第288話 宏太完治
骨折してから約5週間経つ宏太。
大会も10日後に迫っていることから、そろそろギプスを外したいところなのだが。
☆宏太視点☆
今日は12月14日定期テストの準備期間に入り、部活は休み。
皆は勉強会をするようだが、俺は病院があるので後から合流する予定である。
「じゃあね宏ちゃん。 夕ちゃんの家に皆いるからね」
「おう」
授業が終わり皆と別れて、現在通院している病院へと向かう。
骨折してから約5週間……。
あと10日もすればウインターカップが始まる。
さすがにこれ以上はギプスを着けているわけにもいかない。
先週の時点で問題は無いって先生も言ってたし……。
「頼むぜー。 そろそろ外れてくれ」
そう願うしかないのであった。
病院に到着した俺は、受付を済ませて適当に漫画でも読みながら椅子に座って呼ばれるのを待つ。
しかし、片手しか使えないってのは不便なものである。
これが利き腕だったら、とてもじゃないがまともに箸も持てなかっただろう。
「佐々木さーん」
「はーい」
呼ばれたので診察室へ入り、診察を受ける。
「ふむ。 先週の写真を見る限りだと、もうそろそろギプスを取ってリハビリを始めてもいいでしょう」
「ギプス取れるんっすか!?」
よしよし、ようやく宏太様復活だぜ。
「しっかりリハビリは受けるんですよ。 でないと、思っているより筋力は低下しているし、関節も硬直していて上手く動かないよ」
「わかってますよ」
「リハビリテーション科に話を通しておくので、ギプスを取ったら3階のリハビリテーションにこれを持っていくように」
と、紙切れを1枚受け取る。
リハビリ科の受付用紙だろう。
仕方ないな。 リハビリを受けないわけにもいかねぇし。
「では、処置室の方へ」
「うっす」
促されて処置室とやらへ向かう。
すると、看護師のお姉さんが何やら物騒なものを持ってきた。
丸ノコのようなものを持って笑顔で先生に手渡している。
それを手に持って、これまた楽しそうに動かし始める先生。
「動かないようにね。 せっかく治った手が半分に割けちゃうから」
「ひぃぃぃ!?」
◆◇◆◇◆◇
「はっはっはっはっ! 冗談じゃないか! これはね、人の皮膚は傷つかないようにできてるんだ」
先生は大爆笑しながらそう説明してくれた。
なんて意地の悪い先生なんだ……。 ちびるかと思ったぜ。
「そこに手洗い場があるから洗ってきなさい。 なんせ1か月以上洗ってないからね。 垢がボロボロでるよ」
「うっす」
俺は立ち上がって、処置室にある手洗い場へと向かう。
しかしギプスが外れたってのに、左腕がやけに重い。
やっぱり1ヶ月固定されていた所為か……。
左手を上げようとすると……。
「……」
まるで自分の腕じゃないかのように重く、思ったように動かない。
「先生、これ本当に治ってるんすか?」
「君もレントゲン見ただろ? 問題無い。 今は間接が硬直して動かしにくいが、すぐ以前のように戻るさ」
「……わかりました」
何とか左手を洗い終えて、指示されたとおりにリハビリ科へと足を向ける。
そこで、リハビリについて説明を受けて、一人で勝手に進めていく。
薬効のあるお湯で筋肉をほぐしてから、軽い筋トレを行う。
気付けば、左手は普通に動かせるレベルにまで戻っていた。
「なるほど……先生の言った通りだな」
筋トレメニューを一通り済ませて、リハビリ担当の人を呼ぶ。
俺の担当は綺麗なお姉さんである。
ぐへへ、ラッキーだぜ。
「メニュー一通り終わりました」
「はいはいー。 じゃあそこに寝転がってね」
俺は仰向けになって寝転がる。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「ふふふ、イケメンねぇ。 でも私は年上が好みかなぁ」
残念……。
「はい、肘伸ばしたり曲げたりしていくわねぇ。 思いっ切りやるから痛かったら言ってね」
