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第276話 音羽奏

学校の廊下を歩いていると、何やら話声が聞こえてきた

 ☆亜美視点☆


 11月入ったところである。

 葉も紅く色付いてきた今日この頃。

 紅葉狩りでもしたいなーなんて考えながら、窓の外を見ながら学校の廊下を歩いていた。

 ボーッとしながら歩いていると、後ろの方を歩いている女子からこんな会話が聞こえてきた。


「そういえば、音羽奏って知ってる?」

「あの小説作家の?」


 ……。


「そうそう! 一作だけ書いてそのまま消えちゃった伝説の作家!」

「凄いよねー。 何か賞も受賞が決まってたけど辞退したんだっけ?」

「そうそう! 何もかもが謎のヴェールに包まれてるんだよねー。 また何か書いたりしないのかなぁ?」


 音羽奏とは、とある恋愛小説を書いて大ヒットしたにも関わらず、その後は全く音沙汰の無い謎の多い作家である。

 その正体は、中学生の頃の私なのだが……。


「未だに話題になる事があるんだねぇ……」


 本当に1冊書いただけなのに、どうしてこんなに話題が尽きないのだろうか……。

 んー……小説かぁ。

 今更書いてもなぁ。

 書くならまた何か賞にでも応募しないとダメだろう。

 でも今更、音羽奏が復活したってねぇ。

 何より、あの作品よりいいのが書ける自信も無い……。

 

「小説ねぇ」


 せっかくパソコンやプリンターも手に入った事だし、もう一度何か書いてみようかな……。

 世に出すかどうかは別として。


 そういえば、麻美ちゃんも似たような収入源があるとか言ってたねぇ。

 私が音羽奏だって、何故か知ってるし……。

 麻美ちゃんも結構謎の多い子だね。

 奈々ちゃんでも知らない事とか多いみたいだし、不思議な子だよ本当に。

 麻美ちゃんが作家として活動してるなら、一体どんな本を書いてるんだろう?

 収入といえばだけど、今でも少しではあるが入ってくるお金。

 未だにあの作品が売れたりしているのだろう。

 おかげで、お小遣いにはあまり困っていないのだけど。

 

「ふぅむ……」



 ◆◇◆◇◆◇



 その夜、最近よく麻美ちゃんと遊んでいるゲームで、麻美ちゃんとお話をしてみた。


「え? 何か書くの?」

「うん。 ちょっと」

「音羽奏復活?」

「世に出すかはわからないけど……」

「えー、勿体ないー」


 チャットでそんな事言う麻美ちゃん。

 そう言われても、良い物が書ける自信もないし、大体完成させられるかもわかんないし。


「音羽奏の作品ならきっと良い物になるよー」

「いやいや……」



 あれはたまたまヒットしただけだと思う。

 まぁでも、書いてみるなら真剣に良い物を書くつもりだけど。


「そうだ、麻美ちゃんも似たようなことしてるって言ってたよね?」

「ん? うん?」

「なんか本出してるって事?」

「亜美姉には喋っても良いかなー……そうだよー」


 やはりそのようだ。

 しかも、現在も何かしら作品を書いているみたいである。


「ちなみに、なんて本書いたりしたの?」

「んー」


 麻美ちゃんはしばらく考えるように間を空けた。

 やはり、そこまでは言いたくないのだろうか?

 しかし、すぐにチャットが返ってきた。

 それは意外な返答。


「亜美姉の部屋の本棚に、1冊だけあったよ」


 私は咄嗟に立ち上がり、本棚を確認する。

 私の部屋の本棚は、基本的には1人の作家の本が並んでいる。

 好きな作家は、と聞かれればその人であると答える。

 しかし、中には他の作家の作品も何冊かあり、その中のどれかが、麻美ちゃんの作品という事になる。


「どれだろ……」


 候補がありすぎでさっぱりわからない。


「教えてよー」


 と、チャットで返すと、麻美は「しょうがないなぁ。 誰にも言わないでよー?」と断った上で、ペンネームを教えてくれた。

 教えてくれた名前が書いてある本を、本棚から探す。


「あったあった。 ゴールへの軌跡 著者 アサミ 何故気付かなかった……」


 まんまであった。

 この本はたしか、スポーツ青春白書的な物だったはず。

 陸上部を題材にしたものだったかな?

