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第277話 宏太の悲劇

11月。 今月もバレー部キャプテンである亜美との体育館の全面使用日について打ち合わせをすることになっている宏太。

 ☆宏太視点☆


 11月4日の水曜日。

 肌寒くなってきたが、まだまだ冬には早い。

 

 今日も学校なので退屈な勉強の時間である。

 あー、さっさと部活の時間になってくれんもんかね。

 俺はバスケ部のキャプテンになったわけだが、これが中々大変である。

 顧問がお飾りなもんだから、練習試合の相手との交渉も俺がやらないといけない。

 絶対におかしい。

 バレー部のキャプテンになった亜美ちゃんも、同じような境遇のようで2人して愚痴ったりしている。

 あっちの顧問もお飾りなのだ。

 大体において、バスケ部もバレー部も今の世代は全国区で活躍してるのに、専属の監督すら就いていない。

 絶対におかしい。

 もう少し何とかならんものだろうか。


「お待たせ宏ちゃーん」

「おう」


 で、今日も今日とてバレー部キャプテンの亜美ちゃんと、体育館の11月度全面使用日の摺合せ。

 これも本来なら顧問の仕事で良い筈だ。


「んじゃ行きますか」

「うん。 あ、そだそだ。 来月から学校にいる間にやっちゃわない?」

「ん? そうだなー。 もう日が落ちて暗くなるのも早いし、それでいいかもな。 摺合せ自体は10分ぐらいで、後は練習試合先の学校に日付指定の電話かけるだけだしな」


 割とすぐに終わるので、その後は2人で愚痴るのが恒例となっている。

 別に必要な時間ではないので、学校で済まそうと思えばいくらでも済ませられるのだ。

 亜美ちゃんは緑風のパフェ目当てなところも大きいみたいではあるが。


「今ちょっと、私も家でやることはあって忙しいんだよね」

「ほう。 勉強?」

「ちょっと違うかな。 その内教えてあげるよ」

「そうかい」


 亜美ちゃんがそういうなら、その内わかるんだろう。 今は無理に聞き出すこともあるまい。

 

 そうして、2人して緑風にやって来た。

 俺はコーヒーを、亜美ちゃんは恒例のパフェを頼み、早速スマホでカレンダーを開きながら摺合せを開始する。


「今月は14日と28日に練習試合したいって申し出があってねぇ」

「さすが全国トップだな。 大人気だ」

「いやいや。 そっちは?」


 と、バスケ部の方を訊いてきた。


「こっちは10日だな」

「平日だねぇ」

「先方さんが創立記念日なんだそうだ」

「こっちには関係ないよねぇ」

「まったくだ」


 そっちの休みなんてこっちの知ったこっちゃないってんだ。


「じゃあ、10日はバレー部練習できないんだね」

「あぁ、代わりに応援しに来てくれてもいいんだぞ」

「あはは、そうだねー。 夕ちゃんも出るだろうし応援行くよ」

「よし、じゃあ明日先方の学校に連絡入れるかな」

「うん」


 その後はやはり恒例の愚痴タイムとなったのであった。

 本当におかしい。

 


 ◆◇◆◇◆◇


 

 で、翌日木曜日。

 昼休憩の為、中庭のランチスペースを向かう途中。

 移動の時間を利用して、練習試合の相手の学校へ連絡を入れて、10日でOKの旨を伝える。


「はぁ、何で俺が」


 スマホをポケットに入れて、急いで階段を下りて行く。

 一段飛ばしで下りて、手摺を掴み踊り場も最短距離で……。


 ドンッ!