そう言うと左手を持って、グイッっと肘を曲げる。
体重を乗せて限界まで曲げられるため、多少痛くはあるが我慢できるレベルだ。
何度か伸ばしたり曲げたりを繰り返して、最後にマッサージを受けて終了となった。
家でも肘のリハビリと筋トレはちゃんとするように指示を受けて、今日のところは帰れるとのこと。
リハビリも家でできるものばかりなので、困ったことがあれば来てくださいというレベルで、わざわざ通う必要も無いとのこと。
「完全復活だぜ! がはは」
これでようやく本格的な練習も再開できるし、希望にも苦労かけなくて済むぜ。
俺は意気揚々と、夕也の家と向かった。
◆◇◆◇◆◇
「おっす、待たせたな」
「別に待ってないわよー」
夕也の家に行くと、相変わらずの雑な扱いを受ける。
まぁ別に良いんだが。
「あ、宏太くんギプス取れたんだ?」
「おう。 これで希望の世話にならなくても済むぜ」
「うんうん。 良かったね」
希望ぐらいだなぁ、俺に優しく接してくれるのは……。
あの亜美ちゃんでさえ、俺の扱いに関して言えば雑な方だ。
「宏ちゃん。 勉強勉強」
「おう」
とまぁ、ご覧の通りである。
俺は空いてる場所に座り、ノートを広げる。
いつもの5人に1年生2人の7人。
西条達は別の場所でやっているようだ。
確かにこの家に10人は狭いしな。
「宏太兄ぃ、これ教えてー」
隣に座る麻美が、数学の問題集を開いて聞いてくる。
なんで俺に訊く……。
「麻美、そいつに訊いても無駄よー」
奈々美が目もくれずにそう言った。
「ぐぬぬ……ええいどれだ!」
問題を見るとそれは、去年亜美ちゃんが教えてくれた問題だ。
これならわかるぜ。
「これはだな、これをこうしてだな」
「おお」
すらすらと解きながら教えてやると、麻美は感心したようにこういうのだった。
「やるじゃーん! 合ってる合ってるよー! 凄いねー宏太兄ぃ! でも2年生だし当然かー」
「……え?」
もしかして俺、麻美に試されたのか?
「佐々木先輩……麻美にナメられてますやん……」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
お、おのれぇ……。
「でも、去年教えた事がちゃんとできてて偉いよ宏ちゃん。 亜美先生は嬉しいよぉ」
と、亜美ちゃんは涙を拭いながらそんな小芝居を打っていた。
な、なんなんだこの扱いは……。
そもそも、腕が完治したことに触れてくれたのは希望だけ。
皆、俺の怪我のことなんか興味も無かったってのか……。
「ふん……もう知らん。 帰って1人で勉強するぜ」
「えっ、ダメだよ?」
「そうだぞ。 今日はこの後、お前の快気祝いやるんだぞ」
「……は?」
皆はクスクスと笑っている。 こ、こいつら、今日はワザとなのか。
「希望ちゃんから、今日ギプス取れるかもしれないって言ってったって聞いたんだよ」
「うん。 だから、皆で快気祝いしようって話してたの」
「ふふふ」
「んだよ……なら最初からそう言えっての」
「それじゃあ面白くないじゃーん」
「私はどっちでも良かったんやけど……多数決で黙ってようて話になってしもて。 すいません」
月島妹が頭を下げて謝ってきたが、別にそういうことなら構わない。
そうかそうか……快気祝いか。
「ふふ……人気者はつらいぜ」
「何言ってんのよ……ほらさっさと勉強終わらせて、パーっとやるわよ」
その後、適度ぬ勉強を終わらせた俺達は、どこからか出てきたスナックやジュースで小さなパーティーをして楽しんだのだった。
ようやく完治した宏太。
皆からは相変わらず雑な扱いを受けていたと思いきや、シークレットで快気祝いを開かれるのだった。
「遥だぞー。 佐々木の奴、大会に間に合って良かったね。 あんだけ練習してたのに、ケガで出れないなんて事ほど悔しいことはないからね。 気張ってきなよ、バスケ部キャプテン」
「私達も春高に向けて気張っていくよ」