第266話 新キャプテン
日本へ帰ってきた亜美達は、引退する3年生からキャプテンを引き継ぐ事になるが、誰がキャプテンに?
☆亜美視点☆
さて、世界選手権を終えて日常に戻ってきた。
9月ももう、終わりに近付いてきた今日この頃。
我がクラスでは、秋の催しである月ノ木祭の出し物について話し合っていた。
去年はコスプレ喫茶をやったのだけど、今年は何をやることになるやら。
「はい、では何かやりたいものはありますかー?」
学級委員長が仕切る。
「フリーマーケットなんてどうかしら?」
おお、まともな意見が出たよ。
私はこれを推すよ。
「フリマね。 家からいらなくなったものを持ち寄るって感じでいい?」
「うんうん」
黒板にフリーマ-ケットと書き足される。
これなら変な衣装を着たりする心配はないね。
「どうせなら売り子はコスプレしようぜ」
と、男子のうちの1人がそんな事を口走る。
な、何でよ……。
「フリマでコスプレってあなたさー?」
「さすがに無いっしょ」
「これだから男子はー」
非難轟々。
しまいには、男子がコスプレして売り子すればいいとまで言われる始末。
これには提案した男子も降参。
提案を取り消し、引き下がるのであった。
内心ホッとしたよ。
希望ちゃんなんかは、コスプレと聞いただけで涙目になっている。
去年は、超ミニのメイド服を着せられていたからねぇ。
逆に紗希ちゃんは、コスプレには慣れているらしいので、どっちでも良いといった感じである。
「他にありませんか?」
しーん……
無さそうである。
という事で、今年はフリーマーケットに決定した。
しかし、私はそれだけではないのだ。
バレー部伝統の焼きうどん屋台も見なきゃいけないし、体育館を借りる申請を出して、奈々ちゃんとライブもしなきゃいけない。
そう、奈々ちゃんとのデュオライブを、月ノ木祭でやるつもりなのだ。
私のギターと、奈々ちゃんの歌を合わせたライブ。
ちょくちょく2人で練習しているので、その成果を皆に見せたいのである。
「そういえば、世界選手権中は練習出来なかったなぁ。 今度の休みにでもまた誘おうっと……」
◆◇◆◇◆◇
「フリマかー。 亜美ちゃん、何か出品する?」
HRが終了してすぐに、希望ちゃんが私の机の前にやってきた。
紗希ちゃんも話に加わる。
「私は着られなくなった服かなー」
「紗希ちゃんの服はどれもオシャレだもんね」
「普段着もだけど、コスプレ衣装とかもね」
着られなくなったコスプレ衣装を、フリーマーケットに出すつもりらしい。
売れるのだろうかと疑問に思ったが、意外と需要はあるのかもしれない。
「私も服とか小物かなぁ」
と、無難な返事をしておく。
「亜美ちゃんが着てた服とかって、男子に売れそうね!」
「あぅ……何に使うのそれ……」
「そりゃもうアレよ」
やっぱり変態的な使われ方するんだろうなぁ。
服を出すのはやめようかな……。
「お前ら何してんだ? 部活行かないのか?」
隣で鞄を片手に立ち上がった夕ちゃんが、不思議そうにこちらを見ながら言った。
「そだそだ、部活だ。 行こ、希望ちゃん、紗希ちゃん」
「おー!」
4人で並んで同じ体育館へ向かう。
そう、未だに同じ体育館で練習をしているのである。
特に私達バレー部は、夏の大会2連覇、春も優勝している。
専用の練習場所ぐらいは貰えても良いと思うのだ。
部員も増えて、はっきり言って狭いの一言。
噂では、敷地内に新しい体育館を建てるみたいな話を聞いたのだけど、私達が卒業するまでに完成するのだろうか?
