第238話 台風
夏休み中にもかかわらず学校へと来ている奈々美と夕也。
何故かというと?
☆奈々美視点☆
夏休み中であるにもかかわらず、私は学校へ来ている。
というのも、学校の草むしり当番に当たってしまったからである。
こんなの業者にやらせなさいよまったく。
クラスから2名ずつ、くじ引きで選出された草むしりメンバーの中には、B組の夕也も混じっていた。
他の生徒とはあまり絡んだことが無いので、夕也の近くで作業をすることにした。
「あんたも私も、くじ運無いわねぇ」
「そうだなぁ……つうか暑い」
それはそうだろう。 なんて言ったって真夏の昼下がりである。
熱中症で倒れちゃうわよこんなの。
「そういえば台風対策してる?」
「あー。 亜美と希望が何かやってくれてるっぽいな」
「そう」
実は、今晩から明日にかけて、台風が近付いてくる予報となっている。
今のところ風もそんなにないし、早いとこ終わらせて帰りたいところね。
傘なんかも持って来てないし、もし台風は直撃なんて事になれば帰れなくなっちゃうわ。
◆◇◆◇◆◇
で、何故かそうなってしまいましたとさ。
「何でよ! 今晩からって予報で言ってたじゃないの!」
「知らんがな……」
時間は夕方になろうかというところ。
予報では夜ぐらいに関東上陸と言っていたので、草むしり中は大丈夫だと思っていたのに。
「今見たら、急に速度が上がったらしいなぁ。 ちょうど今強風域に入ったとこくらいっぽいぞ」
「くじ運だけじゃなかったわねぇ、悪かったのは」
まったくどうなってんのかしら。
とりあえず、数人の生徒は校舎に避難してきている。
家が近くの子や、車での迎えがある子は、なんとか帰宅したようである。
「はぁ……私達は助けに期待できないわねぇ」
「だなぁ」
夕也は1人暮らし、亜美の家も私の家も車は無いし。
台風が通り過ぎるまでは、校舎で過ごすしかないわね。
窓の外を見れば、強風で木々が大きく揺れ、強烈な雨が大きな音を立てて窓を叩いている。
いつまで続くのかしら。
「ここにいても仕方ないし、教室にでも行きましょうか」
「そうだな」
ということで、私達は2-Aの教室へ向かった。
帰れなくなった生徒達の何人かは、家庭科室に集まっている様である。
教室へとやって来た私は、自分の席に座り家に連絡を入れる。
「あ、もしもし麻美? 今まだ学校なんだけどさー。 えぇ、大丈夫。 ただ、雨風が収まるまではちょっと帰れそうにないのよ。 えぇ、だからお父さん達に伝えておいて。 うん、じゃあまた」
隣を見ると、夕也も亜美達に連絡しているようであった。
向こうは向こうで、希望が怯えて大変らしい。
あの子らしいわ。
「げっ……上陸して速度が一気に下がったみたい」
なんて意地悪な台風なの……。
「下手したら今日は学校に寝泊まりだな……」
「その可能性高そうね……となると、夕食とかどうするのかしら? まさか学校に備蓄なんて無いわよね? 食堂もやってないし……」
「晩飯は諦めた方が良いかもしれんな」
「そうねぇ……一旦家庭科室で、残った生徒と話し合ってみましょうか」
「そうすっか」
ということで、家庭科室へ移動して情報を集めることに。
「あ、藍沢さんと今井君」
「あら、結構立ち往生してるのね」
パッと見7人いる。
これで全員かしら。
夕也が口を開いた。
「今日は下手したら学校に泊まる事になるかもしれない」
「やっぱりそうよね」
C組の子が顎に手を当てて困ったような表情で言う。
どうやら、この場でもそのことについて話し合っていたそうだ。
「夕食をどうするかって言うのが最大の論点なんですよ」
1年生の子がそう言った。
やっぱこっちでもそこに頭を悩ませているようである。
「家庭科室の冷蔵庫には何か?」
一応訊いてみるも、首を横に振る皆。
ま、そうよね。
「で、今話し合ってたのは、誰かが学校の前のコンビニまでびしょ濡れになりながら、お弁当と飲み物を買い行けばよくないかって」
「うわぁ、中々鬼畜ねぇ」
一応、月学正門を出れば、目と鼻の先にコンビニがある。
