」
奈央が枕をぎゅっと抱きしめながら遥に話を振る。
遥の方は、確かに勝算がある。
相手には彼女もいないという事だし、デートも1度している。
夏祭りは2人で楽しんでたみたいだし、何より趣味が合う。
告白をためらう理由がわからない。 彼氏が欲しいってよく相談に来てたくせに、いざチャンスがやってくると足踏みしている。
よくわかんないわね。
「勝算があるって言われても、自信ないよ私は」
「え、なんで?」
亜美が目を丸くして訊く。
「だ、だって私今までは男っぽかったし、女子からしかモテてなかったし……もしかしたら、男友達の感覚なのかもしれないし」
「そんなの、聞いてみなきゃわかんないでしょ」
「うぅ……」
皆から色々言われて、縮こまってしまった遥。
なんだか悪いことしてる気分になってくるわね……。
どうしたものかしらね、この子と渚は。
「さて、そろそろ寝ましょ。 もう1時だわ」
遥も渚も黙り込んでしまったし、今はこれ以上言っても進展はなさそうね。
時間も時間だし、これでお開きね。
「そだね。 希望ちゃんは半分寝てるし」
「はぅー……」
「本当に可愛いなぁ、希望ちゃんは! よし、一緒の布団で寝よー!」
素早く希望の布団に潜り込む紗希。
希望は特に何も言わずそれを受け入れている。
というかもう8割寝てるわねこれ。
「じゃ、電気消すわよ? おやすみ」
「おやすみー」
部屋の明かりが消えて、先程までガールズトークで盛り上がっていた皆も静まり返り、眠りにつくのだった。
◆◇◆◇◆◇
どれくらい時間が経ったのだろうか。
眠りが浅かったのかは知らないけど、物音で目が覚めた。
どうやら誰かが布団から出て、どこかへ歩いて行ったようだ。
「(誰か知らないけど、トイレかしら?)」
と、思ったけど、どうやらテラスの方へと向かったようだ。
こんな寒いのに外に出てどうするつもりかしら?
「体を起こして、周りを見てみる。 いなくなってるのは……麻美?」
どうしたのかしら……。
寝ぼけてトイレとテラス間違えたとか?
「……」
にしては出て行ってから引き返してこないわね? まさか外でそのまま寝てるってことはないだろうけど。
「はぁ……見に行きますか」
皆を起こさないように、私もゆっくりと起き上がりテラスへと向かう。
「うぅ寒っ……」
「お、お姉ちゃん?」
「あんたが出ていくのが見えたから。 どうしたのよ、こんな寒いのにテラスになんか出てきて?」
「……ちょっと考え事ー」
「考え事? いつもノーテンキなあんたが?」
「ひっどーい。 私だって人並みに悩んだりするんだよー」
「はいはい。 んで、何に悩んでんの?」
「悩んでるってよりは……まだなんか納得しきれていない部分があるというか」
「夕也の事?」
そう聞くと、麻美は小さく頷いた。
「さっきは渚に偉そうなこと言ったけどさー。 まだスッキリしてないんだよねー」
「そう。 告白してフラれただけじゃ、まだ心残りがあるのね」
「多分そうー。 自分で思ってるより好きみたいだねー」
ヘラヘラと笑いながら振り向いてそういう麻美。
小さな頃から夕也一筋。 時間だけで言えば亜美と同等、希望とは比べ物にならない。
亜美に隠れてわかりくいけど、この子も本気で夕也を想っているのだ。
「どうすんのよ?」
「んー……もうちょっと踏み込んでみようかなー」
「亜美から奪うって事?」
まぁそれは麻美の自由だし、止める気は無いけど。
でも、いくら頑張っても亜美から奪うのは厳しいでしょうね。
おそらく希望でもかなり厳しいはずだ。
「奪う……うーん……そこまでは思ってないけど。 一回くらいデートとかしてみたいなー」
「ふぅん。 それぐらいなら実現しそうよね」
「亜美姉が許してくれたらねー」
たしかに、結構難しいかもしれない。 希望ならまだしも、それ以外の女子となると亜美も警戒しそう。
それにしても……。
「寒い」
「そだねー。 話したらスッキリしたし、戻って寝ようかー」
「そうね」
麻美と2人で部屋の中に戻る。
相変わらず他の皆は寝息を立てて眠っているようである。
麻美にもあんな悩みがあったのね。 渚や遥の事もあるけど大事な妹の悩み……。
色々あるわねぇ。
麻美に関しては、私が何かしなくても自分で何とかするでしょう。
もし私を頼ってくるようなら、その時は力を貸してあげることにしよう。
やっぱり問題は、渚と遥ね。 この2人がもうちょっと前向きになれば良いんだけど……。
特に遥は成就する可能性のある想いなんだから、誰かに先を越される前に何とかならないかしらね。
麻美の中ではまだ決着がついていない恋。
夕也とデートがしたいと思う麻美だがはてさて。
「希望だよ。 お泊り会とかガールズトークは楽しいよぅ。 でもね、私って夜弱くて遅くまで起きてられないの。 亜美ちゃんにはお子様だって言われるんだけど、人間夜は寝るものだよね?」
「希望ちゃん、1回も会話に入って無かったよね?」