第290話 特別な日だから
夕也と簡素なクリスマスデートを楽しむ亜美。
次は、2人が世話になっているスポーツ用品店だ。
☆亜美視点☆
私と夕ちゃんは、ちょっと早めのクリスマスデートを楽しんでいる。
都市部へやってきて、まずはショッピング。
今から夕ちゃんがスポーツ用品を見たいというので、スポーツ用品店へ行くよ。
「何か欲しい物でもあるの? プレゼントとしちゃおっか?」
夕ちゃんが欲しいと言ったものを、クリスマスプレゼントとして買ってあげるつもりでいる。
その為、お小遣いも結構持ってきた。
「つっても、バッグやシューズは誕生日に貰ったやつがまだまだ綺麗だしな。 今のところは欲しい物もねぇよ」
「あぅ、そっか。 何か欲しい物あったら言ってね? クリスマスプレゼントしちゃう」
「お前もな」
「うん、勿論だよ。 うんと高いのねだっちゃう」
「程々にしてくれると助かる……」
私は「わかってるわかってる」と笑いながら、夕ちゃんと共にスポーツ用品店に足を踏み入れる。
このお店は、私と夕ちゃんの御用達のお店。
おじさんとも仲が良くて、いつもまけてもらったりしている。
「おっす」
「おう、夕坊に亜美ちゃんかい。 2人とも全国大会が近いな」
「おう。 夏は負けちまったが、冬はやるぜ」
「私は連覇するよ」
と、抱負を語り、商品を物色する。
リストバンドとかスポーツタオルに目を向ける。
が、どれも今欲しいというほどの物でもない。
かといって、バレーシューズもまだ使えるし、ここで欲しい物は特に無い。
それは夕ちゃんも同じようだ。 手には取ってみる物の、今欲しい物ではないといった様子である。
そんな時であった、おじさんが色紙を持って私の前にやって来た。
一体何だというのだろうか?
「亜美ちゃん、ちょっとサインくれないかねぇ」
「サ、サイン?」
「今や日本の……いや、世界的プレーヤーと言っても過言じゃないだろう? 何れは日本代表になってもっと名前が売れるかもしれないから今の内にと思ってなあ」
「あ、あはは……私、サインなんか持ってないんだけどなぁ……」
一応色紙とペンをもらって、レジ台に置く。
でもサインかぁ……あった方がかっこいいのかなぁ……よーし、かっこいいサイン考えちゃうぞ。
練習用の紙を貰って、何個か書いてみる。
「これだ!」
その内の1つが気に入ったので、本番用の色紙に書き込む。
キュキュキュ……キュウ!
「はい、おじさん! サイン第一号だよ!」
「おおー! ありがとう! これが将来の日本の月姫のサインか! よし飾っておこう」
「あ、あはは……そんな価値なんてないよ」
「ま、今のところはだろ。 これから日本代表にでもなってみろ……」
「そ、そんなに凄いかなぁ」
と首を傾げると、夕ちゃんもおじさんも腕を組んで「うんうん」と頷くのだった。
うう……。
私と夕ちゃんは、おじさんに冷やかしであることを詫びて、店を後にした。
今度また何か買いに来ると約束もした。
その後もショッピングを続ける私達。
色々と見て回ったけど、結局最初に見たセーターとロングスカートが一番欲しいと思えるものだった為、一度そのお店に戻ってそれを購入。
夕ちゃんに奢ってもらったのだった。
「ありがと夕ちゃん」
「まぁ気にすんな」
「夕ちゃんは? 何か欲しいものない?」
「今のところはな。 まあでも、お前と歩いてるだけで充分だぜ」
「うわわ……恥ずかしいことを。 でも嬉しいね」
嬉しくて私は、夕ちゃんの腕に抱きつく。
夕ちゃんは、一瞬バランスを崩すように傾いてきたけど、すぐに体勢を立て直し歩き始めた。
これは周りの人から見たら、バカップルにしか見えないかもしれない。
いやー私と夕ちゃんはラブラブだねぇ。
