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第260話 世界一のOH

アメリカチームとの試合はまだ序盤。

リードは奪えているものの、余裕の無い展開。

 ☆亜美視点☆


 試合は始まったばかりで2-3となっている。

 そして、試合開始直後にも関わらず、希望ちゃんが極限の集中状態であるゾーンに入ったっぽいのである。

 弥生ちゃんも兆候あるし、ゾーン祭になる可能性がある。

 ただ、あの状態は極限まで集中しているため、非常に体力を消耗するのだ。

 こんな序盤から全開になってしまったら、1セット目が終わる頃にはもうへとへとになってる可能性があるよ。

 今の希望ちゃんは確かに頼もしいけど、早々にバテて上野先輩と交替となると少しピンチだ。

 かと言って、この最高の状態の希望ちゃんの集中状態を切らすのもあまり良くないし……。


「どうしたものか……」

「ほら、清水さんのサーブよ」

「あ、うん」


 ローテーションで今度は私のサーブだ。

 考えても仕方ない。

 希望ちゃんはリベロ。 前衛に移動したときは宮下さんと入れ替わりでベンチに下がるから、意外とそのタイミングで集中力切れていつも通りに戻るかもしれない。


「先の事はわからないだね」


 さて、サーブだけどどうしようねぇ。

 多分、アメリカにも私の十八番はバレてるだろうし……。

 うん、普通で行こう。


「セッターさんにお届けだよー」


 助走しながらボールを上げてジャンプサーブ。

 狙い澄ましたサーブは、ネットを越えてアメリカコートの方へと飛んで行く。

 セッターの足下、 少し拾いにくい場所に落としていく。

 セッターさんは少し前のめりになり、手を伸ばして拾う。

 かなり上手く崩せたんじゃないだろうか。

 無理な体勢で拾ったボールはクルクルとバックスピンのかかった低いボールになっている。

 これを正セッターじゃない人が綺麗に上げることは難しいだろう。

 例えそれが、世代トップクラスのチームのメンバーであっても。

 やはりというか、トスを上げることを諦めてアンダーでボールを上げる。

 高さも位置も微妙なボールをオリヴィアさんが打ち込んでくる。

 さすがに助走もできなかったので、威力も半減。


「……」


 無言で拾っているのは希望ちゃん。

 やっぱりゾーンに入ってるね。


「うはぁ! なんちゅう最高のレシーブや」


 黛の妹さんが嬉々としてボールの落下地点に入る。

 変な回転も掛かっていなくて、高さも十分。

 お姉さんも既に走り出している。

 さらに倉橋さん、弥生ちゃんもテンポをズラして後出しジャンケン要員になる。

 私達後衛はフォロー。

 妹さんは、相手のコートを一瞬確認したあと弥生ちゃんの方を一瞬チラッと見てトスを上げる。

 これは麻美ちゃんが指摘した癖だね。

 後出しで上げられたトスは、当然弥生ちゃんへ。

 

「おりゃ!!」


 ブロックが1枚、弥生ちゃんを警戒して跳んでいたが、空中戦も上手い弥生ちゃんを止めるには足りない。

 弥生ちゃんの強烈なスパイクは、相手リベロとセッターの間に見事に突き刺さる。

 完璧な一撃だ。

 やっぱりこの後出しは反則的な強さである。

 私達月ノ木学園も、麻美ちゃん無くして攻略できたかどうか。


「これで2-4やな。 せやけど……」

「せ、せやけど?」


 弥生ちゃんは少し不満そうだ。

 そして、その理由はすぐに分かった。

 弥生ちゃんは、その視線をアメリカコートの方へと向ける。 正確には、アメリカコートにいるオリヴィアさんにだ。

 試合開始してまだ間もないとはいえ、私も弥生ちゃんも、オリヴィアさんのブロックに完全に止められたままである。

 オリヴィアさんは黛のお姉さんをマークしてブロックに跳んでいるから、弥生ちゃんとのマッチアップはあれっきり発生していない。

 オリヴィアさんとの勝負で勝てないと、気が収まらないんだよね?


「亜美ちゃん、次もいいサーブお願いね」

「お任せだよ」


 このサーブでもう1点欲しいところだ。

 なら狙いはさっきよりも厳しい所。


「なら、ここはどうだ!」


 私はいつものようにジャンプサーブを放つ。

 今度のサーブは先程よりも威力を上げてスピードを出している。

 そして狙いはコートの右隅の角の角。 ライン上だ。

 拾われなければサービスエースで問題無し、拾えてもかなり乱れるはずである。

 私の十八番サーブがライン上を狙ったスナイプサーブだという情報は、今大会中に各国に知れ渡ってしまっているはず。

 なので当然、際どいコースに飛んで行ったサーブは……拾わざるを得ない。


「AH!」


 案の定、コースを見て際どいと思ったレフト後衛の選手が、コースに入って無理矢理レシーブ。

 腰より高い位置にあるボールをレシーブするのは意外と難しい。

 上手く手首付近で拾いにくいのだ。

 結果的には肘の辺りでレシーブされたボールは上手く上がらず、低い弾道で上がる。


「さすが清水さんやで」

「恐ろしいことこの上ないわ……」


 チームメイトからも恐れられている……。

 さて、アメリカチームはというと、そのボールをなんとかセッターが上げる。

 かなり遠い位置から上げられたトスは、これまた打ちにくそうではあるが、それでもオリヴィアさんがスパイクを打つために跳び上がる。


 倉橋さん、弥生ちゃんも合わせてブロックに跳んだ。


「HA!」


 パァンッ!


