第2383話 ゆりりんのライブ
姫百合凛のライブを楽しむ弥生。
☆弥生視点☆
今日、ウチと佐々木君は、ゆりりんの武道館ライブへとやって来とる。
何でか知らんけど、亜美ちゃんと西條さんも特等席チケットを貰っとったらしく、一緒にライブを見とる。
2人はウチや佐々木君と違うてドルオタやないから、曲に合わせた合いの手やらペンライトの振りを知らんらしく、さっきからペンライトを小さく左右に振ってるだけや。
「ハイ! ハイ! ゆりりんー!」
現在オープニングの曲中やけど、会場は既に熱狂状態。
ゆりりん親衛隊の皆はその完璧なオタ芸で、ライブを盛り上げる。
「凄いねぇ!」
「ですわねー!」
何や違う合いの手も混じっとるけど、まあしゃあないか。
「皆さんー! こんばんはー! 今日は私こと、姫百合凛の武道館ライブに足を運んでくれてありがとうー!」
「ゆりりんの為なら何処へでも!」
「あはは。 無理はしないでくださいね。 さて、武道館ライブは今回で3回目になりますねー。 いやはやありがたい限りです」
オープニング曲が終わり、開幕のトークが始まった。
ゆりりんは「トークはあまり得意じゃない」とか言うとったけど、こないして見ると普通にトークも出来とるように見える。
動画サイトを使った生配信で、雑談配信なんかもやるようになって鍛えられたみたいやな。
「じゃあ恒例の、今日の控え室でのお弁当のお話コーナー!」
「イェーイ!」
実はゆりりんのライブでのオープニングトークは、必ずこの「昼のお弁当」の話から始まる。
まあ「掴み」っちゅうやつやな。
「今日のお弁当は、〇〇屋さんの唐揚げ弁当でしたよ。 ソースかレモン汁かを選べるんですが、私はソース派なのでソースでいただきました」
「ふむふむ。 姫百合さんは唐揚げにはソース派なんだねぇ」
「新情報ですわね」
「何言ってんだよ。 ゆりりんがソース大好きなのはファン周知の事だぞ」
「そやで。 割と何でもソースをかけるらしくてな、自称『ソーサー』とかいう造語まで作っとるんや」
「ソーサーって、コーヒーカップとかを乗せる受け皿の事なんだけど」
「ですわね」
「まあ、マヨラーみたいなノリなんやろ」
話は唐揚げの話から、一緒に入っていたコロッケの話に移る。
コロッケにもしっかりとソースをかけて食べたらしい。
さすがはソーサーやな。
「お弁当の話はこれでおしまいです! では、このまま2曲目いきましょう! 初恋!」
2曲目の「初恋」が始まる。
ゆりりんのセカンドシングルやな。
まだ今程の絶大な人気は無かった頃の曲やけど、ファン人気はBlue Skyに次いで高い曲や。
バラード調の悲恋歌で、ちょいと切ない歌詞がグッと来るんや。
ゆりりんの曲はアップテンポで盛り上がる曲と、こういうバラード調のしっとりした曲が半々ぐらいあるんや。
こういう曲の時は、ウチら親衛隊も空気を読んで静かにペンライトを振るだけにするんが暗黙のルールや。
「うわわ、皆静かになったよ」
「親衛隊の結束力が怖いですわね……」
ライブ初心者の2人は、ウチら親衛隊の完璧なファンムーブにビビっとるみたいやな。
「こないなもん、歴戦のファンやったら当たり前や」
「そうだぞ」
「そうなんだね……」
「色々な界隈があるものですわね」
バラード調の悲恋歌っちゅうのは、盛り上がり優先になりがちなライブとかではあまり合わへんのやけど、ゆりりんは序盤の方にそういった曲を持ってきて、徐々にアップテンポな曲でギアを上げていきよる。
最近の定番のセトリやと、次はAmi d'enfanceやな。
これは、亜美ちゃんと藍沢さんが学園祭の演し物で披露した、2人の完全オリジナル曲をゆりりんがカバーしたものや。
これについては既にゆりりんからも公開されており、ファン間では周知されとる。
案の定、インターバルを介さずに連続でAmi d'enfanceに移行。
これもバラード調のしっとりした曲や。
亜美ちゃんはこの曲にはかなりの思い入れがあるらしいて、ちょっとテンションが上がってペンライトの振りが大きくなっとる。
まあ、自分で作った曲やさかい、思い入れは人一倍やろ。
所謂、恋歌やのうて身近な友人達との思い出やこれから歩む未来について歌った青春歌になっとる。
歌詞回しや表現なんかはさすが、伝説の小説家と言われる音羽奏こと亜美ちゃんが書いた詞だけあり秀逸なもんになっとる。
高校時代に書いた詞やからか、「大人になってからもずっと一緒に居たい」っちゅう願いが込められとるんが特徴やな。
そんな願いも今は叶って、「皆の家」には仰山の仲間が集まって賑やかな毎日を過ごしとるで。
「いつまでも一緒だよー♪」
パチパチ!
曲が終わると、ゆりりんは一旦ステージから吐けてバックダンサーやバンドの紹介が始まる。
この間にゆりりんは衣装替えと小休憩をするわけや。
「これが生ライブなんだねぇ」
「迫力が凄いですわね」
「そやろ」
「ゆりりんのライブはこっからだぜ。 曲調が少しずつアップテンポになっていくんだ」
「そや。 次は定番のセトリやったら──」
『めるてぃーきっす』
「だよな」
「まあ、恒例やな」
「そうなんだね」
「そういう定番ってあるんですのね」
「ゆりりんは特にそやで」
「だな」
他の人はライブ毎にガラッと変えてきよる事もあるけど、ゆりりんはそこまで大きくセトリを変えてくる事はあらへん。
多少順番が変わったりはするけどやな。
あと、デカい箱でのライブでは新曲の発表っちゅう形で最後に持ってくる事が多いんや。
今日はあるやもしれんな。
バンドやらの紹介が終わると、衣装替えを済ませたゆりりんがステージに戻って来よった。
衣装はここからのアップテンポ曲に合わせて、明るい感じの動きやすいドレスに変わっとる。
「はい! バックダンサーの方々、バンドの方々、いつもありがとうございます! ファンの方達にももうお馴染みのキャストですね!」
ゆりりんのバックダンサーやバンドは、毎回同じメンバーがやっとるんや。
ウチらファンは、当然知っとる。
バックダンサーの中には既に売り出し中のアイドルなんかも混じっとるけど、それでも毎回ゆりりんのバックダンサーとしてライブを盛り上げる役目を買って出てくれる子もおるんやで。
そっち目当てでライブに来る客もちらほら居るぐらいには人気や。
「さて。 実は来月、今住んでる家……あ、今はホームレスでした……」
「はははははは!」
いやいや、笑い事やないで。
来月、千葉の「皆の家」に引っ越す為に今まで住んどった家を売り払ったらしいけど、それがあまりにも早いタイミング過ぎてしばらくは住所不定アイドルになっとるんや。
「今お世話になってるホテルや漫喫から出て、新たな家に引っ越しをする予定です」
「おおー!」
「近くに友人が住んでいて、静かだけど賑やかな良い街、素敵なお家なので、今からとても楽しみにしています」
今までは一人暮らしやったゆりりん。
実は寂しかったと吐露した事もあり、賑やかな家には憧れるみたいやな。
ウチらも来月が楽しみやで。
ここからゆりりんのギアが上がるようだ。
「奈々美よ。 やっぱりトップアイドルは凄いわね」
「うん。 本当に普段とは別人だよ」