そのまま歩いて映画館へ向かう。
今日はいつもみたいにホラーではなく、恋愛映画をチョイス。
一番後ろの席に座り、恋愛映画を……。
「んん……ん…」
観ずに夕ちゃんとチュッチュッしていた。
いや、ちゃんと映画観てたよ? ただちょっと気分が高揚しちゃって……。
結局終わるまでの間、夕ちゃんとイチャイチャしていたのであった。
「いやー、良い映画だったね」
「嘘つけ、ちゃんと観てなかっただろ」
「観てたも~ん。 夕ちゃんと違うも~ん」
「さようですか」
時間は気付けば夕刻。
辺りも暗くなってきたし、希望ちゃんだって寂しがってるだろうし……。
「そろそろ帰ろっか」
「おう、そうだな」
「希望ちゃん、寂しくて泣いてるかもね」
「いやいや……それはないだろう」
来た道を手を繋いで帰る私と夕ちゃん。
恋人になってからは、実に順調な私達。
ただただ、最近は夜の方が少ーしご無沙汰。
それは、奈々ちゃんのことがあって私達も慎重になっているからであり、致し方なしと言ったところなんだけど……。
しかーし、今日はクリスマスの代理デート。 いわば今日は私たちにとってクリスマス。
つまり、特別な日という事になる。
ということで……今晩、私は夕ちゃんの部屋に行ってうふふふ……。
「亜美、なんか企んでる顔してるな?」
「別にー」
いかんいかん、顔に出ていたようだ。
普通に普通に……。
「なんだかなぁ」
「ぬふふー」
◆◇◆◇◆◇
「ただいまぁ」
「おかえりぃー。 早かったねぇ」
「でももう夕飯でしょ?」
「うん。 用意はできてるからいつでも食べられるよぅ」
「さすが希望ちゃん。 着替えたら食べるねぇ」
「じゃあ、ご飯とかも入れとくね」
私は希望ちゃんにお礼を言って、部屋に戻った。
夕ちゃんはそのままダイニングへ入ったようだ。
私も部屋着にさくさくっと着替えてダイニングへ向かう。
「んむんむ」
「今日はどうだった? 楽しかった?」
「うん」
「そっか」
希望ちゃんと、今日のデートについての話をしながら夕食を食べ進める。
夕ちゃんもたまに話に加わっていたけど、基本的にはこくこくと相槌を打つに留まっていた。
食後はいつも通り、私と希望ちゃんでお皿を洗う。
「ねぇ、今日はその……耳栓か何かして寝た方がいいよ、希望ちゃん」
「……え、なんで?」
「そりゃ、その……ねぇ?」
と、言葉を濁してみるも、希望ちゃんも気付いたようで「はっ」と声を出して私の方を勢いよく振り向く。
「するの?」
「したいなぁと……えへへー」
「むぅ……わかりました……今日は音楽でも聴きながら寝よ」
「ごめんなさい」
希望ちゃんには迷惑をかけることになるけど、欲には勝てないのである。
今晩、行動に移すよ。
◆◇◆◇◆◇
お風呂から上がって早速夕ちゃんの部屋へとやって来た私。
ノックをして夕ちゃんが出てくるのを待つ。
程なくして夕ちゃんが部屋から出てくる。
「ん? 亜美か、どうした」
「んと……んと……」
私はもじもじと体を揺らしながら、上目遣いで夕ちゃんを攻めたてる。
夕ちゃんは私のこういう行動に弱ーい。
「な、なんだよ?」
「……しよ?」
「……」
「……」
反応がない。
と、思いきや夕ちゃんも相当に溜まっているのか、私をグイっと引っ張って部屋に招き入れたかと思うと、すぐさまベッドに押し倒してきた。
「……なんだ、やる気満々じゃん」
「お前の所為だぞ」
「ふふふ」
その夜は久しぶりという事もあり、それはもう激しかったのであった。
クリスマスデートを終え、夜も2人で過ごし幸せ一杯。
「希望だよぅ。 何というか羨ましい。 私は来月何処にデート行こうかなぁ? っていうか、夕也くんは嫌じゃないのかな? 私との月1デート」
「大丈夫でしょ」