「くっ! ワンチッ!」


 あの微妙なトスをあの威力で打ち抜いて来るなんて、なんてプレーヤーなの……。

 オリヴィアさんの放った強烈なスパイクは、2枚ブロックを突き抜けてこちらコートへ突き刺さる……かと思われたが、これに対してもゾーン状態の希望ちゃんが追い付いて拾っている。

 とんでもない反応速度と動き出しだ。


「雪村さん、なんやの!?」

「ゾーンっちゅうやつやろ」


 妹さんが、セットに入る。


「こっちや!!」


 弥生ちゃんがトスを要求している。

 試合の勝ち負けより、オリヴィアさんとの勝負の勝ち負けに拘ったようだ。

 一瞬迷ったような妹さんだけど、仕方ないと言った感じで弥生ちゃんにトスを上げる。


「そう何度も止められてたまるかっ!」


 弥生ちゃんの渾身の一発。

 オリヴィアさんも跳び上がってブロックを作る。

 やっぱり高い。

 弥生ちゃんの打点より高い位置から、余裕を持ってボールを叩き落とした。


「っ……」


 トン……トン……


 自コートでバウンドするボールを、悔しそうに見つめる弥生ちゃん。

 手を握り込んで少し震えているようにも見える。

 これはかなり憤っているようだ。

 相手は世代最強のブロッカーとはいえ、ここまで完膚なきまでに止められるとは思っていなかっただろう。

 パワーでは負けていないし、空中でのテクニックだって弥生ちゃんの方がある。

 単純な高さだけで負けているのだ。 弥生ちゃんも……私も。


「すまん皆。 次や次!」


 弥生ちゃんは、また顔をパンッと叩いた後でそう言った。


「もうアレとの勝負には拘らん。 試合で勝つことを優先するで」

「はいよー」


 弥生ちゃんは勝負を捨てたようだ。

 本当は悔しいだろうし、自分の手でオリヴィアさんのブロックを抜きたいと思っているはずなのに。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 その後の攻撃は希望ちゃんがまたファインレシーブを決めて、姉妹の連携ですぐに取り返す。

 この連携が無ければ、ボロボロにやられていたに違いない。

 ここで希望ちゃんは前衛に移動するため、宮下さんと交替でベンチへ。

 希望ちゃんは相変わらずゾーン状態。

 ベンチでもその集中状態を維持するのかどうか。


「はいはいー。 監督から伝言。 今のままで行け。 月島は行ける時はどんどん行け、試合の結果は大事だが、お前の拘りも大事だ、だそうだよ」

「ははは……せやかて」

「じゃ、行けそうな時は月島さんにもトス回すで」

「が、頑張ってみるわ」


 そして、その後のこちらのサーブはオリヴィアさんに決められて、相手サーブは後出し攻撃で宮下さんが決める。

 

 現在は私が前衛に移動してきたところだ。

 点数は5-7でわずかにリードしている。

 まだ希望ちゃんがコートに戻ってきていない為、防御力は少し心許ない。 さらに黛のお姉さんと弥生ちゃんも後衛だし、高速連携の威力も少し下がる。

 ここが正念場。


「亜美ちゃん。 わかってるやろうけど、このフォーメーションの時に点を取れるかどうかが肝やで」

「うん」


 それは弥生ちゃんもわかっているようだ。


「あんさんは、今間違いなくウチらの世代日本一のOHや」

「……」


 弥生ちゃんが、ライバルの私にそう言った。

 認めたくはないだろうけど、はっきりそう言った。


「あんさんがアレを抜けへんかったら、ウチらは誰も抜けへん。 頼むで」

「……うんっ」


 燃えてきたよ。

 そこまで言われちゃあやるしかない。

 今、オリヴィアさんは後衛。 私とマッチアップするとしたら、次アメリカがローテーションした後だ。

 そして、その機会はやって来た。

 アメリカの攻撃を通されて6-7。

 アメリカ側のサーブ。

 アメリカのメンバーは皆が皆、小細工無しのパワーサーバー。

 今回も類に漏れずそうだった。


「っとぉ!」


 弥生ちゃんが体勢を崩しながらも、なんとか上に上げることに成功した。

 

「ほないくで!」


 私と、宮下さん、後衛では体勢を立て直した弥生ちゃんも助走に入っている。

 だけど、ここはもう私を使うつもりでいる妹さん。

 高い高いトスが上がる。

 オープン攻撃にはオリヴィアさんが跳びついてくる。

 世界一のブロッカー──。


「さっきは負けたけど……」

「いったれ! あんさんは世界一のOHや!!」

「あれが全力じゃ……」

「Oh?!」


 私の全力のジャンプは、オリヴィアさんの高い高いブロックのそのさらに上を行き──。


「ないんだよっ!!」


 パァンッ!!


 邪魔の入らない高さからのスパイクは、相手コートのライン上に突き刺さった。

亜美、意地の全力ジャンプを見せて一矢報いることに成功。

世界一のOHへと成長を遂げる。


「奈々美よ。 いやー、解説はとりあえず終わりね。 それにしても亜美も中々やるわねー。 世界一に相応しい選手だわ。 私も早くコートに立ってあのブロッカーと勝負したいわね」


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