 他にどんなのを書いたんだろう?

 今度本屋さんで探してみようかな。

 さて、そうなると気になる事はあと一つ。


「どうして音羽奏の正体が私だって知ってたの? 私はメディアや人前には露出しなかった筈だけど?」

「亜美姉が書いた原稿を一度見たことがあってねー。 内容覚えてたからすぐにわかったよー」


 うわわ……いつ見たんだろう?

 原稿って事は、賞に応募する前だよねー。

 あの頃はよく、麻美ちゃんも遊びに来たりしてたし、見られてもおかしくないかな。

 見られたのは麻美ちゃんにだけみたいだし、まだマシか。


「感動したなぁー見た時は。 書籍化されたの知ってすぐに買いに走ったよー。 実は、あの本が切っ掛けで、私も作家志望になったんだよー」

「わ、私の本が切っ掛け?!」


 何ともまあ……。

 でも嬉しいかも。


「じゃ、麻美ちゃんは将来的には?」

「うん。 小説作家として生きていきたい」


 麻美ちゃんも、既に将来何をやりたいかを決めているんだね。


「亜美姉も小説作家にならないの? きっと成功するよー?」

「小説作家……」


 中学生の頃は興味本位で書いたものが、あれよあれよという間に大ヒットしてびっくりしたものだ。

 誰にも言わずに、音羽奏はフェードアウトしていくつもりだった。


「小説作家かぁ」


 読書は大好きだ。

 でも、本を書くとなったらまた変わってくるのではないだろうか?

 今回、久々に書いてみるつもりではあるけど、その作品が完成する頃には、何か答えが見つかるかもしれない。

 私は麻美ちゃんに「考えてみる」とチャットして、ゲームを終えた。

 

「よし! まずはどんな小説にするかだね!」


 久しぶりにやる気になった私は、夜遅くまで頭を悩ませるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



「おふぁよー……」

「あ、亜美ちゃんおはようー。 休みだからってお寝坊さんは良くないよ?」

「うんー……遅くまで色々考え事してて……」

「そうなの? 夕也くんの朝食はもう作りに行ったよ?」

「ありがとう、ごめーん……」


 時計を見れば10時を過ぎている。

 今から朝ご飯を食べてもすぐにお昼寝ご飯だし、朝は抜こう。


「ふぁー」

「何を考え事してたの?」

「それは秘密……」


 私にだって、希望ちゃんや奈々ちゃんに言いたくない事はある。

 希望ちゃんは「そっか」と、あっさり引き下がってくれた。


「夕也くん心配してたよ? 顔見せるか連絡するかしてあげたら?」

「うん。 後でメールする」


 とはいえ、昼には夕ちゃんの家に行くんだけども……。

 しかし眠いよぉ。

 程々にしないとダメだね。

 ただ、おかげである程度の設定や話の内容は決まった。

 ここからは焦らずゆっくり筆を進めれば良い。

 締め切りなんてのも無いし、あの頃みたいに楽しみながら……。


「亜美ちゃん、何か楽しそうだね?」

「そう?」

「うん。 何だかワクワクしてるみたい」

「あはは。 たしかにちょっとワクワクしてるかも」


 希望ちゃんは「何か分からないけど、頑張って!」と応援してくれるのだった。

 この作品が完成したら、皆に打ち明けて最初に呼んでもらうのも悪くないかもしれないねぇ。

久しぶりに小説を書いてもらうことにした亜美。


「希望だよ。 小説かー。 私も本は読むけど、自分で書いたりはちょっと無理だね。 恥ずかしいし才能もないもん」

「やっぱ恥ずかしいよねぇ」


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