第262話 限界
2セット目も中盤まで進んだ優勝決定戦。
弥生もオリヴィアとのマッチアップで互角に渡り合い、日本優勢。
☆亜美視点☆
弥生ちゃんがオリヴィアさんに勝った後は12ー8と、1セット目より余裕がある展開にはなっている。
このセットはこのまま押し切って3セット目に突入したいのだけど、希望ちゃんの息が上がってきているのが気がかりだ。
今はゾーンに入っているため、疲労は感じていないかもしれないが、ベンチに戻った時に一気に疲れが吹き出すかもしれない。
そしてそれは、弥生ちゃんにも言える事だ。
先程から、かなり動き回っている。
移動攻撃にバックアタック、一人時間差と奮闘しているが、点を重ねると同時に体力をどんどん消耗しているのだ。
「折り返しだよ! このセットも取るよ!」
「おう!」
と、返事するのは希望ちゃん以外のコートメンバー。
希望ちゃんには多分、声が届いていない。
「弥生ちゃん、疲れはどう?」
「まだ行けるで。 とはいっても、3セット目以降を考えたら、もうあんまり派手には動けへんけどな」
「そっか」
やっぱり弥生ちゃんも結構消耗しているみたいだ。
となると、ここは私が少しでも点を取らないとね。
「妹さんナイサー!」
とりあえず、試合を進める。
妹さんは得意のフローターサーブで、諦めずにフォーメーションを乱す事を狙っている。
ここまで、あまりうまく崩せてはいなかったが、この場面で遂に功を奏した。
急激に軌道が変わり、リベロが慌てて手を伸ばすもワンハンドレシーブになりレシーブが崩れた。
更にその先にいたOHの選手が、慌ててアンダーでボールを上げて、とてもじゃないが強打は出来なさそうな状態になる。
「ここ止めるよ!」
しかし、その打ちにくそうなボールにオリヴィアさんが跳び付いた。
強引に打ってくるつもりだ。
「せーの!」
倉橋先輩と一緒にブロックに跳ぶ。
オリヴィアさんは難しいボールを、力一杯スパイクしてきた。
あんなボールでもここまでの強打が出来るなんて。
私のブロックでは止まらずに、少し威力を弱める程度にしかならなかった。
「ワンタッチ!」
「っ!」
即座に反応した希望ちゃんが、ギリギリでダイビングレシーブを決めていた。
今日は何度もこのプレーに救われている。
でも、これ以上は希望ちゃんの体力的にもきついはず。
無理させてごめんね。
「上げるで!」
黛妹さんがセットに入る。
よし、希望ちゃんと弥生ちゃんの頑張りに応えなきゃ。
今日何度目かの全力ジャンプ。
オリヴィアさんとのマッチアップも何度目か。
「はっ!」
今回もオリヴィアさんのブロックを越えた高度からのスパイク。
今回の勝負も私に軍配が上がり、リードを広げる。
「よしっ」
小さくガッツポーズをして振り返ると異変に気付く。
「はぁ……はぁ……はぅ」
「雪村さん大丈夫?」
「立てるか雪村さん?」
希望ちゃんがダイビングレシーブした状態のまま立ち上がっていなかったのだ。
大きく肩で息をして、明らかに体力の限界である。
「集中力切れちゃったか……」
「だ、大丈夫……このセットはなんとか」
ゆっくりと立ち上がろうとするも、床に着いた手がプルプルと震えている。
ここで監督がタイムアウトを取ってくれた。
ナイスタイミングだ。
「雪村、とりあえず今は下がれ。 3セット目4セット目があるかもしれん。 上野に任せて少し休んだ方が良い」
「……はい」
希望ちゃんは一旦ここでベンチへ。 セカンドリベロの上野先輩が代わりにコートへ入る。
「雪村さん。 あとは任せて」
「お願いします……」
希望ちゃんは頭からタオルを被り、スポーツドリンクを手にして俯いてしまった。
お疲れ様だよ。
「よーし! 頑張ってくれた希望ちゃんの為にも、このセットは絶対に取るよ!」
「おうっ!」
13-8で試合再開。
妹さんのサーブ継続。