「はぅっ?!」

「なっ?!」


 ちょうど階段を上がってきた雪村と正面衝突してしまった。

 目の前では体勢を崩された雪村が、こちらに手を伸ばしながら後ろに倒れ込んでいく瞬間がスローモーションで見えた。


「雪村!!」


 咄嗟に手を伸ばして雪村の手を掴む。 なんとか届いたが、俺自身も前のめりになってバランスを崩している。

 これじゃ両方とも……。


「ぐおおおお!」


 無理矢理に手を引いて、体を入れ替えて雪村を踊り場へ引っ張り上げる。

 その代り、俺が階段の方へと投げ出される。


「佐々木くんっ!?」


 当然俺はそのまま階段から転がり落ちる。

 ドラマや映画でしか見た事の無いような階段落ちになっているかもしれない。

 勢いのついた体は意外と止まらないものだ。

 時間にすれば一瞬の出来事だったであろう。

 気付けが俺は、廊下に横たわっていた。


「さ、佐々木くんっ!  大丈夫!?」

「いつつ……だ、大丈夫……」


 と、口にして左手を動かそうとした時に激痛が走る。


「っ」

「痛むの!?」

「あ、あぁ。 左腕だな……」


 骨をやられてるかもしれない……。

 く、この時期にそれはまずいっての。 来月にはウインターカップ本戦だぞ……。

 キャプテンの俺が離脱とか洒落になんねぇぞ。


「佐々木くん、保健室行こう!」

「わりぃ」


 何とか立ち上がって保健室へ向かう。

 保険医には骨に異常があるかもしれないから、病院に行こうと言われ車で病院に連れて行かれるのだった。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 病院で処置を受けて帰ってくる頃には6限目も終わりかけだった。

 授業が終わると、奈々美が寄ってきた。


「あんた大丈夫? 希望がかなり心配してたわよ?」

「あぁ……骨折れてたわ」


 左前腕骨尺骨骨折とかいうらしい。

 比較的きれいに折れているらしく、無茶をしなければ1ヶ月ほどでギプスは取れるとの事。

 ウインターカップには間に合いそうで良かったぜ。


「骨折……」

「利き腕じゃないし比較的マシだ」

「佐々木ー、ドジだねぇ君は」

「うっせー」


 蒼井にバカにされる。

 まぁ、無駄に急いでた俺が悪いのだ。

 バカにされても仕方あるまい……。


「ま、名誉の負傷ってとこですわね」

「そうでもないぞ……俺のせいで雪村がこうなってたかもしれないんだしな」


 あの時、咄嗟に雪村の手を掴めてよかった。


「さて、部活行こうぜ」

「あんたも行くの?」

「あたりめーだろ。 キャプテンだぞキャプテン。 それに、左手使わない練習なら出来らぁ」

「無理すんじゃないわよ?」

「わーってるよ」


 いつもの通り、鞄を持って体育館へ向かう。

 途中でB組の連中と合流して、やはり色々言われた。


「宏太、お前大丈夫かよ」

「あぁ。 左腕だけだし、軽い練習だけなら問題ねぇ」

「あぅ……無理しちゃだめだよ?」

「おう」

「さ、佐々木くん……私の所為で」

「バーカ。 あれは俺の所為だし、これは自業自得なんだよ」

「佐々木君かっこいいじゃーん!」

「かっこいいかー?」


 神崎の評価が上がったようだ。


「それにしても、片腕だと家事大変でしょ? しばらく夕飯は家に来なさいよ」

「そうだな……しばらく世話になるか」

「じゃあ、掃除とか洗濯は私にやらせて」


 と、雪村が申し出てきた。

 それも奈々美がやるというが、雪村も「何か手伝いたい」と引き下がらなかったため、交代制でやることになったようだ。

 両親共働きで普段俺がやってるのだが、この腕では少々無理もあるしここはありがたく甘えるとしよう。

 俺はとにかく、この腕をできるだけ早く治すことに専念だ。


 練習はロードワークや基礎練を主にやっていく。

 体力だけは落とさないようにしないとな。


「宏太。 10日の練習試合どうすんだ? お前出られねーだろ?」

「あー……センター任せられる奴ってーと……飯島かー」

「タッパあるしな」

「あぁ。 練習見てても動きは良いし、十分やれるだろう」


 ということで、俺がコートに入れない間は1年生の飯島にセンターを任せることになった。



不注意から左手を怪我してしまった宏太。

希望が責任を感じて、ギプスが取れるまでの間奈々美と交代で宏太の家の事をやることに。


「希望だよ。 はぅぅーっ! 佐々木くんが私の代わりに階段から落ちた時は、血の気が引いたよ。 もう私の大切な人がいなくなるのは嫌だよ……。 怪我だけで済んで本当に良かった……早く治るように全力でサポートするからね!」

「私より恋人っぽくない?」


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