あるにはあるが、この暴風とどしゃ降りの雨である。
危険極まりなし。
そんな危ない事したりさせたりするぐらいなら、夕食なんていらないわ。
「じゃ、俺が行くか」
「……ちょ、夕也?!」
「今井君?! 話し合いはしたけど、危ないしやめようって事に……」
「別に構わねぇよ」
「構わなくないわよ! 外見てみなさいよ! どう見たって出歩ける状態じゃないでしょうが!」
「そうですよ先輩!」
女子達で必死に夕也を止めると、夕也も「わかったわかった」と言って取りやめてくれた。
まったくこいつは……。
「じゃあ、夕食は諦めるってことで良いわね」
「OK」
という事で話はまとまった。
水分は皆自参してきているので、名前を書いて家庭科室の冷蔵庫へ入れておく。
シャワーは屋内を通っていけるので、女子と男子で時間を分けて使用するなど、色々と決めた。
寝る時は集まった方が良いかという話になったけど、私はパスした。
そうして、時間は過ぎていく。
時刻は夜の22時。
暇なのでコンピューター室でネットサーフィンをしていたのだけど、そろそろ寝ようかしらね。
そう思ってパソコンを立ち下げる。
「さて、どこで寝ようかしらね……」
学校なので部屋は一杯ある。 より取り見取り、選びたい放題。
尚、どこも大して変わり映えしない模様。
「はぁ……夕也はどこかしら?」
コンピューター室を出て、夕也を探してみることにする。
B組の教室を覗いてみたものの、人影は無し。
はて、他に夕也が良そうな場所は……。
◆◇◆◇◆◇
ダン…ダン…
シュッ……
「ナイシュー!」
「うぉ……」
体育館へ来てみたら、ビンゴってやつね。
夕也はバスケットボールのフリースローをやっていた。
バスケバカねぇ。
「どうしたー? 1人で寝れないのかぁ?」
「そうなのよねぇー。 一緒に寝ましょうよー」
などと、冗談を言い合う。
外は相変わらず雨風が強く、窓を叩く音がうるさい。
「夕也はどこで寝るのよ?」
「ふふふ……学校で唯一ベッドがある部屋があるだろ」
「ああ、保健室! じゃあ私もそうしましょ」
「なんだよ、本当に一緒に寝るつもりか?」
「別にいいじゃない? たまには」
夕也は「しょうがねぇなぁ」と、ボールを籠に片付けて体育館を閉める準備をする。
体育館の鍵を閉めた後で、保健室へ。
夕也は自分のベッドに座り、早速寝る体勢に。
「つれない奴ねぇ」
「何がだよ」
「隣にこんな美人な幼馴染の女子がいるのよ? ムラっとこないわけ?」
「あのなぁ……お前にも俺にも恋人がいるだろ? 何言ってんだよお前は」
夕也は呆れたような顔でそう言った。
「ふふふ。 でもねぇ、あんたとなら私は構わないわよ?」
「はいはい……もう寝ろ」
ぬーん……これだけ言って相手にされないと何かムカつくわね。
冗談のつもりだったけど、ちょっと意地になって来たわ。
こうなったらヤッてもらおうじゃない!
「暑いわねえ……」
「そのうち空調が効いて……お前、何脱いでんの?」
上着を脱いで下着姿になって誘惑してみる。
「お前何してんの?」
なんか反応がいまいちね。
これはもう、力づくでその気にさせてやるしかないわね。
「ちょっ……お前……こっちくんな! んっ?!」
「んんっ」
無理矢理押さえ込んでキスをしてやる。
これでちょっとはその気になるでしょ。
ん? あれ? ちょっとやりすぎちゃったかしら?
まぁ宏太なら許してくれるわよねぇ。
「んは……ねぇ、一晩だけ浮気してみましょうよ」
「お前、どうしたよ……」
夕也は困ったような表情で私を見る。
最初は冗談だったけど、意地になってるうちに火が点いてしまったというやつである。
実際、夕也となら構わないと思っている。
ここまでやって拒否されるなら、それはそれで構わないけど。
「どうすんの、夕也?」
選択を夕也に委ねた。
意地悪な台風に見舞われた2人は学校で一夜を共にすることに……。
「遥だよ。 大変だねーあんた達。 って言ってる場合じゃないな。 私の部屋も台風対策しておかないと。 あんたら程々にするんだぞー」
「……」