執拗にフローターサーブを打ち続けるが、今回は綺麗に拾われてしまった。
オリヴィアさんのクイックにブロックがついて行けず、ここで点を取られる。
その後も取ったり取られたりで16-10でテクニカルタイムアウトに入る。
「良いぞ良いぞ」
監督もこの2セット目の展開にはご満悦。
私と弥生ちゃんが点を取れるようになったのが非常に大きい。
といっても、私も弥生ちゃんも全力でやって、やっともぎ取れるレベルだ。
このプレーも長くは続かない。
「ええわ。 このセット残りはウチがなんとか点取るわ。 亜美ちゃんは3セット目の為に温存しとき」
「でも……」
「それやったら私もちょっと踏ん張るで」
弥生ちゃんと黛姉さんがやる気になっている。
私をここで温存して3セット目は私を中心に攻めていこうという事なんだろう。
たしかに、このまま2人で頑張って同時に潰れるよりはいいかもしれないけど……。
「別にウチが1人潰れたって、切り札がおるやん?」
奈々ちゃんの方を向いてそう言うと、奈々ちゃんは──。
「ま、当初の予定でも2セット取ってからの勝負のセットで出るって話だったし」
「作戦通りということですわね」
「ほな、それでいこか」
と、勝手に方針を決めてしまい、立ち上がってコートへ戻っていく弥生ちゃん。
潰れるなら別に私でも良いのにどうして……。
「いくで、亜美ちゃん」
「うん」
考えても仕方ない。
決まった通りに、このセットの残りは温存していこう。
◆◇◆◇◆◇
「おりゃっ!」
「っ!」
宣言通り、弥生ちゃんと黛のお姉さんが頑張って点を取ってくれている。
上野先輩もさすがで、希望ちゃんに負けないくらいボールを拾ってくれていて、2セット目もセットポイントまでやってきた……。
「これで、打ち止めやっ!!」
ピッ!
弥生ちゃんが最後の力を使い切って決めてくれた。
スパイクを打ち終わって決まったのを確認すると、弥生ちゃんはへたり込んでしまった。
どうやら本当に限界のようだ。
私が手を差し出して立ち上がらせると、反対のコートからも手が伸びてきた。
「?」
「オリヴィアさん?」
「You are super player!」
どうやら弥生ちゃんを称えているようだ。
弥生ちゃんは笑顔で「さんきゅー」と返事し、私に連れられてベンチへと戻った。
ベンチの横では、奈々ちゃんと奈央ちゃんがアップをしながら待機していた。
「お疲れ弥生」
「あとは私達に任せてください」
「頼むでぇ……ウチは疲れた。 もう限界や」
と言うが早いか、ベンチにドカッと腰を下ろした。
これで希望ちゃんと弥生ちゃんがダウン。
黛のお姉さんはどうやらまだまだ大丈夫そうだ。
「よし、3セット目、勝負のセットだ。 藍沢、西條、行けるな?」
「はいっ」
「このセットで世界一を決めてこい!」
「サクッと決めてきますよ」
何だか凄く自信満々だけど、一体どんな切り札を用意しているんだろう?
オリヴィアさんにも通用するような凄い物なのだろうか?
「亜美も温存できたんでしょ? 無理のない程度で良いから跳んでちょうだい。 私だけで25点は取れないからね」
「そ、それは当たり前だけど……そんな凄い技でも覚えたの?」
「技って程大したもんじゃないけどね。 通用するかもわからないし」
「なんや、切り札の割には頼りないやん」
「うっさいわねー。 使えなくなった人は黙って見てなさいよ」
「ひどいやっちゃなぁ」
「貴女達、行きますわよ」
インターバルは終了。
勝負の3セット目のコートへ向かうのだった。
全ての力を使い果たした希望と弥生は限界を迎えてベンチへ。
3セット目は奈々美と奈央が切り札を引っ提げて参戦する。
「紗希よ。 アメリカ戦、テレビで観戦してるよー。 皆頑張れ―! って、希望ちゃんと月島さんダウンしちゃったじゃん……
奈々美ー奈央―いけー!」
「もうちょっと静かに見れないのかい……」