「じゃあね夕ちゃん。 また後で」
「おう」
更衣室の前で夕ちゃんとはお別れして、ささっとユニフォームに着替える。
アメリカから帰ってきて初の部活である。
「そうだ。 亜美ちゃん達はまだ知らないっけ」
「ん? 何?」
着替えながら紗希ちゃんがそう言った。
「夏の大会が終わったから、3年の先輩達は引退するよね? 今日、新しいキャプテン決めるんだって」
「どうせ奈々ちゃんでしょ」
私はキャプテンって柄じゃないし、そういうのが得意な奈々ちゃんに丸投げぽーいだよ。
「まあ、私もそうだろうとは思ってるけどねー」
「中学の時も様になってたもんね」
そう。 中学の時もキャプテンを丸投げぽーいしていた。
副キャプテンは奈央ちゃんにお任せしていたし、私は雑用で良いよ。
◆◇◆◇◆◇
「今日もお願いしまーす!」
体育館に入ると、まずは整列して挨拶から始まる。
で、今日は3年生が引退という事なので、その話が始まる。
そもそも、大会が終わった時点で引退の筈だったのだけど、私達2年生の6人の内4人がアメリカへ行ってしまうという事で、今日まで先延ばしになっていたのだ。
現キャプテンは、今までついてきてくれた事への感謝と、全国制覇まで連れて行ってくれた事への感謝等述べて、話を締めくくった。
「それで、これからのキャプテンなんだけど……」
奈々ちゃんか奈央ちゃんのどっちかだよね。
「清水さん。 お願い出来る?」
ほらね。
「……え?」
奈々ちゃんはいつから清水の人間になったのかな?
いやいや、奈央ちゃんかも?
「亜美ちゃん……亜美ちゃんの事だよ」
希望ちゃんに肩をちょんちょんと叩かれる。
え? 私?
「えーっ?! わ、私、キャプテンとか向いてないですよ先輩!」
「いやー、そんな感じはするけど」
そんな感じするんだ……。
「うぅ……」
「実力や人徳を考えると、清水さんが適任かなーって」
「な、奈々ちゃんや奈央ちゃんの方が人をまとめるのは上手いかと……」
「はい! というわけで新キャプテンは清水さんに決定! はい! 挨拶!」
「そんなー……」
拒否権はなかった。
奈々ちゃんや紗希ちゃんはケラケラと笑いながら「早く挨拶しなさいよーキャプテン!」と、煽ってきた。
後でグラウンド20周させてやるぅ。
私は諦めて皆の前に立ち、新キャプテンとして挨拶を始める。
「えーっと。 今日からキャプテンをやる事になった清水亜美です。 人をまとめたりするのは奈々ちゃんに任せて、お飾りのキャプテンとして頑張っていきますので、よろしくお願いします。 あ、奈々ちゃんは副キャプテンに任命ね。 拒否権はないよ」
「はいはい。 謹んでお受けしますよー」
パチパチパチパチ……。
適当な挨拶を終えて拍手を貰う。
良いのかな、こんなんで……。
「ま、慣れない内は私も色々手伝ってあげるから、頑張りなさいよ? キャプテン」
「奈々ちゃんは後でグラウンド30周だよ!」
「何でよ?! 横暴よ!」
と、私達の新生月ノ木学園バレーボール部は騒がしいスタートを切る事となった。
「先輩方。 今までお疲れ様でした! 受験勉強頑張って下さい!」
最後に、引退していく先輩達に言葉をかけて、全部員で頭を下げて見送る。
先輩達は、涙を流しながら「ありがとう」と一言言って、体育館をあとにするのだった。
私が、新しいバレーボール部を守っていかなきゃいけないんだ……。
プレッシャーが背中にのしかかるのを感じた。
◆◇◆◇◆◇
ちなみに、バスケ部の新キャプテンは宏ちゃんらしい。
近々、体育館の使用日等について話し合いをする必要があるらしいけど、奈々ちゃんに丸投げぽーいっしようかなぁ。
奈々美ぬ丸投げする気満々だった亜美だが、何故かキャプテンに任命された亜美。
副キャプテンに奈々美を任命し、新生月ノ木バレー部がスタートした。
「奈々美よ。 あ、亜美がキャプテンってクスクス……あの子甘々だからねぇ。 下級生にナメられなきゃいいけど。 あーでも面白いわね。 しばらくイジって遊びましょ」
「グラウンド50周!」